社員の離職を防ぐために取り組むべきこと

アップ人事合同会社 代表社員 永森延和

大学卒業後、製紙会社、損害保険会社に勤務。
2011年 社労士登録。
2014年 保険会社に勤務しながら開業  2016年より社労士業に専念
2018年 人事に関するコンサルや研修・講演が増えてきたため、アップ人事合同会社を設立

長い会社勤務の経験から、経営者側・従業員側双方の視点からの支援が可能。
人事に関する制度設計や評価・賃金テーブルの構築、
労務管理面や、ハラスメントやメンタル対策の相談を多く受ける。
「従業員を採用するときに読む本」(共著)
社会保険労務士、キャリアコンサルタント、ファイナンシャルプランナー(AFP)
菓子食品新聞社 相談役

■ 寄 稿

はじめに

多くの会社が採用にかなりのコストをかけていると思います。ネットを使った場合、安くても20万円以上はかかるのではないでしょうか? それで応募があればいいですが、今は全く反応がないことも珍しくありません。さらに有料人材紹介会社を利用すると、半年分の人件費を紹介料として支払わなければならない、とか。大変大きな金額ですが、人を採用するコストはそれだけでなく、さらにそこから戦力化するための育成コストまで考えると莫大な金額になってきます。そこまで費用をかけたにもかかわらず、入社後すぐに退職されてしまうのは、会社にとっても、従業員にとっても残念でなりません。
そこで社員の定着率を上げるために何をするべきか、を理論ではなく、私の経験してきたことも含めてここで考えていきたいと思います。

社員が辞めたいと思う理由

それでは社員が会社を辞めたくなる理由にはどのようなものがあるでしょうか? もちろん理由は個々人により様々ですが、だいたい次のようなものではないかと思います。

  1. 労働条件が悪い。また仕事の量が多すぎる。
  2. 給料が安い。
  3. 自分がやりたい仕事内容ではない。
  4. その会社で自分が成長できるかどうか、不安。
  5. 会社の将来が不安。
  6. 人間関係でトラブルがあったり、孤独感を感じる。メンタル面で参っている。
  7. 自分が正しく評価されていない。
  8. 会社の雰囲気が何となく合わない。
  9. 他に自分に合ったいい仕事があった。

他にも理由はあるかもしれません。

ところで上記のような気持になったとき、皆さんならすぐに会社を辞めますか?
例えば給料は低いけど休みが多く、休日は自分の趣味の旅行ができる、とか、あるいは今は自分のやりたい仕事ではないけど、それでも苦手な仕事に取り組んでいることを会社側が評価してくれている、とかがあれば、もう少し今の会社で頑張ってみようと思うこともあるのではないでしょうか?
私が読んだある本では、会社を辞める理由は一つではない、と書いてありました。つまり上記のような理由が複数重なってきたときに「辞めたい」という気持ちが強くなってくるのだと思います。会社として今はこの給料が精一杯、だとか、業界的に厳しく生き残りに必死、など経営的にすぐには対応できない状況もあるでしょうが、その状況を打破するためにも「人財」は大事です。従業員にとっての魅力を考えることも、優先順位は低くないと思っています。

社員が辞めにくい会社

せっかく高いコストをかけて採用した社員がすぐに辞めていくのは、お互いに不幸だと考えています。採用した社員を長く育て、いずれは幹部社員にしていきたいと思う人材もいるはずです。そのためにはやはり上記の「辞めたい理由」をつぶしこんでいくことではないでしょうか? 「そんなに簡単ではない」との声が聞こえそうですが、大切なことは「社員のモチベーション」だと思っています。私が考える対策を少しだけご紹介します。
例えば「労働条件が悪い」「自分がやりたい仕事ではない」という不満はどこの会社の社員でも感じていることだと思います。それを例えば酒の席での愚痴に終わらせるのではなく、会社の上司との面談等を通じて会社にもの申せる仕組みを作りましょう。もちろん社員の不満を聞いても改善できること、できないことがあるでしょうが、会社と問題意識を共有化することにより一体感を作ることが大切だと私は思います。これは社員の顔が見える(社員からは経営者の顔が見える)中小企業のほうが有利ではないでしょうか。
また「給料が安い」も簡単なことではありませんが、例えば評価制度と賃金テーブルを整備することにより、何を頑張ればどういった評価になり、どのくらい給料が上がり、将来の年収が見えてくるようになれば、社員のモチベーションも上がってきませんか?

社員が辞めそうな個々の要素よりも、その背景に着目することに解決策はありそうに思います。これは実際に私がサラリーマンとして感じてきたことです。

会社に取り組んでいただきたいこと

  1. 会社説明会

    すぐにでも人が欲しい状況の中で、採用面接即合格、明日入社ということが行われていないでしょうか? ミスマッチの最初がこの段階で発生すると思います。ハローワークの求人票や求人サイトだけでは会社の雰囲気などはわかりません。採用面接(試験)の前に必ず会社説明会を実施いただき、仕事の内容等具体的に説明すると同時に、会社の雰囲気や社長(先輩社員)の人柄も感じてもらうことが必要だと思います。

  2. 役員・管理職・ベテラン社員研修

    皆さんの会社には管理職はいますか? いないまでもベテラン社員はいて、後輩の指導を行っていると思います。その方々にリーダーとしての研修は実施されましたでしょうか? 何となく「経験が豊富だから」「仕事を任せられるから」といった目線で任命しているのではないかと想像します。それは間違っていませんが、一方でリーダーは組織全体が見えなければなりません。リーダーの守備範囲は広く、リーダー職が機能しないと、社員が思うように動けません。ぜひ研修を取り入れてください。

  3. 社員との面接制度の導入

    小さな会社ほどお互いに顔が見えるため、気心が知れている、と思われがちです。
    しかしリーダーと一般従業員では考え方、見え方、感じ方が当然異なります。年に数回はしっかりと面談の場を用意して、会社や部署の課題を共有化するとともに、個々の社員に求められる役割を明確にすることで自分の立ち位置を認識できるのだと思います。そこで各人の目標を決め、さらにリーダーがその目標に対してフォローする仕組みづくりが大事です。

これらはごく一部であり、他にもやっていただきたいことはたくさんあります。

(最後に)私が経験してきたこと

私は社労士になる前、2社に勤務しました。そこで経験した、これはモチベーションを維持できる、と感じたことを最後にいくつかご紹介します。

  1. 2社とも社員研修には大変熱心な会社でした。英会話、簿記、マナー、営業スキル向上などを受講させていただき、コストをかけて社外講師を招聘していました。また様々な研修のメニューを用意し、希望したものを受講できる仕組みでした。どちらも社員を育てる姿勢を強く感じました。
  2. ある時会議の場で名前を呼ばれ、いきなり表彰されることがありました。その時は自分でも理由がよくわからずキョトンとしていると、「〇〇で頑張ったじゃないか」と
    役員から説明を受けました。自分では当たり前だと思って取り組んでいた仕事を上がよく見てくれていたことに、感激したことを覚えています。
  3. 自分のやりたい仕事に応募できる制度もありました。社内のいくつかの部署がやる気のある社員を募集する制度で、自分がやりたい仕事があれば応募できます。その部署の面接に合格しなければなりませんが、直属の上司に内緒で応募することも可能でした。

現在、ある企業の人事評価制度を構築中です。大きくはない会社ですが、今の戦力を最
大限活かすために必要だ、との経営者のご理解のもと取り組んでいます。
すぐにできることもあれば、時間がかかること、費用がかかること、ほかの方法を探らなければならないことなど、簡単ではありませんが、当社ではそのご支援をさせていただいています。


2020年9月1日

人材開発・育成雇用 に関連する記事