知的障がい者が輝く職場 ~ 重度知的障がい者が戦力

エフピコダックス株式会社 企画支援課マネージャー 且田 久美 氏

 昨年12月13日(水)、お客様向け講演会2018年度4回目を開催致しました。講師は広島県福山市のエフピコダックス株式会社の工場責任者、且田久美氏をお招き致しました。エフピコダックスさんは、スーパーでよく見かける食品トレーのトップシェアを誇るメーカー㈱エフピコの100%特例子会社です。
エフピコさんが注目されるのは、障がい者雇用率が14.56%(グループ370名雇用)と法定雇用率2.2%を大幅に上回り、法定雇用率達成に四苦八苦している上場企業を差し置いて、4年連続首位(東洋経済『CSR企業総覧』)を維持しています。その立役者となるのが、且田久美さんです。
 知的障がい者、それも重度知的障がい者が戦力となる職場をどうやって築きあげたのか、具体的な事例も含めてお話頂きました。レポートとして要約致します。

■ 講 演

【はじめに】

 こんにちは広島県の福山から参りました。エフピコグループの特例子会社、エフピコダックスの且田と申します。エフピコは食品簡易容器、スーパーとかでお惣菜やお魚を乗せている発泡トレーだったり、唐揚げとかエビフライが入っている透明容器のメーカーです。おかげさまでシェアはナンバーワンの実績となっております。
 最近エフピコが注目を浴びているのが、本日も機会を頂いた「障がい者雇用」を積極的に実施していることです。おかげさまで30年以上前から障がいのある方の雇用に取り組んでおりまして、今現在エフピコグループ全国で約370名の知的に障がいのある方をフルタイムで雇用しております。上場企業の中では、14.56%の障がい者雇用率実績でナンバーワンを維持しています。弊社の障がい者雇用の特徴はもう一つ、入社する方々を戦力として基幹事業で雇用していることにあると思っております。
 実名を出すと何なので言いませんが、例えば大手の車メーカーさんが600名近くの障がい者を雇用しておられますが、実際はお花を栽培させる等の、基幹事業とはかけ離れた作業を雇用率達成のためにおこなっている場合もあります。企業内作業所と呼ばれているものです。そういった企業がまだまだ日本には多いということです。
 そうではなくて、私たちは彼らがやらなければ健常者を雇うような仕事、彼らにやっていただいて初めて利益が成り立つ仕事、そこに彼らを雇用しているというところが特徴だと自負しております。私は彼らを弱者だと思っておりません。私たちが雇用しているのは私たちの重要な労働力であり、従業員であり、チームの一員であるというスタンスで彼らと向き合っています。

福山工場トレー分別ライン

【あなたがやらないと会社が潰れる】

 エフピコの障がい者雇用は、リサイクルや製造部門など健常者の方がやっているのと同じ仕事に彼らに就いていただいております。障がいのある従業員の90%以上が知的障がいの方です。その内、重度の方が7割を超えます。ほとんどが重度の知的障がいの方ですから、入社してきた当初は、泣く、わめく、逃げる、漏らす、言った・言われた、好き・嫌い…、そういう状況を1年2年と向き合いながら仕事をしてもらいます。だいたい1年半くらいですかね、1人前としてラインに乗せるまでには。最近では、取材や見学者も多数訪れて頂きます。中には「一部のすごくできる人ばっかり採用しているんでしょう」とか、皆さんに言われるんですけれども、そうではありません。そもそも私たちの会社に来る前は作業所にいたわけです。学校の先生とか元の作業所の支援者が見学に来たときに、「なんで?何が起こったの?なんであの子がこんなに働けるようになったの?」ってすごく驚かれます。でも、私達は魔法の杖をもっているわけでもないですし、特段高い専門知識も持ち合わせていません。私のいる福山には60人の障がいのある方を雇用していますが、専門知識があるのは私ぐらいであとは現場のスタッフが彼らと向き合っています。エフピコでは、新卒で入社してまさか自分が障がい者と一緒に働くとは思っていなかった、そんな方々が現場に配置されて彼らと向き合って仕事を教えています。
 エフピコの障がい者はなぜ働くようになるのか、なぜ働けるチームになるのかというご質問に答えるとすれば、正当に仕事をしてもらい正当にお金を払っているからです。彼らは正当に評価して正当に職責を与えて正当に叱咤激励すれば、それにちゃんとついてこれるカテゴリーの人達です。施設等にいた彼らは「あなたがやらないと誰がやるの?」と言われたことがない方です。「あなたの仕事でしょ?あなたがやらないと会社が潰れるのよ」って言われたことがない方々です。言うと泣きますよ。びっくりして泣くけど、そう言われたときの目の輝きは私達健常者にはないものがあります。仕事は当然厳しいです。ここは作業所でもなければ保育園でもありません。「あなたたちが頑張らないと会社が存続しないんですよ」という話を何度も全員にします。会社というものは、従業員が一致団結して会社を支え貢献をして、お客さんに喜んで頂いて大きくなっていくものです。障がいのある方がそれをしなくていいなんて理屈は通りません。だって従業員なんだから。これを言ったときの彼らの喜びだったり刺激だったりというものはすごく大きいのです。戦力として正当に評価しているのですから。
 私は、他社の障がい者雇用のお手伝いもさせて頂いています。最初に必ず言われるのが「もしできなかったら大変なことになるから、且田さんの言う3割くらいの仕事量から始めるわけにいきませんか?」と。ダメです。「そんなことしたら3割しかできない人間になりますよ」って言います。仕事を正当な量やってもらい、少しづつ成長する経過を見守りながら緊迫感だったり熱意を、彼らと向き合う私達も持つべきなのです。私の経験で、概ね2ヵ月後くらいに「且田さんの言われたとおりでした!あっという間に仕事をこなしてしまって、今は手が余っています」とよく言われます。仕事というのは出来るようになったからさせるものではなくて、させるからできるようになるものだと私は考えています。

【現場であったA君のケース】

 そうは言っても、知的障がい重度の方が入られると最初は泣いたりわめいたりして、下手したらパニックを起こしたりするわけです。実際にあったA君の具体例を紹介します。
 自閉症で度々パニックになるA君がいました。入社当所、休憩時間ごとに更衣室で頭をガンガン壁に打ち付けて血だらけになっていました。皆さんだったらどうしますか?普通「大変だー、救急車!」ってなりますよね。最初はスタッフも慌てて私のところに呼びにきました。そんな時、私は「ほっときなさい」と言います。見に行くとA君は壁に頭を打ち付けているわけです。そこで「A君、あとで拭いといてねー」って言うんです。本人は「え?」ってなります。「いやいやあなたの休憩時間だから別にいいのよ」って。タバコ吸いたいのと一緒ですよね。タバコ吸わないと次の仕事に入れない健常者と一緒なわけだから、壁にガンガンしてそれで落ち着くんだったらどうぞって。そのかわり「拭いといてね」と。「拭いて取れなかったら弁償してねって」とも付け加えます。そうするとやらなくなるんです。誰も反応してくれないってなるんです。誰かを傷つけたら徹底指導に入りますけど、自分が休憩時間に何をしようがいい、というのが私の指導方法です。同じA君がある時、会社の食堂で共有の食器洗い洗剤1本使い切って泡々にしていたんです。そこで「A君、250円ねー」って言ってメモに書くんです。「どういうこと?」って言うから「それ1本250円だからね。お給料から引いとくね」って言うんです。そうするとやらなくなるんです。指導する側はそういう逞しさというか動じなさというのが必要かなと思います。漏らしたら着替えればいいよって言います。それだけのことです。泣いてても大きな声出してても手が動いていればいいよね。そういう感じ。その繰り返しが彼らに仕事をきちんとしていれば評価してもらえる、受け止めてもらえるんだということを伝える術になると思っています。
 まとめるとすれば、彼らと向き合うということは、彼らを守ることでも、できないことはしなくていいよと言うことでも、無理をさせないことでもなくて、どう彼らに自分たちのやっている仕事が会社に貢献しているのか、これをしないとどうなるのか、あなたが会社にとってどういう存在なのかをプレゼンする力・伝える言葉が必要だと思います。

【従業員満足度の向上】

 障がい者雇用のお手伝いをしている会社が現在53社ありまして、雇用して頂いている方が600名を超えました。弊社が370名で合計約1,000名の障がいのある方の雇用に関わっておりますが、おかげさまでその53社すべて継続して雇用拡大を続けています。どの会社も業績がいいです。当たり前ですけれども最低賃金をクリアして雇用継続をしていただいています。
 特に理念の持ちにくい会社こそ障がい者雇用をお薦めします。私の会社はトレーを作っていますが、トレーって感動的ですか?感動的じゃないんです。トレーで泣けないのです。現場にいけばいくほど、その作業に誇りや感動や涙が伴いますか?伴わないんです。皆さん生活のためです。仕事に意味を持ってやっていない方が多いんです。だけど、障がい者雇用を丁寧にしていくとトレーに意味を持たせられるんです。彼らとトレーを作っている、彼らを教育するためにトレーを選別する、彼らと生きていくんだということでトレーなのに泣けるんです。トレーなのにやる気を持てる。トレーなのに自分の会社に誇りを持てるんです。ある有名な学者さんが障がい者雇用を研究され、障がい者雇用を必死でやっている会社ほど業績が上がっているというデータが出ておりました。それは、社員の貢献とか会社に対する満足度の向上にもつながるからだと思います。エフピコも実際に障がい者雇用を増やし始めたあたりから一般社員の会社に対する満足度が上がってきました。つまり、トレーでは泣けないけれど、彼らをこれだけ丁寧に扱って、彼らと一緒に生きていこうとしている会社に対しては尊敬するし誇りを持つことができるんだと思います。そういった理由から、理念を持ちにくい会社には障がい者雇用は宝物になるかもしれません。私たちがお手伝いをしている会社さんでも、この会社に入って良かったと思わせることが難しい会社さんほど、障がい者雇用をやって社員の定着率が高まったという評価をいただいております。そういう意味でも障がい者雇用というものは大きな魅力とパワーを持っていると思っています。

インサイト No.57
2019年3月25日

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