採用素人集団の成功への軌跡

株式会社船橋屋 執行役員 佐藤 恭子氏

 さる9月27日(水)に、本年第三回目のお客様勉強会を開催致しました。
 講師には、株式会社船橋屋執行役員の佐藤恭子氏に登壇頂きました。船橋屋さんは、創業が江戸時代文化2年ですから210年を越える老舗です。亀戸天神の参道入口に本店を構え、くず餅は多くの歴史上人物も愛し、西郷隆盛・芥川龍之介・永井荷風が通ったと言われれています。中でも文豪吉川英治は、船橋屋さんの黒蜜を気に入り、蜜だけ特別にもらっていたそうです。そんな縁で、船橋屋さんの毛筆看板文字は吉川英治の書となり、現在の暖簾や商品に使われています。
 佐藤さんは、2004年新卒で入社。体育会系だったバイタリティを発揮、古い体質の現場に新風をもたらしました。ただ、古参社員からはねたまりたりで、入社当所は大変なご苦労があったとお聞きします。今では船橋屋さんの歴史で初の若き執行役に抜擢され、社員の採用育成に日々奔走されています。そんな苦労話も含め、お話頂いた採用への工夫・取り組をレポート致します。

採用の失敗を防ぐ 適性検査HCi-AS

■ 講 演

 今日は、私が採用担当として取り組んだ改善内容に関してお話させて頂きます。
 今でこそ社員同士の仲が良く、風通しがよい職場と言われる船橋屋ですが、私が入社した2004年当時はこういう社風ではありませんでした。新入社員は3年続けばいいという時代で、男性学生は一切採用しない、女性の販売員しか採用しないという採用方法を取っていました。
 当時、8代目社長の渡辺には「社員が船橋屋で働いて本当に良かったと思える会社を作りたい」という強い思いがありました。7代目から8代目に事業継承を行った際、船橋屋の社員は9割が辞めてしまいました。船橋屋は同族経営で、6代目と7代目は養子、8代目の渡辺が実子。先代の7代目はどちらかというと暖簾を守る経営でした。それを8代目の渡辺がある意味攻める経営に変えました。会社の方向性や考え方が一気に変わったことに納得がいかない社員が、結局辞めてしまったと思います。その時、船橋屋の経営課題を改めて考えました。5つの課題があげられました。
1. 社員が高齢化し、新しいことに懐疑的になって経営のスピードが鈍る。
2. 経営幹部人材・幹部候補人材の不足。
3. 古い職人体質の「技術は盗め」といいう指導で、事業を支える職人が育たない。
4. 旧態依然とした属人的なマネジメントで、即戦力の中途社員を採用しても短期間で退職。
5. 新卒採用では将来幹部候補生となるターゲット人材になかなかリーチできない。

【はじめに】

 
 そこで、「社員が船橋屋で働いて本当に良かったと思える会社を作る」という社長の強い想いに応えるにはどうしたら良いか、と考えたときに、まずこの社長の想いを同じにする仲間(=同士)を作ることに重点を置きました。そして、「新卒採用」に取り組みました。

 その頃、船橋屋では会社に変革を起していくために、社内プロジェクトマネジメント制度を導入しました。船橋屋のプロジェクトマネジメント制度は、販売や営業、製造、企画など事業部門別に職位・職階を駆け上がっていくタテ軸とは別に、ヨコ軸にプロジェクトチームを組織します。このプロジェクトチームでは職位や勤続年数に関係なく、社員が自らの意志で主体的に考え、若手・中堅・幹部社員関係なく、プロジェクトリーダーに就任するものです。その中で、私は組織活性化プロジェクトメンバーとして経営課題をクリアにし、組織を活性化していく役目を担い、新卒採用の活動を進めていきました。
 私がプロジェクト活動で新卒採用を行った時の、実際の採用のデータをご紹介します。船橋屋は毎年4~5名の採用枠です。2008年当初のエントリー者数は250人、徐々にエントリー数が増え、2011年には約5000人になりました。
 エントリー数を増やすために、まずは、自分たちで出来ることをやるというスタイルにしました。具体的に私たちがおこなったことをご紹介します。

【就職サイトの原稿修正】

 それまで男子学生を採用していなかったことと、今後の将来の幹部候補生として男子学生へのリーチ数を高める施策を打ちました。(リクナビサイトを使用)
 まずは、就職サイトの改善です。最初にトップ画面の写真変更をしました。2008年採用のトップ画面はおじいちゃん職人の写真、くず餅の写真、そして私の写真を使っていました。この3枚がトップページにあって男子学生の興味を引くかと言ったら、どうでしょうか。
 2009年の採用を強化した年の写真は、社長・くず餅・幹部男性に変更しました。この年初めて男子学生を2名採用することが出来ました。現在は今まで採用してきた若手社員とベテラン社員が合わさった写真を使うことにより、老舗の企業でも若手も活躍しているというイメージ付けが出来るようになりました。今、インスタグラムが流行っているように、まずは写真のインパクトが大切で、どう見せるかが重要です

 また、就職サイトの言葉づかいの見直しをしました。船橋屋の事業内容を当初は「くず餅の製造・販売」と書いていました。事業内容としては正にその通りですが、学生が魅力的に感じるかということです。これを212年続いている船橋屋の事業を【伝統継承事業】とし、また創業200年にオープンさせた和カフェ事業を【伝統創造事業】としました。ただ作っている、ただ販売しているではなく、日本の伝統を次世代に繋げる事業、そして伝統を創造し生み出していく事業という打ち出した方が、魅力的ではないですか?
 言葉を変えるだけで、イメージがぐっと変わります。

【人事ブログの毎日更新】

 リクナビに人事ブログという機能があります。今は採用期間が終わっているので更新はストップしていますが、当時私が担当していたときは365日毎日更新していました。
 ブログを更新しても効果がない、労力が相当かかるイメージがあるため、やらない方の方が多いハズです。また、どんな内容を更新したらいいかわからないという方もいらっしゃるかと思います。なぜ?毎日なの?とよく聞かれますが、きっかけは学生に、「老舗のイメージってどんなイメージですか?」と聞くと…必ず返ってくる言葉が「古くさい」「堅苦しい」「おじいちゃんばっかりが働いてそう」「閉鎖的」でした。そこで、うまくこの固定観念を良い意味で裏切りたいと思って始めたのが人事ブログです。ブログを使って写真をアップし、顔文字を使ったり、文字をカラフルにすることによって、「老舗」という枠を越えて、社内の様子や雰囲気を正しく伝えることに成功しました。

 また、リクナビには学生がブログを読んで「読んだ気持ちを伝えて」「面白かった・役に立った!」というコメントを入力できる機能とボタンとがついています。当時はこの機能を上手く使い、数名の社員の協力を得て「仕事のやりがいコンテスト」を開催しました。仕事のやりがいについて500文字のエピソードと自分のお気に入りの写真1枚をブログにアップしていきます。「このコンテストの優勝者を決めるのは学生のいいね数とコメント数です」、「誰が優勝するかはみんなで決めましょう」、と学生を巻き込みました。この結果、アクセス数がいっきに上がると同時に学生との距離感を縮めることに成功。説明会などの場で「ブログ見ました」「投票しました」と学生から声を掛けてくれることが多くなりました。今は曜日ごとに担当者とテーマを決めて更新しています。内容は担当者が好きなことを自由に書いています。アクセス数とエントリー数というのはある程度比例していますので、アクセス数を増やすという目的でブログを更新しています。

【イベントに参加し学生に想いを直接伝える】

 当時、男子学生の採用に力を入れていたので体育会学生を対象とした合同会社説明会に参加しました。他企業の担当者はほとんどスーツを着ていますが、私たちはコーポレートカラーのTシャツで参加しました。ラフ感を出すことにより学生の目を引き、ブース自体も異様なブースにして他社との見た目での差別化を図ることで、学生との距離を縮めました。
 また、独自イベント「スイーツの夕べ」を開催しました。このイベントは広尾にある和カフェ「船橋屋こよみ」で、船橋屋とこよみのスイーツ食べ放題!という内容です。船橋屋のお菓子を知って頂くことはもちろん、船橋屋社員も参加し、現場で働く社員の生の声をお伝えすると同時に、学生と直接会話をする機会を作ることで、個別のコミュニケーションルートを確立しました。このイベントはスイーツ食べ放題とあって、ほぼ女子学生の参加でしたが、採用する女子学生のレベルが劇的にアップしました。実際にお菓子を食べ、実際に社員と話をすることで、船橋屋に対する意識を更に高め、選考に臨む学生が増えました。また、このイベントでは学生とラフな形で話すことが出来るので、学生の生の声や悩みを聞くことが出来ます。そこから原稿の作成や説明会の内容、面接の仕方等のヒントを得ることも出来ました。

【採用ツールの見直し】

 2009年採用時、学生に確実にメッセージを届けるために、合同会社説明会等で手に取って読んでもらえる会社案内、更に手に取って広げた時についつい読んでしまような会社案内を作成しました。人気マンガ「ナニワ金融道」をイメージさせるタイトルやクイズ形式のページ構成にし、社員をイラストにして隋所に登場させ、親近感を持ってもらえるよう、様々な工夫をしました。
 更に2014年採用以降、新しいビジョンにも掲げられている「一燈照隅」をコンセプトとした会社案内を新たに作成しました。こちらは雑誌風な作りで、これまで採用してきた若手社員とベテラン社員をバランスよく掲載し、船橋屋の仕事はどんな仕事なのか、船橋屋で働く社員がどんな想いを持って働いているのかを具体的に記載し、読み応えのある会社案内にしています。その会社案内と一緒に船橋屋辞典というものも作成しています。これまでに開催してきた会社説明会の中で学生から問いかけられた質問に対する回答をまとめたオリジナルの冊子で、こちらは全て社員の手作りです。この船橋屋辞典があることで、説明会に足を運んだ学生の聞きたいことを一気にクリアにすることが出来、説明会の満足度アップにも繋がっています。

【採用活動には船橋屋社員をとことん巻き込む】 

 船橋屋の説明会やイベント、選考の面接官として、現場の社員に積極的に参加してもらいました。新卒採用の大変さ、苦労を知ってもらうことで現場社員の意識が変わり、新入社員をしっかり教育していこう、働く環境をより良くしよう、という雰囲気が会社全体に浸透していきました。様々な取組みをしていった結果として、年々社長と想いを同じにする仲間(=同士)を採用することが出来る様になりました。また、2015年には16,700人のエントリーを達成しました。13年前の社長の想いは、「社員が船橋屋で働いて本当に良かったと思える会社を作りたい」というものでしたが、今では仲間たちの為に「船橋屋で働いて本当に良かったと思える会社を、“自分たちで創ろう”」に変りました。新卒を採用することによって、社員の意識が変わったのですから、改めて「新卒採用」の重要性が認識できました。
参考にしてみて下さい。

インサイト No.52
2017年12月20日

採用の失敗を防ぐ 適性検査HCi-AS

採用全般 に関連する記事