人事担当者のための講座〜「モラトリアム群」の採用(2)〜
株式会社ヒューマンキャピタル研究所 主任研究員 北山 進
■ 連載 人事担当者のための講座
第11回 「モラトリアム群」の採用(2) ーその定性的データの提出ー
前回、フリーター、ニート等々の呼称を、「モラトリアム群」とすることを提唱した。
さきざきな呼び方で区分することには、それ程の生産性があるわけではない。ここでこの点について少しく敷衍して次へ進みたい。
「モラトリアム」という概念は、精神分析学者でもあるエリクソンが、「アイデンティティ」の研究の中で提出したもので。
青少年の発達課題として、社会的参加による「アイデンティティ」の確立に大きな影響を与える概念でもある。採用担当者の基本的姿勢にも連なるであろう。
さて、前回「フリーター採用せず」という経団連の調査結果にふれたが、最近の人手不足から「フリーター求む」の流れが加速している。しかし、人事採用は正に「人材の質」であることに変りはなく、これが一貫した核心である。
政府の諸統計が定量的に流れ、定性的なものがみえないことにも、人事対応の一貫性を欠く一因ともなっていることは前にふれた。その時々の流れに振り回されないことが「人事」にとっての現今の正念場ともいえる。
時代の変化に対処することと、それに流されないこととは別の問題と考えるべきだ。特に採用は人事にとって、もっともシリアスな問題だからである。
さて、当研究所の定性的データを挙げる前に、東大の玄田先生の資料の中で「定性的」なものがあったので、後に示すデータのひとつの仮説として、次に示しておきたい。
注目さてる第1点は、すべての応答は、□就職経験がありが、□なし、を大きく上回っていることに注目しておきたい。
次にその原因のトップが「病気、けがなど」によるものが、「仕事経験あり」で80%を越えている点だ。何かしらの理由で「心・身」を病んでいることが注目される。
仕事環境がきびしくなったこともあるが、ストレス耐性の低下も見逃せないであろう。IT化による「年令即経験値」の崩壊も考えられる。
仮説としては前者の「ストレス耐性の低下」を強調しておきたい。
さて当研のデータをここで提出してみよう。このデータは某商事会社大手の技術部門に応募してきた「モラトリアム群」53名、比較サンプル群として同社の同部門志望の大卒、60名を抽出した。すべて男子であり、前者の平均年令は35才である。
使用した調査は当研究所の、定性的ペーパーテストに、定量的テストを2種類プラスして客觀性をより高めてみた。
その結果を次に示す。
総体的にみると、「新卒者」の採用率が高くなっている。項目「B」がそれを示している。しかし、項目「C」の採用を避けたい、ではむしろ逆の結果となっている。つまり、新卒者群のほうの採用を敬遠しているということだ。二率背反である。
その差は8%に逹している。ちなみに、「C+D」としてまとめてみると「87:78」となる。いずれも、採用:不採用の二軸でみる限りでは、必ずしも「モラトリアム群、採用せず」といった、経団連の調査結果のきびしさは妥当なものではないであろう。又、少なくともマス・メディアが騒ぎたてるほどの大きな差ともみられない。
むしろ、「項目C」でのぶれに着目したい。ここでのぶれがモラトリアム群としての先入観として、「項目D」に影響を与えているのではないか。しかし、「C +D」の2群の差も9%台に止まっている。
いずれにしても、採用:不採用の二軸に関する限り、その意欲、行動力、人格的バランス等々の資質的診断の上では、大きな差とみることはむずかしい。8%台ラインの中でのもみあいである。
しかし各ケースの行動内容によって、その差の違いを更に確かめることが必要だ。先に示した玄田先生の「仕事に就けない理由」の掘り下げも可能となるであろう。
次回のテーマしたい。
インサイト No.12
2007年4月5日