6. 評価制度(2)総合業績評価制度

はじめに

 前章では評価の重要性や目的等一般論を述べましたが、本章及び次章では、その評価を具体的にどのように行うかについて述べます。まず初めに総合業績評価についてです。
 総合業績評価は、文字通り、社員の業績をはじめ、情意、知識・技能、能力、指導力等全ての面を把握するための評価で、その結果は、社員の昇級、昇格、昇給、異動等に直結する非常に重要な役目を担います。

 総合業績評価表(管理職用及び一般職用)の例をこちらからダウンロードできるようにしましたので、よろしければご確認ください。

【総合業績評価表ダウンロード】

1.評価項目

 評価項目は業種や企業規模等によって異なりますが、最も一般的な項目を例に述べます。評価項目は会社が管理職、及び一般職(非管理職)に要求する内容や程度の違いを反映して、管理職用と一般職用の2つを用意することを奨めます。一般的に管理職は課長以上、一般職は課長未満で超過勤務手当が支給されるレベルの社員です。
 評価項目は評価対象(大項目)、評価要素(中項目)及び着眼点(小項目)の3段階表示が分かり易く、又使い易いと思います。
 大項目は成績評価、情意評価、知識・技能評価、能力評価、指導力評価等です。中項目は大項目の下で幾つかに細分化された項目であり、評価要素と呼びます。小項目は中項目を更に細分化した着眼点です。
 以下に大項目、中項目及び小項目を、管理職用表にもとづいて示します。

(1)業績評価(大項目/以下大)

①目標達成度(中項目/以下中)

  • 予算、目標達成度はどうであったか(小項目/以下小)。
  • あらかじめ設定した(期中修正分を含む)予算・目標以外の項目の達成度はどうであったか(小)。
  • 次年度の業績・目標達成に係る仕事への取組みはどうであったか(小)。

②仕事の質・量(中)

  • 仕事の質・量共に地位にふさわしい結果を出し期待を上回ったか(小)。
  • 仕事の結果に不良や問題を起こしたことはなく、あっても迅速且つ十分に回復したか(小)
  • 難易度の高い仕事にも取り組んだか(小)。

③業務の効率・改善(中)

  • 常に費用対効果を勘案して業務を遂行したか(小)。
  • 仕事の処理にあたり優先順位をつけて行ったか(小)。
  • 業務の省力化・効率化のための工夫改善を提案し実行したか(小)。
  • 部下の改善提案を積極的に取り上げ、それらの実施を支援したか(小)。

(2)情意評価(大)

①責任性(中)

  • 会社の方針や目標を理解し与えられた業務を完全に執行したか(小)。
  • 部下に権限を与えそれらの仕事の結果に対する責任を取ったか(小)。
  • 仕事を所定の期限内に終わらせたか(小)。

②積極性(中)

  • 担当業務の質的向上、量的拡大に関し意欲的に取り組んだか(小)。
  • チャレンジ精神が旺盛で、何事にも前向きに取り組んだか(小)。
  • 指示を待つのではなく、何をしたら良いかについて自ら考えて行動したか(小)。

③協調性(中)

  • 他の社員と協力して業務を執行したか(小)。
  • 同僚が忙しい時に進んで協力したか(小)。

④執務態度(中)

  • 社員の模範となる執務態度を保持したか(小)。
  • 上司の指示・命令を良く守り、誠実に勤務したか(小)。
  • コンプライアンス(法律遵守に加えて、社内規範、社会の倫理性や道徳観に従って企業活動を行うこと)を実践したか(小)。

(3)知識・技能(スキル)(大/中)

  • 業務に必要な専門知識及びスキルを有し、それらを日常業務に適用したか(小)。
  • 企業人として必要な一般的及び社会的知識を有し、それらを日常業務に適用したか(小)。
  • 業務知識・スキルの向上に努力したか(小)。
  • 保有する業務に役立つ知識・スキルを進んで他の社員と共有したか(小)。

(4)能力評価(大)

①決断力(中)

  • 常に状況や情報を見極め、会社及び部門に最適な結果をもたらす判断を下し、取るべき措置を速やかに決定できたか(小)。
  • 緊急時或いは突発事態において、限られた情報等しか得られない状況下でも最適な決断ができたか(小)。

②企画力(中)

  • 地位に応じたレベル(全社・部・課等)で方針・計画・戦略等を作成できたか(小)。
  • 方針・計画等作成の際に、会社や部門の方向性やニーズを十分に取り入れたか(小)。

③コミュニケーション力(中)

  • 上位者に報告すべき事態の判断ができ、要領よく報告・連絡・相談ができたか(小)。
  • 部内及び関連部門と情報交換を積極的に行い、情報の共有ができたか(小)。
  • 情報管理力(必要な情報を適切な範囲で保有・共有し秘密保持ができていること)を有したか(小)。

④顧客志向性(中)

  • 顧客第一主義の信念を持ち、顧客ニーズを満たし、顧客満足度を向上させたか(小)。
  • 顧客の問い合わせ、クレーム等に迅速かつ適切に対応できたか(小)。

⑤折衝力・調整力(中)

  • 目標達成のために、案件に関与した部門と十分に話し合いを行ったか(小)。
  • 相手の主張にも十分敬意を払い、自己或いは自部門の主張を明確に相手に伝え、かつ所期の目的を達成したか(小)。
  • 目標達成のために、案件に関与した部門と十分に話し合いを行ったか(小)。
  • 決定した内容を実行するために、関係者の協力を得たか(小)。

(5)指導力(大)

①リーダーシップ(中)

  • 会社や部門のビジョンや短期・長期の目標・計画等を対象者のレベルに応じて、具体的に示したか(小)。
  • 目標を達成するために、下位者へ個々の職務を公平に配分し、下位者のモラールを維持・向上させたか(小)。
  • 常に先頭に立って行動したか(小)。

②人材育成力(中)

  • 下位者がトラブルや問題に直面した時に、必要に応じて迅速に相談に乗り、適切な助言を行ったか(小)。
  • 下位者の育成を熱心に実行したか(小)。
  • 下位者の業績評価を公正に行い、且つ下位者から納得を得たか(小)。

2.評価項目の重みづけ

 評価項目はそれぞれ重要な項目ですが、その中でもとりわけ重要な項目があります。それらは、各々の会社によって異なり、その違いは各々の会社の価値観や、社是、ミッション、社風の違いに由来します。更に業績評価を重視するのはすべての会社に共通ですが、その度合いは会社によって異なります。重みづけは中項目(評価要素)ごとに行います。次に重みづけの一例を示します。

3.評価段階

評価段階は多すぎても少なすぎても、公正な評価を阻害し、評価を困難にさせます。試行錯誤の上で、筆者は以下の1から5までの5段階評価を奨めます。

5 非常に優れている
4 優れている
3 期待水準を満たしている
2 やや劣り指導を要する
1 極めて劣り改善を要する

4.評価結果の採点の仕方

各評価項目の採点は評価の重みづけに評点を掛け合わせて算出され、総合得点は、全ての項目の点数の合計で決めます。合計点数は、昇級・昇格(降級・降格)並びに昇給(降給)の重要な判断項目として使用されます。それらの目的に使用するためには、合計点数をそのまま使用するのではなく、いくつかの段階にグループ化するのが実践的です。
例として管理職用及び一般職用の2種類の換算表を示します。

管理職評価得点数に対応する評価段階例

合計点数 平均評価点 評価段階
90-100 4.5以上 S(非常に優れている)
80-89 4.0以上 A(優れている)
70-79 3.5以上 B(期待水準を満たしている)
60-69 3.0以上 C(やや劣り指導を要する)
59以下 3.0未満 D(きわめて劣り改善を要する)

一般職評価得点数に対応する評価段階例

合計点数 平均点数 評価段階
90-100 4.5以上 S(非常に優れている)
75-89 3.75以上 A(優れている)
65-74 3.25以上 B(期待水準を満たしている)
55-64 2.75以上 C(やや劣り指導を要する)
54以下 2.75未満 D(きわめて劣り改善を要する)

管理職と一般職の評価段階を同じくすることも考えられますが、管理職により厳しい評価段階を与えるのは、管理職の自覚を促し、会社の期待を表すためには必要ではないかと思います。

5.評価者コメント

数値評価を完成したあと、それぞれの評価者はコメントを記入します。ここには数値では評価しきれなかった被評価者の実績、貢献、今後の期待点、あるいは必要な改善点などを記入します。実際に、同じ評価数値の社員でも、実績や貢献度が明らかに違うと思われる場合がありますが、コメント欄ではこのような違いを定性的に記述しその差異を明確にすることが重要です。