適応障害で休職しないためには?産業医が語る適応障害・発達障害

認定産業医・メンタル法務主任者 三宅 琢 氏

 去る3月10日定例の弊社お客様向け勉強会を開催しました。
講師に認定産業医の三宅琢氏をお招きしました。三宅氏は2014年7月より株式会社ファーストリテイリング本部産業医に就任、それ以外にもライザップ・佐川急便・西友等々を顧問先に持つ、注目される産業医です。昨年12月より50名以上の事業所でのストレスチェック制度の開始にともない、講演活動や企業へのアドバイザーとしてご多忙の中、ストレスチェック制度と精神疾患に関して、より具体的にお話頂きました。三宅氏の講演をまとめました。

■ 講 演

<ストレスチェック制度について>

 2015年12月より施行されたストレスチェック制度は、ひとつの事業所に50名以上の従業員がいることが条件となっています。大切なことは、病気の社員を探し出す制度ではないこと。上手に活用するために、まずその前提として、その目的を正しく理解しておくことが重要です。
 この制度は、労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身の気付きを促すとともに、職場改善につなげ働きやすい環境づくりを進めること。その上で、労働者がメンタル不調となることを未然に防止すること(一次予防)を主な目的としています。ポイントは、労働者本人にメンタル不調について自ら気付いてもらうことを促すものだということです。
 ストレスチェック実施後、疲れやストレスが溜まっていると感じたら、本人の希望に応じて産業医と面談をさせます。ちなみに産業医との面談をさせるかどうかは企業の努力義務になっています。産業医との面談では、メンタル不調の状態やストレスの原因について話し合いながら解決を目指します。必要であれば勤務状態や職場環境の改善を産業医から提案してらうこともできます。
 ストレスチェック制度は、本人の気付きを促すセルフケアの一環であるので、実施に当たっては内容や目的について社員に十分説明して理解してもらう必要があります。実施された結果も最高の個人情報なので、上司はもちろん経営者も閲覧は禁止です。当然人事評価や処遇に利用することは厳禁です。

<適応障害について>

 適応障害は、「五月病」を例にとると理解しやすいです。
 4月に入社した社員や、クラス替えがあって新しい環境に馴染めなかった人が、鬱鬱とした気分になる。これが五月病です。この五月病は、その名のとおり鬱鬱とした気分が1年間ずっと続く、ということは基本的にはないのです。
 要するに、「環境」の変化に対応できず、気持ちや体の不調が起こるのです。そこで大騒ぎをして病院に行くと、たいていは抗うつ薬を処方されます。そこで飲んでしまったら、副作用の方が心配です。適応障害は、病院より産業医の方が適切な指導ができると、三宅先生は話されます。会社や上司に、その社員さんの環境を変えてください、とかこのやり方はダメですよ、とアドバイスできるのは産業医なのです。適応障害を考えるうえで重要なことは、抗うつ薬が適応障害を治すのではなく、産業医が適応障害を治すのだということです。
 今、適応障害やうつ、不眠症など様々な診断書を持って休職を希望する社員が増えています。なぜこんなに適応障害の方が増えているのでしょうか。
 三宅先生はひとつおもしろい実験を紹介されました。メダカの水槽に天敵の大きい魚を一緒に入れて飼うというものです。大きい魚には餌をあげて絶対にメダカを食べない状態にするというのが条件です。そうするとどうなるか。メダカはいつ食べられるか分からないという不安と恐怖で、次第にうつ状態になっていきます。水槽の下の方でメダカ同士が寄り添ってじっとしてほとんど泳がなくなります。不安と恐怖が続く状態は、交感神経が緊張した状態です。この状態が2週間くらい続いた結果、うつ状態・適応障害になってしまうというのです。これはメダカだけでなく人間も同じです。
 適応障害になった社員への対応として重要なのは、どうしてそうなったのか、働く上で何がストレスになっているのかを聞いてあげることです。人間関係、勤務状況、仕事環境・・・等。その上で解決するにはどういう方法が良いかを考えないといけません。適応障害は働く環境が大きく影響していますので、すぐに病院に行かせて薬を処方してもらうよりも、産業医がじっくり話を聞いて治す方法が好ましいのです。

<メンタルヘルス対策の基盤はラインケア>

 職場において、産業医や心療内科にお世話になる前に、本来現場としてできるのが「ラインケア」という発想です。管理監督にあたる立場の人が社員への指導や相談を行い、職場環境の改善を行うことです。実際これを実行していくのは非常に難しいのが現状です。一番簡単な「ラインケア」は何か。それは日頃の挨拶です。「おはようございます」と言わなかった企業が「おはようございます」と社員全員が言うようになったら、その会社で適応障害やうつ病が減った、という事例が結構あるようです。さらに「おはよう山田くん」と名前を付けて挨拶ができるようになれば完璧だそうです。
 コストをかけずにどの規模の会社でもできる取り組みなのでお勧めします。

<発達障害について>

 発達障害は近年職場において非常に話題になっています。アスペルガー症候群やAD/HD(注意欠陥多動性障害)といった症状が有名です。三宅先生は発達障害の子供たちと接する機会もあるそうで、発達障害は障害ではないと言います。こういった子供たちはIQが170~180もあるスペシャリストが多いため、普通の義務教育には馴染まないようです。発達障害は一つの個性、特徴と捉えるべきものなのかもしれません。また近年では、発達障害はグラデーションだという考え方もあります。発達障害が普通の人も含め何割くらいあるか、そういった考え方です。自分は発達障害の割合が1%くらいなのか、あるいは社会的に支障をきたすレベルな
のか、そういった差があるだけで私達も多かれ少なかれ持っているものだということを理解しなければなりません。
 発達障害の方への対応として一番重要なのは、彼らの特徴や多様性を受け入れることです。発達障害の方に普通の仕事を普通にやってもらおうとしたら、大変なストレスになります。その人達の強みや、仕事としてできることが何なのかを見つけていかなければなりません。時にはできる仕事を作らなければならない場合もあります。
 発達障害の方が基本的に苦手と言われているのが、周囲とのコミュニケーションを取ることです。特に電話応対は相手の表情が見えない為、発達障害の方はほとんど相手の話を理解できません。また、口頭で指示されることも苦手としています。発達障害の方への指示は、基本的に絵や図にして指示をすると上手く伝わるそうです。
 ITを活用することも有効です。発達障害の方は普通の人が簡単に覚えられることが覚えられなかったりします。覚えられないことを無理やり覚えさせようとしても意味がありません。彼らの特徴なんだと割り切って、最近ではスマートフォンやタブレット等のITを上手く活用して対処するのが最善です。例えばスマートフォンを使ってメモを取らせたり、指定日時の予定を知らせてくれるリマインド機能を使うようにするなど。こうすれば業務への支障を抑えることができるそうです。

<メンタル不調からの復職について>

 メンタル不調で休んでいた社員が戻ってきたときにどうやって働いてもらえば良いか。重要なのは「配慮」と「遠慮」だそうです。
 「配慮」というのは復職後の仕事を本人と相談しながら業務に就かせていくこと。最初は比較的単純な作業からにしてみよう、最初の2週間は残業はしないようにしよう等、話し合いながら決めていくのが基本です。一方、勝手に想像してこの業務はやらせないとか勝手に業務を減らすというのが「遠慮」です。遠慮をするとかえって周りに負荷がかかってしまい、適応障害が連鎖するなんてこともあり得ます。元通りの仕事ができるようにすることが復職化です。「配慮」と「遠慮」ということを意識して復職を促していくことが大切だということです。
 昨年12月から実施されるようになったストレスチェック制度を中心に、具体的なメンタルヘルスに関して、三宅先生にお話し頂きました。

インサイト No.46
2016年7月15日

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