大学ジャーナリストが語る、今どきの学生・就活事情
大学ジャーナリスト 石渡 嶺司 氏
本年第3回目のお客様勉強会を、さる8月28日に開催しました。
講師に大学ジャーナリストの石渡嶺司氏をお招きいたしました。
石渡氏は、「就活のバカヤロー」(光文社新書)「バカ学生に誰がした?」(中公新書)等々一見過激なタイトルの本を書かれていますが、誰よりも多く大学を回り、多くの学生と交流して、現場を知る数少ないジャーナリストです。現状を改善したいという、愛ある警鐘からの言葉だと理解できました。では、当日の講演から抜粋で報告いたします。
■ 講 演
【はじめに】
ご紹介頂きましたライターの石渡と申します。私はフリーランスの大学ジャーナリストとして活動しております。通常ですと就職情報会社、就職コンサルタントの講演会が多いと思いますが、本日は普段とは立ち位置が異なる視点のお話をさせて頂きます。
【就職活動状況】
まず、新卒の就職状況からお話しすると、2013年の学校基本調査に出ている就職率( 内定率ではなく卒業者ベース)は67.3%と、売り手市場と言われた07年の67.6%、08年の69.9%と同程度になりつつあります。2015年卒については従来のスケジュール通り12月に就職サイトが開設し、2月~4月に選考、5月~6月には採用活動が終わる。そして2016年度は「就活の後ろ倒し」が決定しています。2016年卒からは3年生の3月から就職サイトが開設し、選考活動は4年生の8月から始まる状況に大きく変わります。就職協定には、罰則も法律もない。だから守る企業が少なくなるという歴史が繰り返されてきました。私は今回の新協定にも罰則規定も無く法律もないため、早ければ3年以内、長くて5年で潰れると予想しております。また、就職活動が後ろ倒しになると大手企業が得をすると言われていますが、逆に新協定に縛られない分、中小企業が得をすることもあるのではないかと思います。
今年(2013)のインターンシップは、昨年に比べ3~4倍と極端に増えました。多くは、1日インターンシップです。就職倫理憲章で1日インターンシップはやめる方向が示され、一時激減しましたが今年は盛り返しました。これは企業の知名度を上げる、或いは学生の就職に対する理解を深めることを考えますとある程度はやらざるを得ないのかなと思います。
【今どきの学生について】
「今の学生は昔と違う」という背景には、私は1いじめ・2教養課程廃止・3現役志向・4出席強化・5デジタルネイティブが原因として考えられます。①いじめ いじめっ子、いじめられっ子、あるいは傍観者に関わらず、この3者に共通していることは「悪目立ちをしたくない」。目立つと今度は自分がいじめられるといった思考です。大学生や社会人になった後も持ち越す人が多いのです。②教養課程廃止 1997年に国公立(東京大学を除く)と私立大学を含め教養課程が廃止されました。経済界から大学へ「専門課程を強化しなければ、日本の学生は専門性が身につかず、国際競争に勝てない」という教養課程に対する批判が殺到し廃止されました。その結果、専門分野はかなり詳しい学生が増えましたが、一方で教養については全く勉強しなくなり、視野が非常に狭い学生が増えました。現在、経済界の重鎮は若者に向け「今の学生は教養が足りない」と言っています。③現役志向 以前は国公立や私立の難関大学については地方出身者が相当数いました。それがバブルが崩壊し、現役、地元志向が非常に強くなり、早稲田大学でも2013年4月入学者の出身地調査によると、関東の出身者が78.62%と関東ローカルな大学になっています。④出席強化 2000年代半ばから大学の出席評価が非常に厳しくなりました。以前は、ろくに出席しなくても単位を取得できる状況でしたが、今はそうはいきません。今の学生の方が真面目そうですが、一方で「出席さえすれば文句はないだろう」という学生が増え、講義を聞かずおしゃべりに興じるなど「出席はしているが聞いていない学生」が増えたのです。⑤デジタルネイティブ(生まれながらに携帯電話やPCが身近にある状態) 電子機器の扱いにおいて非常に長けており、「何かを計画する能力」もあります。しかし残念ながら同じデジタルネイティブでもSNSを上手に使う学生と使えない学生がいます。うまく使えない学生は、5~10%程度いるのではないかと思います。
【大学について】
私が仮に採用する立場でしたら、芸術系学部、理学部、体育系学部の学生をそれぞれ優先します。体育系の学生にストレス耐性があるとはよく聞く話ですが、美術系学部と理学部の学生の利点は、結構勉強しているという点です。理学系の学生は実験に明け暮れ、芸術系の学生は物作りをして当たり前という前提があります。何となくアルバイトをしていた学生や、サークル活動をしていた学生と比べ、はるかに良い経験をしています。理学系の学生は工学部系の学生と比べ就職先が限られます。それから芸術系学部の学生というのもデザイナーやフリーランスの芸術家になるという学生もおりますが、半分位は民間企業への就職希望ですからお勧めです。体育会系、理学系大学で偏差値の高い大学が必ずいいか、と言えは必ずしもそうではなく、大学時代から社会との接点が多いという人なら問題ないと思います。慶応大学のキャリアセンターは就職活動支援に積極的ではないという話がありますが、慶応大学の学生は就職活動がボロボロかと言ったらそんなことありません。三田会というOB会が強いことやゼミ活動が盛んでゼミの先生が「学外と接点を持て」と強く指導しています。学生は慶応大のOB・ OGに関わらず「自分にとって有益」ならばどんどん話を聞きに行くスタンスです。それに対し、甲南大学のキャリアセンターは積極的な典型です。甲南大学では毎年2月頃に一泊二日の東京就活合宿を開いています。こういうバックアップがあってか結果的に参加者は希望通りの企業へ内定する学生が多いようです。時間になりました。ご清聴有難うございました。
インサイト No.36
2013年12月16日