社員の自発性を引き出す

トーリーコミュニケーションズ株式会社 代表取締役社長 鳥澤謙一郎

大学卒業後、イトーヨーカ堂に新卒で入社。その後リクルートを経て2008年に起業し、トーリーコミュニケーションズ株式会社を設立する。
組織のトップとメンバーの考え方・視座・視野・視点・問題意識の違い、差で起きるコミュニケーションの問題を解決する相互理解、合意形成と一致団結するサポート、経営者向け個別支援サービスを提供している。
全従業員がみんなイキイキとし、同じ気持ち、同じ方向を向く組織を1社でも多く増やすことを意識している。
ホームページ https://torycom.jp/
問い合わせ先メールアドレス toriken1106@ybb.ne.jp

■ 寄 稿

はじめに

仕事柄、経営者の方とお話する機会が多いのですが、指示を与えないと行動しない社員がいて困るというご相談を頂くことがあります。上からの命令や指示に従うというのは悪いことではありません。ただ、仕事に慎重になり過ぎて失敗を恐れてしまい、一歩先の提案や意見が出てこないとプラスアルファの創造性は生まれません。本コラムでは社員の自発性を引き出すためのポイントについてご説明したいと思います。

自発的に動いてもらうには

業務の指示を行うときは、何を・いつまでに・どのくらいといった目標を与えるのが普通です。営業の仕事であれば月間にこれだけの売上を上げるといった具合です。
例えば朝の会議シーンです。

上司;「今日、今週、今月売上はいくら上げるんだ。」お前の日商目標はいくらだ。
部下:10万です。
上司:平均単価はいくらだ
部下:10万です。
上司:プレゼン契約率は何%だ
部下:5%です。
上司:では今日プレゼンするリストアップ20社は出来ているか。
部下:はい。

この上司と部下の会話で何が問題でしょうか。先ず素晴らしい点は目標を共有している点ですね。しかし、この目標数字だけで社員を鼓舞するというのでは限界がありますし、数字で毎日管理されると、部下のやる気は下がってきて自分から動こうという意欲はなくなってしまいます。
どうすれば部下が自ら工夫して動くようになるのか。自発性を引き出すときに重要なのは理念の共有です。理念(存在意義、価値基準、目指す状態)は、常日頃から社員全員と、「誰の何のために存在しているか」「大切にしなければいけないことは何か」「自社の商品やサービスを提供することがこんな社会的意義がある」と共有しておく必要があります。大きなビジョンがあると、ビジョンを実現するにはどうしたらいいかを社員自ら考えながら業務目標に取り組むようになっていきます。理念は組織を一致団結、自発、自走する組織のツール・手段です。

上司と部下の関係性

理念を語る際に前提となるのは、上司と部下の関係性の質です。この関係性が良くなければ部下の心に響きません。関係性の質を上げる理想のステップは6段階あると考えます。

  1. お互いが興味、関心を持ちます。
  2. 仕事上の評価を切り離してお互いを受け入れます。
  3. お互いの強み・弱みを理解し合います。

    ※自分の弱みなど、耳が痛いことは信頼関係が無いと受け取れません。

  4. 上司は部下の強み・弱みを把握し、部下の能力に応じた仕事を任すことが出来ます。
  5. 上司は部下の仕事のプロセスまで理解し成長を認め、部下は成長を感じます。
  6. 部下はお客様や社内から必要とされていると感じます。

実際のところ、上司と部下はお互いに社内の立場や役割があるので、仕事上の評価を切り離して関係性を構築する(上記②のステップ)のは難しいですが、強み、弱み、長所、短所を共有することで、部下の良さを引き出すことができるようになります。部下も組織の中で役割、責任がありますので、その役割に応じて自分の特徴を活かしていこうと自分から行動するようになってくるのです。そうすると、成長する場や活躍する場も自然と増え、やりがい、専門性、使命感にも繋がってきます。

チームとしての関係性

チームとしての関係性についてはどうか。ここは、タックマンモデルと言われる「チームの発達段階」が参考になります。
まず、チームが出来たばかりの頃は、他のメンバーがどういう人か分からず不安で様子を見る段階、これがFormingの状態です。その後、言いたいことが徐々に言えるようになってきて、意見のぶつかり合いが始まるStormingの段階に移ります。そしてチーム内での暗黙のルールが出来上がるNormingに移り、最後にチームとして結果が出せるPerformingの段階になります。

日本の会社組織の中では、このStormingが上手く出来ていない組織が多いと言われています。我々のような第三者の立場、ファシリテーターが企業で求められるのは、このStorming、自分の弱さや気持ちを出せたり、言いたいことが言えるような安心な場作りができ、その結果として良好な人間関係が作れるからです。

また、良好な人間関係が築けているチームが、結果の出せる強いチームであることを説明したのが、MIT教授のダニエル・キムです。チームメンバーが良い関係であると、お互いを尊重し、一緒に考えることができます。一緒に考えると、いろいろな気づきがあり楽しくなります。そして考えることが楽しくなるから、自分で考えて自発的な行動をするようになります。このような関係性であれば結果を共有し易くなり、信頼関係がさらに高まるというグッドサイクルになります。
反対に結果を優先させると、結果が悪かった時に人間関係が出来てないチームだと、対立したり人のせいにしたりしやすくなります。そうすると行動が受身になり、自発的に行動しなくなって、さらに人間関係が悪化するというバッドサイクルになります。そんな経験ありませんか?私はたくさんあります。

まとめ

仕事の種類は大きく2つに分かれます。1つは定型業務、もう1つは創造業務です。新型コロナウイルスのお陰で定型業務の業務効率の見直しは出来たと思います。しかし、創造業務は何気ない無駄話、偶発的な出会い、自由な発想から生まれます。テレワークで無駄を省くことで失われたこともあると思います。立ち話などちょっとしたところで持っていた接点が少なくなり、組織の斜め・横のコミュニケーションが遮断されています。
私が思う自発性を引き上げる1つの機会は人事評価面談です。組織長は他部署の部下がどんな言動をしてどんな表情をしているか、何に悩んでいるかがテレワークになると物理的に見えません。ですので適切な評価が出来ません。五感を感じながらの雑談など、接点を多く持つことは相手から多くの情報を収集することができ、理解が深まります。
これからは人間関係の安心感、つまりお互いを知り分かり合う時間を人為的に作っていくことが業績に影響を与えることと思います。何よりも自分のことを分かってもらい、上司や同僚と理念(存在意義、価値基準、目指す状態)を共有し、行動すること。そして、お客様や社会から必要とされることは社員の自己重要感と自発性に繫がります。私は、全従業員が自発的に働いて月曜日の朝がイキイキとしている、そんな会社を1社でも多く増やしたいと心から願っています。
真剣に働く大人の姿は子供に良い影響があり、一番の社会貢献です。


2020年11月10日