中国(上海)大学生就職事情

上海達辰商務諮詢有限公司 王 文迪

今回の中国レポートを寄稿してくれた王さんとは、5年前にヒューマンキャピタル研究所が中国上海に進出したときからの良きパートナーです。5年前の初々しさから、今では中国の拠点の立派な総経理(経営者)として、多くの日系企業と取引しています。

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■ 中国(上海)大学生就職事情

名門「上海交通大学」の正門

はじめに

 先日偶然に陳という友達に出会いました。彼女の境遇を聞いて同情を禁じえなかった。陳さんは、一昨年中国では一流の上海交通大学を卒業しました。卒業後、より高度な学問を身につけるために、陳さんは、親戚から大金を借りてイギリスへ留学しました。3年間異国でいろいろと苦労をして、やっと学業を完成させMBA(経営学修士)を獲得しました。しかし、今年帰国した時はちょうど就職難に遭って、理想的なよい就職先はおろか、少しでもいい仕事もなかなかみつからないそうです。
陳さんに「大学院の卒業生でさえ就職先が見つからないのなら、普通の大学卒業生はどうしますか」と聞いたところ、「会社側にとって新卒は皆同じく経験がない人だ。最近、大学卒業生の中に2・3種類の外国語ができる人や、2つの専門の学位を持っている人も多いし、就職難で大卒の方が会社側に対しての要求も高くないし、院卒よりかえって人気がありそう。特にわたしのような帰国留学生は、給料などの要望がべらぼうに高いと思われて、敬遠されるようです。上海では3年前が応募者の売り手市場で、交通大学の卒業生も非常に人気があり、私の同級生はほとんど外資に高給で雇われました。今、彼らは抜擢されたり、外国での研修があったりと皆得意がっています。あの時イギリスへ行かなかったらよかったのに…」という答えでした。ほんとうに運命のいたずらですね。
 さて、上海だけでなく中国の一般的な大学卒業生も、かつて経験したことのない大変な就職難を味わいました。多くの大学新卒者が大変苦労してやっと獲得した卒業証明書は、彼らの失業判決書になってしまうと言っても過言ではありません。原因は単に不景気で企業が採用を控えているからだけではありません。99年中国政府が大学生募集拡充計画を実施して以来、今年は卒業者数のピークを迎え、新卒者数は去年の145万から今年の212万人に急増しました。一方、5月ごろSARSの流行が抑制されてから、企業側の募集活動はだんだん回復してきました。ただ一番募集が活発なのは経験や即戦力が必要なIT関係の業種であって、実践的でない新卒者、特に文科系の卒業者にとっては、進路はなかなか見つからない状況です。

 ここで北京大学「高等教育規模拡大及び労働力市場」研究グループの発表した資料を紹介します。これは、2003年の6月ころ全国大学卒業生の就職状況として発表され、具体的には中国の東・中・西部の大学卒業生2万人を対象にしたものです。

●どの方法によって、求人情報をもらいましたか?

●現在の社会環境で最も有効な求職方法は?

●どういう基準で会社を選びますか?

重視度の高い順に並べると以下のとおりになります
1、自分の将来性
2、自分の才能を生かすことが出きる
3、賃金、福利厚生
4、自分の趣味に合うかどうか
5、会社の知名度
6、仕事の安定性
7、会社の場所
8、自由度
9、会社の規模
10、会社の性質
11、仕事は楽かどうか
12、仕事の権限

 
 全体からみると、大学生は自分自身で就職のための基準を考え、就職活動をしています。しかし、実際のところは、採用通知書をそんなにたくさんもらえないので、昔のように各会社の知名度や待遇などを比べたり、家族と学校の先生と相談したりする余地がなくなって、少しでもよい職があれば、急いで自分の要求を下げてでもすぐ就職を決める人が少なくないのが現状です。もっと深刻なことは、このような就職難は緩和するどころか、これから益々厳しくなりそうなことです。
中国教育部の計画によって、これから大学卒業生の数は年とともに10%-30%の比率で増加していきます。それと中国の高等教育は平民化教育へ次第に転換しています。これは中国の大学卒業生はもう昔のようにエリートではなく、激しい市場競争に直面しなければならないと思います。現在の大学在校生たちはすでに、厳しい就職事情を認識してそれに頭を悩ませています。一方、みんな積極的に自分の将来の進路も計画しています。上海復旦大学青年研究中心が実施した本年の上海の大学一年生の研究調査によると、卒業後海外留学を目指す学生は30.7%、また大学院に進みたいとする学生は38.8%であるのに比べ、就職を希望する人は9.2%に過ぎません。ですから、これまで若い人にとって一番気楽であった大学生活は、ここ1,2年で状況が一変しました。自分の夢を実現するために、学生たちは一生懸命にいろいろな試験を受けています。CET4,6級(大学レベル)や、コンピューター中級などはもちろん、多くの学生たちはTOFEL、IELTS、GRE、GMAT、MCSE、中・高級通訳、同時通訳などの試験まで頑張っています。それから、日本語、フランス語、ドイツ語など昔は「小語種」と呼ばれていましたが、在校中に1級、2級レベルに達した人は少なくはありません。目標を達成するまでずっと試験を続けることのストレスは、かなりハードです。
別の見方をすると、中国では企業が必要とする人材を採用しやすい時代になったとも言えるかもしれません。

インサイト復刻版 No.2
2004年1月23日

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