3. 役割(職務)等級制度

はじめに

 等級制度は人事制度の根幹をなすもので、この制度なくして他の人事制度は成立しません。
 等級制度はその根拠を何に置くかによっていくつかの制度がありますが、代表的、伝統的な2制度を概観した後に、本稿の中心となる役割(職務)等級制度について述べます。

1. 従来の等級制度とその欠点

 今日ほとんどの企業で何らかの等級制度を採用していると思いますが、2000年ぐらいまでは次の2つの制度が一般的でした。

1-1.年功序列型等級制度

 戦後の日本の経済成長を支えたと言われる制度の1つで、今日でもこの制度を採用している企業は中小企業を中心に数多くあります。この制度は、社員各自の学歴と年齢もしくは勤続年数を基準とする等級制度です。中卒、高卒あるいは大卒等をおおむね新卒で採用し、同じ学歴の者同士には能力や貢献力に大差がないという前提で配置し処遇するものです。
 しかしながら、近年の技術革新のテンポの速さ、市場の変化の速さ、グローバル経営の複雑さ等の進展により、社内タレント(貢献力・実績・能力の高い人)の早期発掘、適材適所の配置、貢献度に応じた処遇の必要性が増し、もはやこの制度では企業経営が成り立たないという考えが定着して来ていると思います。

1-2.職能等級制度

 社員各人の職務遂行能力(保有能力)を基準とする等級制度です。保有能力を基準とした評価では、その能力が発揮されたかどうかは第三者からは見えにくいので、能力は勤続年数に応じて増加すると言う考え方に陥りやすく、結果的に年功序列型等級制度に類似したものになっていきました。
 
それゆえ、この制度は年功ベース制度から大きく発展した制度とはいえず、高まる成果主義への要望には、十分に応えられるものではありませんでした。

2. 役割(職務)等級制度のすすめ

 そこで、上記2制度の欠点を補い成果主義を前面に打ち出した制度が、役割(職務)等級制度です。企業が価値を置く役割(職務)を基準に設定された等級制度で、現在最も有効な制度と考えられています。

 前述2制度は、いわば人に役割(職務)を付ける制度ですが、本制度は役割(職務)に人を付ける制度です。職務は営業部長、購買課長、人事係長などで、職務の種類及び職位(職階)を示します。
 一方、役割は職務よりは広い概念で、例えば6級職の役割、5級職の役割など、組織横断的に決めます。部長を例にとると、相対的に大きな役割の部長は6級で、相対的に小さな役割の部長は5級とすることができます。
 このように等級と職位の分離が一部の職位で生じますが、そのことが、役割(職務)等級制度の柔軟な運用を可能にする1つの利点でもあります。

2-1.等級数を決める基準と最適等級数

 一般的に等級数は5級程度から10級超まであり、企業規模が大きいほど、また組織が複雑になるほど、等級数は多くなる傾向があります。
 等級数は多ければそれだけより細かな社員管理ができる反面、運用上煩雑になり効率に欠けることになります。
 逆に少なすぎると社員間の役割・責任・能力等に基づく公正な差別化が十分に行われず、会社全体として組織運用上、困難に直面する場合もあります。
 社員数が50-150名程度の組織では、私の経験では6級が最適だと思います。

2-2.各等級の決め方

 以下6等級を前提に説明します。まず社員の最上位から最下位までの職位(部長、課長、係長、一般社員等の役職名)を列挙し、社内序列の順に6等級のいずれかの級に配置します。
 最上級の6級には執行役員や部長をマッチさせるのが一般的です。
 次に5級ですが、ここには、役割の大きさ、責任の大きさ、管理の複雑さ等で、より小さな部長、室長あるいは次長をポスティングします。
 4級は管理職の初任級職と位置付けられ、一般的には課長をマッチさせます。
 3級は非管理職の最上位とし、これ以下の一般職の指導を行える、通常は係長、主任をマッチさせます。
 2級は4年生大学卒業者の初任級を想定し、最下位の1級は、高卒あるいは短大卒の初任級とします。
 なお、等級は社員の間の格付けですので、経営者である取締役以上は除きます。

 6等級制の等級、等級呼称、及び職位の関係の例を下に表にまとめました。

等級 等級呼称 職位
6級 統括管理職 本部長・部長
5級 上級管理職 部長・次長
4級 管理職 課長
3級 指導職 係長・主任
2級 一般職 上級一般職
(大学・大学院卒新入社員への入社時付与級)
1級 一般職 一般職(高卒・短大卒新入社員への入社時付与級)

 この例は、同一等級に複数の職位を設けたもので、例えば、5等級に部長と次長、3等級に係長と主任の職位を設けています。

2-3.役割等級定義

 各等級には定義(等級資格要件)を設けます。定義は、役割の大きさ、役割の責任の重さ、管理する資源(ヒト、モノ、カネ)の大きさ、組織に及ぼす影響度、要求される人格の高さ、要求されるコンプライアンスの高さ等を基準に組織内で、横断的に決定します。設定する等級数の数により内容の段階付けは異なりますが、一例をあげると次のようになります。これは中小企業で一般的な6等級制度の6等級(最上位)の定義です。5級以下の定義は、役割を1段づつ下げて(小さくして)作成します。

役割等級定義例

等級 資格基準項目 資格基準要件
6 役割 取締役を補佐し、担当部門の利害を超えて、
全社最適化の視点から、取締役会の決議事項を最適な方法、最高の効率で遂行し企業利益を創造する。
組織へ影響を及ぼす範囲 社員のレベルで、組織へ最高の影響力を有する。
責任・権限
(支配する資源の大きさ)
社員のレベルで最高の責任及び権限(ヒト・モノ・カネ)を有する。
管理・報告関係 取締役及び取締役会に報告し、担当部門社員を管理する。
計画・立案 全社の経営方針・戦略・計画の作成に参加し、担当部門の目標・計画等を最終立案責任者として提出する。
遂行 承認された部門目標・計画を社内外の資源を最大限に活用し、予算支出を管理して、所定の部門利益を実現する。
知識・スキル 職務に必要な知識及びスキルを保有する。更に職務に要求される資格を保有する。
判断・決断 平時及び緊急時に冷静な判断を下し、最適な決断をする。
折衝・調整 相手の主張にも十分敬意を払い、自己或は自部門の主張を明確に相手に伝え、決定した内容を実行するために関係者の協力を得る。
コミュニケーション 部内及び関連部門と情報交換を行い、情報の共有化を積極的に行うと共に、上位者及び下位者との報告・連絡・相談を適切に行う。
顧客指向 顧客第一主義の信念を持ち、顧客ニーズを満たし、顧客満足度を向上させ、顧客の問い合わせ、クレーム等に迅速且つ適切に対応する。
人格・倫理性 職務において会社を代表できる人間として高い人格、倫理性を有し、且つ模範となる執務態度を示し社内外の人望を得る。
コンプライアンス 社内外の法律・規則等を遵守し、優れた情報管理を実行し、最高度のコンプライアンスを実践する。
指導力 平時及び緊急時に部門社員等を強いリーダーシップを発揮して統率する。
部下の評価・配置 部下の評価・昇降級・昇降格・異動に直接関与し、それ以下の部門社員の評価等の最終責任者となる。部下を適材適所に配置する。
人材発掘・採用・育成 全社的レベルで人材の発掘・採用に関与し、中長期的に人材の育成を率先する。

2-4.職種別等級制度

 社内職務が明確に区別される場合は、職種別グループ(職群)ごとに等級制度を作ることができます。例としては、営業職、事務職、製造職、技術研究職などです。この場合でも例えば、4級職迄個別で、上級管理職である5級職以上は全社共通の定義を使用するのが合理的と考えます。なぜなら上級管理職以上では、個別業務の差異よりも上級管理職としての業務の共通性の方が大きいと考えるからです。
 このような制度を構築する場合は、異なる職群では、例えば4級職までの等級呼称及び職位名称はそれぞれ異なっても良いでしょう。

3. 等級制度と合わせて必要なもの

 役割等級定義表とは別にその定義表の一部を使用して職務記述書(Job Description =JD)の作成が必要です。職務記述書は全ての職務(ポジション)に要求されるもので、職務ごとにその役割・使命、主要職務、日常担当業務等が記述されます。等級定義と比較して、より具体的で日々の実務を遂行する上で、指針となるものです。全ての職務記述書には、その記述内容を基にして、役割等級が与えられます。職務記述書については、今後新たな独立した項目として、取り上げる予定です。