ホワイト企業大賞人間力経営賞へのみちのり
有限会社アップライジング 代表取締役社長 斎藤 幸一 氏
さる9月12日(水)本年第3回目のお客様向け講演会を開催しました。
講師に、栃木県で中古タイヤ・アルミホイールの販売店を2店舗展開する有限会社アップライジング代表取締役社長斎藤幸一氏をお招きしました。アップライジングさんは、2017年2月「ホワイト企業大賞特別賞-人間力経営賞」を受賞されました。その後取材や斎藤社長への講演依頼が殺到、全国からベンチマークに訪れる見学者も絶えません。
注目される理由は、一見売上アップには関係ないと思われる、ご近所の清掃活動や小学生の登校見守り。その上、売上の一部を社会貢献の寄付に充てる、といった取り組みが社員教育の柱になっていることです。斎藤社長の人生を変えたエピソードから、普通の会社では中々踏み切れない、障がい者や薬物依存経験者等、訳あり社員の採用を積極的にする狙いを講演頂きました。レポート致します。
■ 講 演
みなさんご参加ありがとうございます。宇都宮から参りましたアップライジングの斎藤です。今回講演によんで頂いた甲野さんとは、3年前にネッツトヨタ南国さんにベンチマークに行った時からの縁です。私が尊敬して一番大切にしている言葉があります。森信三先生の「人間は一生のうちに逢うべき人には必ず逢える。しかも一瞬も早過ぎず一瞬も遅すぎることなく」。この名言通り、私は多くの人から学んで今があります。
【転機】
創業当所、何もかもうまくいかず借金は増えるは、経営に素人の私は何をしていいか迷っていました。そんな時にあの、東日本大震災が起きました。それまでは自分のことばかり考えるような人間だったので、ボランティア活動もしたことがなかったんです。そんなときに知り合いから被災地での炊き出しに誘われました。そこで僕の人生、生き方ががらっと変わりました。被災地の炊き出しでは、僕はラーメンを作れないので避難所へラーメンを配達する係りをやっていました。体育会系で元気だけはあるので「頑張って!」とか「元気出して!」とか声を掛けながらラーメンを配っていたら、おじいちゃんおばあちゃんが本当に喜んでくれてボロボロ泣いてくれたんです。「温かいラーメンも嬉しいけど、あなたのその気持ちが何より嬉しい」と言ってくれました。それを聞いた時に人が喜んでくれることってこんなに嬉しいんだと思いました。それで生き方が変わったんです。人の喜びはわが喜びだと。どうやったら人が喜んでくれるのかな、そんな生き方を始めました。
被災地でのボランティア活動から地元の宇都宮に帰ったときに、宇都宮には何も貢献してこなかったなと思いました。そんなとき、イエローハットの創業者鍵山秀三郎さんと出会いました。「ひとつ拾えば、ひとつだけきれいになる」という有名な言葉があるんですけれども、鍵山さんからいろんなことを教わりました。鍵山さんから「目の前に落ちているゴミひとつ拾えないで経営者が何を成し遂げられるんだ」と言われ、それから毎朝毎朝最低でも1つゴミを拾おうということを始めてみました。1つ拾うとその先にもゴミが落ちているので1日1つということはないんですけれども、地域のゴミを拾う活動を始めました。掃除に学ぶ会という団体が全国各地にあるんですけれども、宇都宮にもあって毎月第一日曜日は朝の5時半から駅前清掃をやってます。みんなで集まって掃除をしながら学ぼうよという団体です。そこにも参加するようになりました。
他にも、近隣小学校の通学路で、朝の挨拶運動を始めました。地域の安全は地域の企業が守るんだ、というくらいに思って活動しています。やっぱり挨拶はあったほうがいいですね。犯罪は起きにくいと僕は思います。あとは、小中学校の課外授業で「職業人に学ぶ会」と題して仕事の話しや元プロボクサーのときの話しなどをして、子供たちに夢を与えるような活動もやっています。
まだ何かできることはないかということで、児童養護施設を応援しようと思いました。親がいなかったり、訳があって育てられない、親が虐待をしている、そんな子供たちにお菓子を届けたり、僕の友達の猫ひろしさんを連れて行ったりとか、そんな活動をしています。あと栃木にBリーグの栃木ブレックスというバスケットボールのチームがあって、日本で一番有名な田臥勇太選手もいるんですけれども、こどもたち・職員をBリーグの試合に招待しています。
【本業で社会貢献】
いろんなことを始めたんですけれども、社会貢献について考え直してみたんです。社会貢献、世の中を良くしたい、世の中を悪くしたくない、これが原点なんです。そもそも働くっていうのはどういうことなのか?「はたらく」っていうのは「傍(はた)」を「楽(らく)」にすること、周りの人たちを幸せにすることなんだと思いました。仕事そのものが社会貢献でなければいけない、つまり会社で売上や利益をあげること自体が社会貢献になること。企業の本業としての社会貢献とは、社会的課題を解決することと社会的課題を生まないことだと思います。
こうした本業を通した社会貢献で、アップライジングではリサイクルという考え方でいろいろな貢献をしています。通常の中古タイヤ屋さんとアップライジングの違いというのをいろいろ考えてみました。
当社ではアルミホイール付きだったら何でも買い取る、というのをやっています。通常の中古タイヤ屋さんだったら4本揃っていなかったりとか、タイヤにワイヤーが出てたりすると買わないんですけれども、私たちはアルミの素材としても買っているんです。こうして、限りある資源を効率よく再利用する地球環境を考えた取り組みが大事だと考えます。
アルミホイールの修理というのもやっています。先程のは金属として再利用するという方法ですけれども、やっぱり商品として生まれてきたものは正しく商品として直したい、という思いからこれをやっています。例えば、アルミホイールにヒビがはいったもの、これは溶接してきれいに直す。ぐにゃっと曲がってしまったもの、これは専門の機械を使ってきれいに直す。買い替えが必要じゃないかと思われるホイールもほとんど新品同様になります。
更に、少しでも使えるタイヤは廃棄しないようにしています。車検と言う制度があって、ディーラーなどではタイヤが規定よりすり減ったら車検が通らないから新しいタイヤを買ってね、と言われてしまう。でもまだまだ使えるんです。アフリカとか東南アジアとかはまだまだインフラが整備されていなくて、土とか砂利の上を車が走っているんです。そうすると車は20キロ、30キロしかスピードが出せない。そういった国ではタイヤはパンクするまで履くので、日本の使われなくなったタイヤはまだまだ使えます。廃棄せずにコンテナに詰めて海外に送るということもやっています。
【就労困難者が戦力】
まだ何か世の中の困りごとがあるんじゃないかなと考えたときに、就労困難者と言われる方の中で、障がい者を雇用しようと思ったんです。障がい者の働く場所は少ない、じゃあ雇用したらその人たちのお役に立つんじゃないかなと思いました。でも僕は障がい者のことなんかさっぱりわからない、そんな人間が障がい者を雇用したらまずいんじゃないの、というときに施設外就労という方法を知ったんです。これは施設にいる障がい者が監督者と一緒に会社に来てくれて仕事をするという方法です。これなら大丈夫じゃないかなということで始めてみました。
会社のスタッフで、今ホイールからタイヤを剥がす仕事をやってくれている障がい者の方がいます。最初はタイヤを洗ってもらう仕事で来てもらったんですが、うちのスタッフが「タイヤ剥がしとかできるんじゃないですかね」と言ってきたんです。そのとき僕は「いや無理でしょ、機械を壊しちゃうかもしれないしホイールを傷つけちゃかもしれない」と思ったんです。ただ、やらしてみたらものすごく上手かった。1日100本とか200本でもタイヤを剥がすんです。驚きました。やっぱり彼らの能力を僕らが障がいがあるというだけで勝手に決めつけてたんです。
今では4施設から合計17名の障がい者の方が働いてくれるようになりました。最初は本当に申し訳なかったなと思います。困っている人を助けよう、就労困難者を助けよう。障がい者の方を雇用するだけで社会貢献になるんじゃないかな、そんなおこがましい考えだった。でも雇用してみたらものすごい戦力になってくれる、僕らができないような仕事をずっとこなしてくれたりとか、本当にサボらない。一生懸命な人がすごく多くて、障がい者の人達の能力のすごさに今さらながらに気づいたんです。それからは積極的に直接雇用に取り組みました。
そうこうしていると、日本だけではないと思ったんです。日本の困りごとを解決することも重要ですけれども世界を見ようと。
世界の途上国と言われるところは洪水や地震などの自然災害がなくても、食べ物がなくて大勢の方が亡くなっている。こうした途上国を支援でできることで何かあるんじゃないかと考え、タイヤの売上1本につき20円を支援していこうということを始めました。20円というのは途上国の子供たちの1回の食事代だと知ったからです。
寄付型の支援だけでなく、途上国の人達を雇用しようということを始めました。今はベトナム人の方が8人会社にいます。労働ビザで1名、技能実習生6名、アルバイトが1名います。技能実習生はホイールの修理、塗装を学んでいます。彼らは挨拶運動やごみ拾い、月に一度の駅前清掃にも参加してくれています。
技能実習制度は、その国にない技術や知識を日本で学んで、帰国したときにその技術や知識をその国に広めるというのが、本来の技能実習制度のあり方なんです。アップライジングで学んだホイールの修理の技術・知識をベトナムでどんどん広めてもらいたいんですが、まだまだこういった修理専門店がない。じゃあアップライジングがベトナムに進出して修理専門店をやれば、彼らが帰ったあとにそこで技術・知識を拡げてくれる。そう思って今アップライジングベトナムを立ち上げようという計画もあります。
さらには高齢者の方の雇用や児童養護施設出身の方や薬物依存者、いわゆる社会的弱者と呼ばれるような方の雇用も積極的に進めています。中でも私が採用を迷ったのが、元暴力団の構成員だった方。2つの組から足を洗っていますので、けじめで指がなくなっています。私が彼の責任を取ると覚悟を決め採用しました。今では誰よりも一生懸命働いてくれています。当社は慈善事業ではないので、彼らをボランティア的に雇用するのではなくしっかり教育して完全な戦力なってくれています。生活保護を受けていたような人たちが働いて納税者になることで地元も日本もどんどん良くなる、おかげ様で売上も右肩上りで好調です。みんなが良くなっていくそんな三方良しの会社にしていこうと思っています。
インサイト No.56
2018年12月20日