社員が輝き、地域が喜び、人道支援も手がける三方良しの仕組みとは? 〜人道支援を、ビジネスとして成功させた発想〜

株式会社パン・アキモト 代表取締役 秋元 義彦氏

 さる3月12日にお客様向け勉強会を開催しました。講師に、那須塩原のパン屋さん、株式会社パン・アキモトの秋元義彦社長にご講演頂きました。2014年2月6日のテレビ東京カンブリア宮殿で放映され、一躍話題となりました。脚光をあびたのは、地元のおいしいパン屋さんというより、震災等の非常食用に開発されたパンの缶詰「救缶鳥」でした。このパンの缶詰はおいしいだけでなく、賞味期限が長いメリットを生かし、期限切れ前に回収され、飢餓に苦しむアフリカ等への支援物資になります。ボランティアではなく、ビジネスとして成功した貴重なモデルとして、多くのメディアの取材も後を絶ちません。当日は、「救缶鳥」の仕組みだけでなく、社員のやる気を引き出す秋元流育成法もお話し頂きました。当日のレポートです。

■ 講 演

話題のパンの缶詰「救缶鳥」 賞味期限は3年

【はじめに】

 皆さん、こんにちは。栃木の那須塩原という所で小さなパン屋をやってます、㈱パンアキモトの秋元義彦です。今日はご縁を頂きましたので、ちょっと大きく「世界に出ちゃう」その辺のお話をしていきます。平成25年フェリシモ賞(しあわせ社会価値創造)を受賞、 平成26年にテレ東「カンブリア宮殿」放映、同年「日本で一番大切にしたい会社」審査委員会特別賞受賞と、おかげさまで、最近露出度が高くメディアに出ることも多々あります。インターネットなどで「アキモトって何だよ、何をしようとしてるの、パンの缶詰」そういったところ見れますので、検索して調べてみて下さい。私は還暦3年目になり、それなりのおじいちゃんですけども、社内では自称AKB48と言ってまして、アキモトボス48歳のダジャレです。(笑)気持ちは48歳。体力的に厳しくなってきても気持ちを鼓舞して、私に与えられた命の時間内でやろうとしていることを、今日はお話ししていこうと思います。

【最初の思い】

 私は中小企業の親父なので人材に関してあまり力を注いでこなかった。人の採用も沢山やってまいりましたけども、皆さんのように専門的に人材を考え、人材教育を充分にしてきたとは言いがたいのです。そんな私が、専門家の皆さんを前に偉そうな話はできないし、今日は結構プレッシャーを感じています。ただ、私は社員をパートナーと考えています。そのパートナーの社員と大いに語り合っています。今まさしくうちのパンの海外展開の話がどんどん盛り上がってきて、来週にはベトナムから研修生が入ってくる。そういう環境ですので、人事には関心があります。
 私は大学を卒業してから即、東京のパン屋さんへ丁稚奉公に入りました。私の時代は「長男は跡を継ぐ」っていう事で、他に夢はあったんですけれども、技術を教えてもらう為の住み込みです。私は大学卒なんで、年下の先輩が十何人か居る。入った最初の日、朝5時に起こされてパンの生地を切る「スケッパー」という作業を、夜8時まで延々とさせられました。仕事が終わって帰宅すると、即近くの公衆電話から「母ちゃん、帰りたいよ。俺しんどくて。」って泣き言を言ったのを覚えています。うちの母ちゃんは「待て。1週間頑張れ。1週間頑張れば何とかなるから」と。また1週間後電話するんです。ずっとその繰り返し。まあ、苦労はしましたが、かれこれ2年ちょっと居まして卒業です。私が入ったその店は、結構有名なパン屋で、「爺さん」と呼ばれる明治生まれの、大手製菓会社の幹部もされて海外経験もあった人がいました。田舎の親父たちにとっては理想の先生で「あそこのパン屋さんに行って丁稚奉公してくると色々教えて貰える」という事もあって入れられたんです。私の記憶でその「爺さん」の息子が問題児だった。私から言わせると、ちょっと先輩
なんですけども、横暴で人の扱い方が非常に良くなかった。人を本当に大切にしているのかなって。悔しい思いを沢山しながら、その頃ずっと考えていたのは「将来、自分が栃木に帰って店をやる時、こんな悔しい思いは社員にはさせたくないな。良い会社を作るんだ!」って思いました。実際今どうか分かりません。私が自分を評価する事は出来ないかもしれませんけども、あの時の悔しさを糧に、なんとか社員に助けられながら店も繁盛しています。

取材映像を熱心にご覧になる参加者の皆様

【5番目の子ども】

 私がこうやって出歩けているのは、ひとえに、まぁこんなこと人前で言うのも恥ずかしいですけど、うちのかーちゃん(女房)が頑張って会社を支えてくれているからです。そして幸いにして私は子どもが4人おります。この上の3人が会社を手伝ってくれています。孫も8人おります。でも、実は隠し子の5番目もいるんです。(笑)この5番目が家族の中では一番活躍してくれています。私と家内にとって様々なメディアに取り上げて頂いた、この『パンの缶詰』=『救缶鳥』が5番目の子どもなんです。私達にとってはこの『救缶鳥』=子どもが成長することも嬉しいし、我が社はこれに掛けてもおります。那須高原入口の我が社に寄って頂くと、大きな看板があります。巨大な直径3メートル近くの大きな丸い缶。そこに絵を描きまして「那須からNASAへ」まあ、オヤジギャグですが、(笑)「那須高原からNASAへ持ってくんだ」というような夢なんです。私たちの精神はNASAまで行ちゃって「HACCP=ハセップなんかやってないぜ、うちは一流の会社じゃございませんから」っていうのにNASAに「持っていきたい」と言わせちゃったというか、持って行ってもらった。本当に宇宙飛行士の若田さんが2回山崎さんが1回、私共の『パンの缶詰』を宇宙に持って行ってくれました。自分でいうのも何なんですが、誇りに思います。

【アキモトの人事】

 アキモトにとって大切なものって何かっていうと、色々ありますが、やはり皆さんのお仕事と同じ『採用』だと思います。別に今日の皆さんを意識して言ってるんではありません。当社でも、新卒の子は毎年5、6人入れるようにはしています。けれども、それでも悲しいかな時に抜けることもあります。今年も新人が6名入ります。長期的なことを考えたときに外国人の実習生制度をうまく使いたい。当社では毎日朝礼をします。4半期ごとに全体会議も開いて数字の話もしますし、人事発表もその場で行います。栃木本社、東京営業所、大阪営業所、そして沖縄工場が今ありまして、全員集合が難しいため、若い社員はテレビ会議ですが全員揃ってやります。そこで大切にしているのは、私が社長ですから主役というか責任を取る姿。私は二代目の社長になってしまったが、責任もありながら夢を語れる人間でもあります。で、それを今度は実現していくのが、社員の皆かなって思ってます。
 【救缶鳥プロジェクト】
 私達は本当にお客様に支持されている商品を、社会から支持されている製品を作ってるのかな、という事を常に考えています。美味しいものを作っていれば、お客様は来店してくれるかもしれない。でも会社の技能やプロジェクトを世論って言うか、メディアがどう見てるのか、どういう評価をするのかなっていう事にもちょっと神経を使ってます。別に私がメディアに出たいからっていう意味ではなくです。お陰様でTVではこの間、カンブリア宮殿と未来ジパングで放送していただきました。今度、NHKの番組にも出ます。
 アキモトは色んな事をやろうとしています。勿論パン屋ですからパンが主です。阪神淡路大震災で柔らかいパンを届けたいという思いと研究を重ねて、今度は義援物資として届けられるパンの缶詰として作り上げたのが「救缶鳥」です。この「救缶鳥」で世界中に元気と笑顔を広めたい。私たちの夢です。「救缶鳥」は非常食として備えるのですが、世界の飢餓救済の活動に参加できるプロジェクトなのです。仕組みは、まず皆
さんの会社やお宅で2年間「救缶鳥」を備蓄してください。 備蓄から2年後に、残り約1年の賞味期限のものを日本中から回収して、アフリカのケニアを中心に、飢餓に苦しむ国々へ届けます。義援先の国々では、パ
ンを食べ終わった「救缶鳥」の空缶は食器としても利用されてます。私はボランティアとは全く考えていません。ビジネスは継続しなければ意味がない。「救缶鳥」は社会貢献だけではない、持続可能な採算がとれる
ビジネスになんとか育ってくれました。

【次のアキモト】

 お陰様でパンの缶詰の注文も沢山頂いて、昨年6月に新規オープンした那須塩原のお店もかなり繁盛しています。私は職人でもありますから、朝2時から店に入って準備しないと朝7時からのオープンができな
い。社員は朝3~4時に入って来ますけども、そういう時間帯に働いてくれる人材はそうはいません。長期的なことを考えたときに外国人の実習生制度をうまく使いたい。去年6月から知り合いの社長の縁で、ベトナムに多く行くようになりました。日本の素晴らしい伝統や技能を海外に広めたい、できればベトナムからも採用したいっていうのを準備してまいりました。今年ベトナムから3名の研修生が入ってきます。研修生としての採用だけじゃなく、ワーカーで採用した彼らが最終的には現地へ帰って独立して欲しい。せっかく日本に来てパン屋で働くのであれば、パンの技術や店舗運営に関しても覚えて持って帰って欲しい。この思いは、今年中にベトナムのダナンという都市でパンアキモトで実習した彼ら、彼女がお店をオープンするという計画が実現されます。
 これからも、日本の文化、特に私の専門であるパン屋として文化とか芸術を世界に向けても発信し、貢献していきたい。私のような還暦をこえたオヤジ独りでは無理だな、なら巻き込んじゃえ、という思いでやっていきます。時間がまいりました。ご清聴ありがとうございました。

インサイト No.42
2015年6月20日

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