1. 人事の全体像について 〜まずは基本を理解〜

はじめに

 多くの日本企業の雇用制度は、戦後の高度成長期後もいわゆる年功序列型(メンバーシップ型)を維持してきました。この制度は、安定した雇用や生活を保証してきた意味で、高度成長期に適合した制度であったと考えられます。
 しかしながら、労働人口の減少、労働市場の流動化、また、IT化によって経験値が以前ほど重要視されなくなったことや、若い労働人口の労働価値観の変化などにより、急速に年功序列型が立ち行かなくなってきました。

 この年功序列型制度にとって代わるのが、成果主義制度です。成果主義とは、業務遂行の結果と過程を基準として社員の評価を行う事で、仕事で成果をあげなければ、昇進も昇給もなく、場合によっては降格や減給もあり得ます。成果主義にも種々の制度がありますが、最近言われていますジョブ型制度が最もわかりやすいと思います。

 本連載においては、社員50名~150名程度の中小企業を念頭に置いて、どのようにしたら成果主義をベースにした人事制度を構築できるかについて述べます。

人事制度の根幹と目的

 最近では、コロナ禍で多くの人びとが在宅ワーク、リモートワークを行っています。その影響により、人事制度の一部が変わることはあるかも知れませんが、人事制度の根幹は揺らがないと思います。変わるのは働き方の形態的な面(働く場所、コミュニケーションの仕方等)です。
 
 それでは企業に必要な、成果主義をベースにした人事制度はどのようなものでしょうか?端的に申し上げますと、以下の4つを実現する制度だと思います。

  1. 社員に透明な人事制度
  2. 社員に公正な人事制度
  3. 社員のやる気を引き出す人事制度
  4. 会社の成長を牽引する人事制度

 このコラムでは、この4つを実現するために必要な人事制度を7つの要素にわけて解説します。

今後連載の中で解説する7つの要素のポイント

 まずは人事制度の全体像を構成する7つの要素をご紹介します。

  • 等級制度
  • 評価制度
  • 配置制度
  • 報酬制度
  • 採用制度
  • 研修制度
  • 組織風土改革

 人事制度の根幹をなす等級制度をはじめ、それぞれは直接・間接的に他の項目につながっています。

 この連載を開始するにあたり、最も重視したのが内容の実用性です。
連載を通じて解説あるいは提案、どれか一つにでも共感をいただき、実行に移していただければ幸いです。

7つの要素の事前解説

1. 等級制度
 人事制度の中核をなすのが等級制度※1です。数十人以上の企業では、効率的な運営のために何らかの序列制度が必要です。何を基準に序列を構築するかについては、これまで年功序列型等級制度および職能等級制度が一般的とされていました。
 一方、近年では役割等級制度という考え方が普及してきました。
従来の等級制度と役割等級制度では「人」と「役割(職務)」※2の関係性が異なります。

※1等級制度の種類

※2役割と職務の違い

 成果主義をベースにした人事制度を構築する場合は、役割(職務)を基準にした等級制度が最適と考えます。
今後、等級制度についての連載回では、役割等級の定義、役割等級と職位(部長、課長等)の関係、といった等級並びに等級数の決め方について解説を致します。

2. 評価制度
 成果主義制度のもとでは、業績遂行の結果と過程を評価するのが前提です。そのため評価をどのように行うかを定めた評価制度がとりわけ重要です。

〜評価制度のメリット(必要な理由)〜

  • 社員の公正な処遇(昇級・昇格・昇給・賞与の支給など)をおこなうため
  • 人材の育成にむすびつけるため→離職率の低下
  • 採用費用削減
  • 愛社心の醸成
  • 在籍人材の戦力UP
  • 内部昇格者の輩出
  • 社員のモラルの向上等

 これらの実現によって、結果として「社員の生産性の向上およびコスト削減」につながるメリットがあります。

 今後、評価は何のためにするのかといった概念論、総合業績評価制度、および目標管理制度にわけて、評価表の作成方法、および評価の具体的なやり方を解説します。

3. 配置制度
 企業は経営戦略・目標を達成するために種々の資源を活用します。その中で最も重要な要素が人的資源すなわち人材の活用であり、そのうえで大切なのが配置制度です。
 配置制度が有効に機能する事によって、企業はより効果的・効率的な経営戦略の実施が可能となり、また、組織の硬直化やマンネリ化を抑制して活性化し、セクショナリズムを打破し、組織内の風通し(コミュニケーション)の改善を行い、又人材育成につなげる事ができます。

4. 報酬制度
 報酬制度は、等級制度及び、評価制度と並ぶ重要な人事制度です。
 報酬の中心は、基本給、ボーナス、諸手当です。これら以外に、退職金、その他のインセンティブがあります。それぞれの報酬の制度について考え方を以下にまとめます。

【基本給】
 私が提案します基本給制度は等級にマッチしたレンジ給です。レンジ給は等級ごとに最低と最高額の範囲を設定し、社員は自分の等級の最低額を保証されますが、原則的に最高額を上回って支給されることはありません。
 従って、等級ごとのレンジ給の最高額に達した社員は、等級が上がらない限りは基本給が頭打ちとなる制度です。

【賞与制度】
 賞与は個々の社員の業績達成度を示す目標管理評価表の評価結果、および会社の業績結果に基づいて、その支給額が決定されます。
 したがって、業績達成度に応じて各社員の賞与の支給額は増減することになります。
 ただし業績主義を和らげるために、賞与の全額が業績に基づくのではなく、賞与の年間総額の50%を従来の方法、残り50%を業績評価結果に応じて支給する方法もあります。

【諸手当制度】
 社員の等級よって基本給を定める報酬制度では、役職手当等、役割に応じて支払われる手当などを除き、諸手当は基本的に削減・廃止の方向で考えます。
 しかし家族手当、扶養者手当て、住宅手当などは、日本においては歴史的に長く存在してきたことを考慮して、存続させることも合理的です。

【退職金制度】
 退職金を廃止する企業もありますが、今日、国の社会保険制度の将来が不安視されている中で、退職金は1つの重要な老後資金として位置付けられます。
 退職金制度にも種々ありますが、ポイント制退職金制度が最も成果主義に近く、適正な制度であると考えます。この制度は従来の退職金制度に比べ、年功による退職金の負担増を軽減させる制度でもあります。
 ※ポイント制退職金制度については、今後連載の報酬制度のパートで詳しく解説する予定です。

5. 採用制度
 採用制度を確立していない企業が中小企業を中心に多く見かけられます。多くの企業では、採用は空席ポジションの充当と考えられています。このような短期的ニーズを満たすだけでは、効果的、効率的採用とは言えません。
 まず必要なのは、採用ポジションの役割にあわせた・人物像・資質を明確にすることです。

 採用する人材の資質は、入社後のパーフォーマンスに決定的な影響を与えます。優秀な人材をコンスタントに採用するためには、それを可能にする制度が必要です。
 今後「採用制度」の解説パートで、採用計画/採用基準/求める人材の定義などの整理や採用方法、選考プロセス、面接のやり方などの制度化について解説する予定です。

6. 研修育成制度
 社員の人間性、知識、スキル等の向上は、全ての企業が目指しているものです。また、社員の育成は採用の困難さの対抗手段としても重要な施策の一つです。
 それにも関わらず、このような制度を持たない会社が、中小企業を中心に多く見かけられます。社員の育成には時間と費用がかかり、またその効果に即効性があるとは限りません。
 それだからこそ、社員の育成は計画、運用、事後のチェックの全ての段階を計画的に実施する必要があります。
 研修育成の目標は社員の能力アップです。能力アップのためには、種々の研修を組み合わせて行うのが合理的です。
 研修の種類としては、階層別研修、専門分野別研修、オンザジョブトレーニング、eラーニング等がありますので今後解説していく予定です。

7. 組織風土改革
 企業がより効率的または効果的に目標を達成するために、あるいは社員にやりがいを持たせ、自己実現を達成させるためには、組織風土改革が必要です。

 企業の目的を達成するために、どのように集団を統治したら良いかを実現する仕組み(組織)や、社員に共通の目標を持たせて、その目標に向かって社員を動員できるかを制度化すること(風土)が必要です。
 掲載回では組織のフラット化、権限移譲について解説し、また風土改革については、ビジョン・ミッション等の作成、種々の社内イベントの計画(以前解説したバランス・スコアカード制度など)ついて解説する予定です。

 次回以降で、個別のテーマで連載をします。
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 どうぞ宜しくお願い致します。