社員自ら率先して働く会社になるには?
鎌倉投信株式会社 取締役資産運用部長 新井 和宏氏
昨年12月14日(木)2017年第4回目のお客様講演会が開催されました。講師は、鎌倉投信株式会社取締役資産運用部長の新井和宏氏に登壇頂きました。新井氏は大学卒業後、日系の信託銀行、転職後は当時世界最大級の外資系金融機関でファンドマネージャーとして勤務。2007年にストレス性の大病を患いました。この病気を契機に本当にいい会社のため社会のためになる金融を目指して、仲間と鎌倉投信を起業しました。
当日は、新井氏が出会った日本各地の良い会社の紹介と、社員が主体的に働く職場づくりのヒントをお話頂きました。
■ 講 演
鎌倉投信の合言葉は「良い会社を増やしましょう」ということになっておりまして、伊那食品工業さんの社是「良い会社を作りましょう」のパクリです。金融機関というのは何となく冷たくて専門用語でお客さんを騙しそうなイメージがありますよね。私たちはそういったことはないようにしたい、子供でもわかるようなキャッチコピーや合言葉にしたいということでこの言葉にしました。
【面倒くさい関係性】
私は外資系の投資会社に勤めていましたが、ストレス性の難病になって退職しました。そのとき大きな出会いがありました。2008年の4月、法政大学の坂本先生が書かれた「日本で一番大切にしたい会社」という本に出会います。そこに2つの会社が紹介されていました。長野県の伊那谷にある伊那食品工業さんと、障がい者を50人以上雇用している川崎の日本理化学工業さんが出ていたわけです。私の人生を振り返って、大企業やお金持ちのためではない人たちを応援することが必要だろうと考えて、この鎌倉投信を創業しました。
2008年に創業し、運用開始したのは2010年3月。運用開始して7年ですけれども全国にお客様は18000人強、金額で言うと330億円集まっております。社会のためにお金を使おうということで、ずっと赤字で林業再生をやっている会社だとか、バングラデシュで200人雇用している会社だとか、そういった会社を応援する仕組みをどうやったらできるだろうか。また金融排除といいまして一回倒産している会社をどうやったら支えられるんだろうか、金融は変わっていかなければいけない、ということでやって参りました。おかげさまで18000人のお客様すべてクチコミです。創業以来、宣伝広告費は一切予算計上したことがありません。うちの投資信託は面倒くさいです。直接販売といって会社に来ない限り買えません。銀行に行っても証券会社に行っても買えないんです。我々が大事にしているのは面倒くさい関係性です。お客様との関係をお金だけの関係性にしないということを決めています。ですからお客様と一緒に社会を作るということを約束してやっています。具体的に言うと、お客様に消費者になっていただく、お客様に宣伝をしていただく、そういう仕組みを提供しております。鎌倉投信は年に1回総会というものをやっておりまして、先だっては京都に約1000人お集まりいただきました。お客様は全員自腹で来ます。それだけではありません。お客様は30名以上ボランティアで我々の総会をお手伝いいただきます。最もお客様をこき使う運用会社として鎌倉投信は有名です(笑)。なぜそこまでお客様がコミットするのかというと、お客様はお金という関係性だけではなく、自分たちはこの鎌倉投信に参画しているという意識が高いんです。これからのビジネスはファンをいかにつくるかということになってきます。そういったなかでファンと社員との境目というものがどんどんわからなくなってくる。ましてや働き方改革の中で様々な働き方を導入している会社さんがこれからどんどん増えてきます。社員なのか社員じゃないのかが分からなくなってくるくらいハードルは下がってきます。そういった中でどうあるべきなのかというのが、今後問われてくるんじゃないかと思っています。
【社員の幸福度の数値化】
わかりやすさが優先順位を変えてしまうということをいつも申し上げているんです。個人も国も会社も本質はシンプルで、本来お金のために生きているのではなくて幸せのために生きているんですね。それがわかっているにもかかわらず逆転してしまう。それはわかりやすさが優先順位を変えてしまうからです。客観性がある、比較可能である、曖昧でない、これは会社の経営も全く同じです。本来大切であるのは理念、存在意義そのものであるにもかかわらずいつのまにか利益が優先されるようになってしまう。
なぜいい会社の経営者は理念を大切にし、それを伝え続けるのかといったら単純ですよね。曖昧なものであり解釈が変わるものであり時代によって見方が変わるものであるから、言い続けないといつのまにか逆転してしまうんですよね。お金があれば幸せになれると考えるようになってしまうんです。お金があっても幸せになれないですからね。それは私が身をもって経験しました。お金は手段であって目的ではないんです。
ここが今まさに重要視されていることです。これからの10年においては、曖昧であったものが定量化されていく時代、それがテクノロジーでやってきます。今、幸福度を数値化しようとするアプローチが世界中で起こっています。私が関わっているところでは世界中から250人くらいの大学の研究者、テクノロジーの方々が、ボランティアで参加して幸福度を測定しようと動き始めています。そこに大手企業がお金を出し始めました。億円単位のお金が寄付されることになっています。そういう意味では曖昧であったものがAIですとか、テクノジーによって解決がされていく時代がこの10年~20年でやってくるだろうと言われています。
【会社のファン作り】
日本はモノやサービスが飽和しているので、なかなか売上が上がらない。無理やり売上を上げようとすると、どこかの会社のように会計操作し始めるわけですよ。なんでそれが起こるかと言うと期間を短くするからです。時間軸として短い期間に売上げようとすること自体が、だんだんおかしいものを生んでくるということが分かるようになってきました。そうした場合に時間軸と産業転換が必要になります。産業転換とはどういうところが必要になってくるかというと、長く使えるものに対して価値を生み出すということを社会がしなければならなくなるということです。私どもがお客様に対して言っていることは何かと言うと、メンテナンスポリシーがない会社の商品は買わないでくださいと言っています。このままいけば環境問題が解決しないからです。長く使えば使うほど価値が出るものに社会は切り替わっていかなければならない。メンテナンスする行為そのものが価値を生んでいくということ。大量生産、大量消費を根本から変えていくためにはこの産業転換をやらなければなりません。そのために我々は投資先に対して指導をしています。
世界で良い会社といわれるパタゴニア。アウトドアのウェアの会社なんですけれども、こんなことがありました。私の友達がそのウェアを10年くらい使って穴があいてきたのでそれを直したいとお店に持っていきました。そのときに女性の店員さんにこう言われました。「すいません。これは古いので直せないんです。修理できないんです。申し訳ございません。修理できないのは我々の責任です。これと同じかそれ以上の性能のウェアが店舗にございますのでそれを是非お持ち帰りください」と。これがポリシーであり、企業のあり方なんです。環境問題に向き合っている姿勢です。これができますかということが問われています。こういうような会社はファンができます。ファンをいかに作っていくかということが、これからの時代で最も重要なテーマになっていくことは間違いないでしょう。
【経済性から社会性へ】
これからの社会に必要とされる会社は、社会性と経済性を両立できる会社です。鎌倉投信ができた2008年頃はこんなことを言うと、きれいごとだろうと言われたんですが、最近は全然言われなくなりました。これから先10年はもっとこれが意識されるようになっていきます。なぜこんなに社会性が必要になってきたかというと、背景があります。
1つ目が価値観の変化です。若い人たちの価値観が大きく変化しています。私共の投資先に日本環境設計という会社があるのですが、家庭用ゴミをエタノールにしている会社で今の高校生は全員知っています。なぜかという高校の教科書に載っているからです。もうゴミなんてないですよね、っていう世代が出てくるわけです。ゴミをエタノールにするって授業で言っていましたからと。10年後はそういう人たちがプレイヤーになってくるわけです。ですから価値観というのは教育によってパタッと変わるんです。彼らは社会性という観点に非常に敏感です。大学で教えていても感じるんですが、彼らは家とか車とかは興味ない。シェアリングエコノミーの時代ですからそういったものは借りればいいという概念しかないんです。なんでわざわざ持たなければいけないのか。つまり、日本は豊かになったんですね。豊かになったから持たなくても死なないんですね。なので彼ら彼女らはその先を行こうとしているんです。社会に役立つことをしたいと。やる気のスイッチが経済性から社会性に移っているわけです。そのスイッチを押さなければ若い人は来ないですよね。少なくとも優秀な人は。今が転換点なんです。働き手がどんどん少なくなっていく中でどうやったら優秀な人を集められるか。社会性ということがポイントになってくるのではないでしょうか。
社会性が必要になってくる背景の2つ目は、モノ・サービスの飽和です。モノ・サービスが飽和すると企業が行う選択肢は3つしかないんです。1つはイノベーションを起こすこと、もう1つは圧倒的に価格で勝つということ。これらはなかなか難しい。最後の選択肢は何かと言うと、いかにファンを増やすかということになります。どういうことかと言うと、人間と言うのは合理的ではないということです。正確に言えば合理的ではない判断が非常に多いということです。例えば、新幹線の社内販売で使うワゴンが売りに出されたとします。私にとってみれば粗大ごみ以下です。でも鉄道ファンは欲しいんです。つまり人によって値段が異なるということです。趣味的領域に関しては実は合理的・効率的にはならないです。人間は合理的ではないのでファンを増やすことが一番なんです。
【早く月曜日が来て欲しい】
私どもの投資先でエフピコという食品トレイの会社があります。障がい者雇用率13.95%は上場企業でトップです。2ケタいっている上場企業はここしかありません。何がすごいかというと、障がいの程度、重度の障がい者の割合が73%なんです。約300人が重度の知的障がい者です。でもそれだけではありません。全員が正社員です。全員、本業で働いています。エフピコは特例子会社単体で黒字です。つまり多様性のマネジメントというものは本気で向き合っていればボランティアではなくなるんですよ。知的障がい者に対して、社長の且田さんは必ずこう言うんです「彼ら彼女らはバカじゃない。ただ時間がかかるだけだ。最もエフピコを愛してくれる社員は障がい者たちだ」と。福山工場の障がい者に話を聞く機会があったのですが、こう言われました。「土日いらない。早く月曜日になって欲しい。みんなと仕事がしたい」こんな社員がどこにいますか?働く喜びというのがそこにあるわけです。それは経営者の本気度ですよ。それだけ向き合ってますか、ということが問われているんです。向き合っている人に対してはみんな感動して応援しようとするんです。
大事なことは何かと言ったら、本業の拡大解釈というものが社会性の中では重要なんです。つまり、地域を豊かにすることもそうですし環境問題を解決することもそうですし、そのすべてが本業だと定義する。そうしない限り利益企業であれば利益が出なかったらやめるんですよ。本来やらなければいけないことの全てが本業だと言い切れる経営が必要であるということです。
今は変革する時代ですので皆様におかれましては変革のポイントを捉えて良い会社にしていただけたらと思います。ご清聴ありがとうございました。
インサイト No.53
2018年3月26日