4. 採用制度

はじめに

 採用制度を確立していない企業が中小企業に多くあります。採用は欠員の補充を中心にせいぜい年に2-3名程度と言う企業が多く、そのような企業では採用制度を持つ必要性を感じないのも無理はありません。
 しかしながら、人的資源の質は、会社の業績に決定的な影響を与えます。

 もちろん入社後の教育研修によっても、人材の能力(知識・スキル・生産性・マネージメント力等)の向上は可能ですし、また実施すべきことですが、
 重要なのは、その社員のパフォーマンスの決定的な要因となる人材の基本的な資質を採用時に見極めることです。
 このような観点から会社の業績向上、社員のパフォーマンス発揮には、優秀な人材(基本的な資質に優れた人材)を継続的に採用する事、そしてそれを実現する制度が必要です。

1. 採用計画の作成

 採用活動は、まず第一に採用計画の作成から始めます。採用計画は人員計画に基づいて作成され、人員計画は会社全体の業務計画の中の人的資源計画の主要な部分を占めます。
人的資源計画には、業務計画により算定された全社計画、部門計画、部や課の計画等による必要人員数の算定が必要です。必要人数は単に数字のみならず、職階別、専門技術あるいは、分野別に縦横の格子を埋めるように算定し作成します。これらの格子をまず既存社員で埋めていき、埋められない格子に入るべき人員が採用されるべき人員です。

2. 部門別・職種別採用

 日本の大企業は新卒中心の定期採用及びゼネラリスト採用が主流でしたが、ここ数年大きな変化が起こりつつあります。それは、通年採用及びスぺシャリストあるいはスぺシャリスト志向者の採用です。
これは広義のIT 技術を中心とした技術の専門化・高度化の広まりの影響で、今後この傾向がますます強まるものと思われます。すなわち、採用前にどのポジションにどのレベルの人を採用するかについてのプロフィール(規格書)を明確にすることが必要となります。

3. 採用ポジションが要求する知識・スキル・経験・資格の明文化

 採用ポジションのプロフィールは職務記述書を使用するのが効率的であり最適ですが、それがない場合は、その都度作成する必要があります。プロフィールに必要な項目は次の通りです。

・ポジション名(職名及び職階、等級等)、所属部門、勤務地。
・指揮命令系統(直属上司のポジション名及び、下位者のポジション名)
・役割・目的
・主要職務
・管理・決済・承認範囲
・財務責任範囲
・予算管理金額
・必要とする知識、スキル及び経験年数
・当該ポジションに必須のあるいは望ましい保有資格等

4. 採用ソース(源泉)の決定

 採用者のプロフィールや人数が決まれば、次にどのような方法で採用を実施するかを決めます。採用のソース(源泉)は以下の通リです。

  1. 自社採用(インターネット、新聞、雑誌での採用広告の掲載)
  2. 採用代行会社の活用
    採用代行会社に採用の一部あるいは全部の業務を外注し、代行してもらう方法です。代行会社の利用は同一プロフィールに相当数の採用を行う新卒採用等の場合に効率的且つ経済的です。
  3. 人材斡旋紹介会社(サーチ会社・ヘッドハンター)の活用
    リテーナー方式(高職位のポジション向けで、採用依頼を受けてから、そのスペックにあった候補者の人選に入る個別受注方式で、高額)とノンリテーナー方式(採用依頼を受けると自社の登録者の中から該当者を選んで、顧客に推薦する方式で成功報酬型)のサーチ会社、およびその混合方式の会社があります。
  4. インターン制度
    この制度は、あらかじめ会社で必要とする専門分野の学生をインターンとして迎え、数週間から数か月間、社内で一定の仕事(多くは研修)につかせ、学生の能力や会社との適合性を確認の上採用を行うものです。

5. 選考プロセス

 選考プロセスは、選考者によって大きく候補者の選択が変わることを防ぎ、社内のコンセンサスにより合致した候補者の採用を実現するための制度です。

①書類審査
自社であらかじめ設定した基準(前述のプロフィール等)に基づいて行います。採用人数が少ない場合は全て自社で行うのが、物理的にも経費的にも勧められます。但し採用人数(従って応募人数)が多い場合は、全て自社で行うのは人的、時間的にも困難になりますので、前述の採用代行業者にこの業務の一部を外注することもできます。

②試験(テスト)
自社で開発した問題を使用する会社もありますが、その準備と採点に労力と時間がかかりますので、試験を利用する場合は外部の会社が提供しているものを購入するのが便利で有効かと思います。
最も多く使用されている試験に適性検査があります。適性検査には大き く分けて能力適性検査(知的能力や知覚、作業能力の測定),性格適性検査(行動様式や、ものの見方・感じ方など、日常的によく見られる行動特徴や性向を把握する)、興味・指向適性検査(職務や職場の選択場面においてみられる職業観や選択の傾向を見る)及び総合適性検査(前述3種類を組み合わせた総合的検査)の4種類があります。結論的には、総合適性検査が最も一般的で、時間的、経済的な面からも特殊な職種を除き、幅広い職種に対応する検査と考えられています。

③面接
面接は採用の中で最も重要なプロセスです。書類選考及び試験に合格した候補者に行う面接については以下のような制度を確立する必要があります。

ⅰ)面接評価シートの作成
面接の評価基準や着眼点を全ての面接者で共有するために、A4紙一枚程度の面接評価シートを作成すると、面接の効率化とより適格な候補者の採用に寄与します。面接評価シートのサンプルをダウンロードできるように致しましたののでご活用ください。

ⅱ)面接シートの使用方法
総合評価が(S,A,B,Cの4段階でSが最上位)、S及びAを採用候補者とし、B以下の評価を受けた応募者はそれ以降の選考から除外します。面接シートは人事部が2年間保管し、過去の面接で落ちた重複応募者の排除等に使用します。

ⅲ) 面接者の決定
必須の面接者は、採用者、採用者の上司、及び人事部の採用担当者です。上記以外に、採用部門の同僚となる社員(時に複数)や関連部門の管理職を加え、より公平・客観的な評価を実現することが望ましいです。管理職クラスの面接は、役員の参加を求めるのが必要です。面接者の人数は効率性も考慮すると、5人を最低とし、管理職クラスでは7-8人を想定するのが良いでしょう。

④採用者の最終決定
面接後、全ての面接者が可能な限り一同に会して、各自が自分の意見を述べた後、採決します。この会の進行は採用担当者が行います。会社によっては、採用委員会(部長や役員をメンバーとする)が最終決定を行う場合もあります。

6. 面接時訊いて良い質問・悪い質問

 公正な面接は、まず応募者の基本的人権を尊重した上で、応募者の適性・能力の把握のみを目的として行います。原則として当該ポジションの職務遂行に不可欠な被面接者の資質・知識・経験等に関する項目で、合理的理由があるものに限ります。

① 訊くべき・訊いて良い質問
・履歴書・職務経歴書等提出された書類に記載された内容の詳細
・在職先を含めた過去の就業会社の志望理由・退職理由
・職務経験の中で、最も困難な出来事及び、その困難をどのように乗越えたかについての具体的な経緯。
・職務経験の中で、最も成功した事及び、その結果が会社・部門に与えた影響(できるだけ金額等定量的に)
・応募職務の遂行に関連する長所・短所

② 聞いてはいけない質問
・本籍・出生地に関すること
・既婚か未婚か 恋人等の存在の有無
・結婚や出産の予定
・宗教、信仰に関すること
・支持する政党に関すること
・思想(特に政治的)に関すること
・労働組合・学生運動など社会運動に関すること
・家族に関すること(親兄弟・子供等の職業、続柄、健康、地位、学歴、収入、資産など)
・住宅状況に関すること(持家、賃借、間取り、部屋数、住宅などの種類)
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること(思想・信条に関わる部分)

7. 採用についての留意点(コスト管理)

 採用に係る費用を考慮しない企業が多いですが、採用コストを総費用で考えると今まで埋もれていた費用が顕在化し、必然的にコスト意識が高まります。
広義の採用費用として次の項目を認識する必要があります。

①採用直接費
 採用広告費・採用外注費・人材斡旋費等。

②採用間接費
ⅰ)被採用者が期待されるレベルの働きをするまでのコストで、給与・賞
与等の一定額(例:入社後3ヵ月の戦力率が70%ならコストは給与等の30%で3ヵ月分)。
ⅱ)被採用者の教育研修費等。
ⅲ)被採用者の上司・同僚の当該被採用者に要する教育訓練(OJT等)
費用(例:2ヵ月間の各人の勤務時間の20%の金銭換算額)。

8. 採用制度実施後の良い点・改善を要する点

良い点

  1. 全般的に採用ポジションに以前より的確な人の採用ができた。
  2. 上記①の結果、被採用者の職務への適合が早まり、期待される職務水準への到達が早くなった。
  3. 選考に以前より多くの人が参加した結果、既存社員の被採用者に対する溶け込みが早まった。
  4. 離職率の低下に寄与していると感じる。

改善を要する点

  1. 採用が急に決まる等の理由で、採用ポジションのプロフィールを作成しないで採用に入ることがあった。
  2. 採用期間に余裕のない場合、制度の一部適用ができない場合(面接者の数の確保等)があり、制度の徹底には関係者の協力が必要であると感じた。

今回は採用にクローズアップさせて頂きました、「人事の眼」では採用を始めとする人事の様々な領域について解説していきます。