心理カウンセラーのカウンセリング事例(後編)

株式会社ソーシャルネットワークス 横島 彰 HRシニアコンサルタント 心理カウンセラー

■プロフィール
1986年に株式会社船橋そごう(現 ㈱そごう・西武)に入社。主に百貨店の人事・総務部門に従事し、労務管理や採用業務を担当後、能力開発部門にて企業内研修のインストラクターとして若手社員から管理職までの研修を企画実践する。また、お客様相談室も担当し、クレーマー対応の実行部隊として従事し、多くの問題を解決した経験を持つ。
その後、百貨店での経験を活かし、人事総務部門向けに、企業研修のインストラクターや採用支援、近年組織で大きな課題となっている企業のメンタルヘルス対策の人事コンサルや心理カウンセラーとして人事担当者に変わり、企業内のメンタルヘルス不調者(休職者・復職者)へのサポートを行っている。
また、2015年から実施が義務付けられたストレスチェックを(株)東京メンタルヘルスと提携して実施している。ストレスチェック実施後、産業医と連携し高ストレス者向けのカウンセリングも行う。
人事担当者向けに休職・復職プログラムの設計やメンタルヘルス対応についてのレクチャーを行っている。
企業研修では、組織人として必要なヒューマンスキルを分かり易く、すぐ実践できることをモットーにビジネスマナー研修、コミュニケーション研修、クレーム対応研修、メンタルヘルス研修など独自の手法で展開している。

問い合わせ先
MOBILE:090-8046-3783
E-mail: yokoshima@social-networks.co.jp
http://www.social-networks.co.jp/

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■ 寄 稿

カウンセリング事例

 前編ではケース1とケース2をご紹介しました。引き続き後編ではケース3、ケース4、ケース5をご紹介します。

  • ケース1.

    入社一年目、発達障害グレーゾーンの男性社員Aさん

  • ケース2.

    まじめで頑張りすぎる自律神経失調症と診断された中途入社の女性社員Bさん

  • ケース3.

    出張中に先輩社員から叱られたことが原因で突然いなくなった入社2年目の男性社員Cさん

  • ケース4.

    人の目が気になり緊張してしまう、妄想性の統合失調症と診断された40代の男性社員Dさん

  • ケース5.

    同期との口論が原因で適応障害と診断され、出社できなくなり試用期間で辞めてもらった新入社員のEさん

心理カウンセラーのカウンセリング事例(前編)はこちら

ケース3. 出張中に先輩社員から叱られたことが原因で突然いなくなった入社2年目の男性社員Cさん

【カウンセリング開始の背景】

Cさんは勤務態度が不良であったため、注意されたことをきっかけに突然いなくなってしまい、連絡はしたが繋がらない状況が続きました。ある日Cさんから「あの先輩と仕事をするのは無理なので会社に行けない」と連絡があり、適応障害との診断が出て休職することになりました。人事責任者から「復職が難しいかもしれないのでサポートしてほしい」との依頼で、Cさんを復職支援をすることになりました。

【相談者の経過レポートと回想】
復職支援で行ったこと

復職支援で最初に行ったことは、生活のリズムを整え仕事ができるようにリハビリを行うことでした。内容は、通勤訓練として外出してもらうことに重きを置きました。

  • 日々の睡眠時間のチェックする
  • 生活のリズムを3段階でチェックする
  • 日々の計画(例:公園まで散歩する、図書館に通う等)を実施したら療養記録にチェックする

面談を続けると

休職中の面談で、給与が出ないので生活が大変だと言うので、傷病手当金の申請をしていないか尋ねると、申請はしないということでした。その時は彼の実家が水産加工業を営んでいることを知っていたので、実家から仕送りがあったのではないかと思っていました。

面談を数回行い、主治医や産業医の復職可の診断が出て復職に至りました。配属先は以前の部署ではなく、人事部付となり、復職後のサポートを継続的に行いました。面談では気になっていたことをいくつか質問をしました。身だしなみの点で、彼は髪の毛を腰のあたりまで伸ばしていたので切らないのかと尋ねると切らないと言いました。休職中、仕事の復帰に役立つために勉強していたというので何をしていたのか聞くと、仕事に関連するかなり難易度の高い資格取得を行っていたようです。仕事中はイライラして周りとのトラブルもあったようで、言い出したら自分を抑えることができないようでした。採用面談のサポートを行うことになりましたが、学生の言動に怒りをぶつけるかのように吐き散らすなど、社会人としては未熟な態度を見せてしまうこともあったようです。

その後

休職時のサポートから1年ほどが経ち、メンタル面での心配はなくなった為、面談を終了しました。その後、自身が希望する職場に異動することができたようです。

人事の担当者から聞いたところによると、休職中にお金に困り、倉庫のピッキング作業のアルバイトをしていたようです。休職した本当の理由は病気ではなく苦手な先輩から逃げたかったのではないかと感じた為、精神科の先生に相談したところ、自己愛型パーソナリティー障害の青年ではないかと言われました。病気の可能性もあったことを考えると、復職支援サポートはCさんの為になったのではないかと感じました。

ケース4. 人の目が気になり緊張してしまう、妄想性の統合失調症と診断された40代の男性社員Dさん

【カウンセリング開始の背景】

Dさんはストレスチェックで高ストレス者となり、カウンセラーとの健康相談を希望したのがきっかけで、面談することになりました。

【相談者の経過レポートと回想】
面談で分かったこと

Dさんは18歳の時、家で過呼吸になり、パニック障害と診断され、30年以上精神科に通院していました。また、うつ病と診断され、この時から「また発作が起きたらどうしよう」と不安になり、飲食店やコンサートに行けなくなり、タクシーにも乗れなくなったようです。通院している主治医からは統合失調症の一部の妄想性障害と、強い対人恐怖が入り混じった症状と言われたそうです。特に女性の目が気になるようで、「店員の目から自分を変な人と見られている」「ホームで並んでいる女性の後ろに並んだら逃げられた」「スーパーで挙動不審で気持ち悪い人と思われる」など妄想のように人目を気にしていました。そのため、他人には当たり前にできることが、Dさんはできないと言っていました。

生活リズム表で分かったこと

生活リズム表をつけてもらって分かったことは、睡眠時間に問題があるということでした。平日は毎日7時に起き、睡眠時間は5時間くらいで、休日は15時や16時に起き、睡眠時間は14時間から18時間でした。睡眠時間の格差について理由を聞くと、薬の種類が何度か変わり、今の薬が一番自分に合っているのだが、副作用でだるさや眠気が強く出るとのことでした。平日も朝起きて朝食をとりながら寝てしまい、会社を休むことや遅刻をしてしまう時があるようでした。また、勤務中の眠気が辛い時もあったようです。

その後

5年ほど面談を続け、だるさや眠気が弱くなり突然の休みや遅刻は少なくなり、人と話すことにも緊張しなくなっていきました。主治医からは、この病気は治らないと言われているようですが、彼が以前よりも生活しやすくなっていることに喜びを感じました。病気で悩んでいる方には、Dさんのように医療機関や心理カウンセラーなどのサポートを上手く活用してほしいと改めて思いました。

ケース5. 同期との口論が原因で適応障害と診断され、出社できなくなり試用期間で辞めてもらった新入社員のEさん

【カウンセリング開始の背景】

Eさんは2022年度入社の新入社員で、他の新入社員と比べ優秀そうに見えましたが、6月に人事担当者から心療内科にて適応障害、不安、抑うつ状態との診断書が出てしまったので、面談しサポートしてほしいと依頼が来ました。

【相談者の経過レポートと回想】
面談で分かったこと

Eさんが適応障害となったきっかけは、同期のトラブルが原因とのことでした。Eさんから状況を伺うと、同期からいろいろ指摘され、最後に「お前とは仕事をしたくない」と言われたことに強いショックを受け、メンタル面で不調となったようです。会社に出社できなくなるほどのトラウマになるのか疑問に思い過去のことを聞いてみました。

小学生のころ、全体責任で担任から全員叱責され、怖かった思い出があったようです。中学生のころも同じように全体責任で叱責され、体調を崩し2日間休んだことがあったようです。しかし今回のように同期とのトラブル後、吐き気やだるさが続いたことは初めてとのことでした。

その後

適応障害と診断されてからは、主治医から処方された睡眠薬、抗不安薬を服用していまし。しかし、その後も動悸、意識を保つことが精いっぱいでフラフラしてしまい休みが続いたようです。自分にも落ち度があるかもしれないが、上手く言い返せなかったと悔しい思いをしているようでした。また、同期への恐怖心が強く、精神的に追い詰められてしまったようでした。Eさんは、思うようにできない自分が悔しく、前向きに考え方を変えていこうと思う気持ちを持っていました。休んでばかりいて会社に迷惑をかけている自覚もあり、このまま勤めていきたいと思うが、試用期間中の出来事であり、辞めさせられるかもしれないとも考えていました。月曜日に出社はしたが、気分が悪くなり早退することもあったようです。その後も休みが続き、会社としてもこのままでは働くことは難しいとの判断で、弁護士を通し試用期間で会社を辞めてもらうことになりました。

Eさんは悔しい気持ちや葛藤を上手く処理できず、心にため込んでいましたが、多くの人も上手く感情を表現できないような経験が一度はあるのではないでしょうか。心理カウンセラーとしては、もっと寄り添う時間があればなと惜しい気持ちになりました。

おわりに

 前編、後編に分けて経過レポートと回想事例を5つご紹介しました。9年前から顧問カウンセラーをしている企業の、不調者に対しての実際の現場であった“生の経過レポート”と私の回想でした。如何だったでしょうか。今回は特に印象的な事例を5つご紹介しましたが、これはこの企業の特異な事例では決してなく、皆さまの会社にもありえ、起りえる事例だと思い寄稿しました。
 私は企業のストレスチェックが始まってからは産業医と連携し、高ストレス者への健康相談を数多く行っています。カウンセラー、産業医、人事部が上手く連携を取り対処していくことが大切です。少しでも参考にして頂ければ幸いです。


2023年2月22日

採用の失敗を防ぐ 適性検査HCi-AS

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