人事担当者のための講座〜フリーターなどなどの採用〜

株式会社 ヒューマンキャピタル研究所 主任研究員 北山 進

■ 連載 人事担当者のための講座

第10回 フリーターなどなどの採用  ―「モラトリアム群」としての人々―

 今回は、今、騒がれている「標題」についてふれてみたい。この人たちの中には、当然「第2新卒」と呼ばれる人々も入ってくる。又、最近は若年層だけでなく、中高年層も含まれてくるようになってきた。このテーマはかなり多彩になってきている。
 最近「ニートと言うな」という本が出版された。詳しくは目を通してはいないが、要点はニートという人たちは「やる気」のない代名詞となっている事への反発にあるようだ。ニートとか、フリーターなどと、一括りに片付けるなということでもあろう。もっともな主張である。しかし、ニートの代りに「不活発者」と呼ぶことを提案している事が気になるがー。
 これでは一括りするという域を出ていないだけでなく、マイナス的イメージも払拭されてはいない。多様化されつつあるこの人たちを、マイナス的なイメージで括ることはどうであろうか。次の図を見ていただきたい。

図1 大卒就職者の在職期間別離職率の推移

 多様化を示す調査結果である。図1は「第2新卒」のもので全体として32%強だが、1,2年での退職が目立つ。図2は「若年と中高年」のフリーター人口の構成比である。年令層の二重構造が最近のフリーターの特徴となっている。東大の玄田助教授は、ニートの「就職希望」の強いことをいくつかの調査で立証しているが、フリーターも同様であろう。

図2 若年と中高年のフリーター人口

 いずれにしてもこの人たちを一括りにして対処する事は難しい。又、採用担当者の先入観を誘うことにもなりかねない。
 この原稿を書いている時、某新聞紙上に「フリーター採用せず」という見出しで記事が掲載されていた。経団連による「2149社」のアンケート調査の結果だ。その内容は次の2点に集約されている。
 ■ フリーター採用には消極的
 64.3%
 ■ フリーターは採用せず
 24.3%
 この調査もフリーターを一括して、統計的に取り扱ったものだ。この調査に並んで「フリーターの正社員採用にあたっての評価」が、職種別に厚生労働省から発表されている。図3がそれだ。フリーター経験をプラスに評価する企業は数%、マイナスの評価はその10倍にも達していることが分かる。

図3 正社員採用に当たってのフリーター経験への評価

以上3つの調査結果を見て分かることは、フリーターを一括して示しているだけで、その原因となる調査項目が欠落していることだ。せめて被調査者の就業年数、男女別などなどの属性等が示されていれば、対策の手がかりの一助ともなるであろう。いずれにしても原因は不明である。
 先に述べた東大の玄田助教授の詳細な調査による、ニート等の強い「就業希望」はどう生かすべきであろうか。
 「フリーターと言うな!」とも言いたくなる。われわれ採用担当者としては、その調査の内実を知りたいのだ。対策の糸口をつかみたい。確かにマイナスの側面の多いことも推定できるが、その中に「キラリ」と光っている人材のいることを忘れてはならないであろう。

 そこで先ず「ニートと言うな」に対応するわけではないが、フリーターを当然含めて、「モラトリアム群」と呼んでみたい。
 少し古くなるが、10年程前、大阪大学で、卒業後どうするかというアンケートを学生に実施して、その結果をまとめて発表したことがある。その集約項目の3番目に「モラトリアム群」というのがあったことを記憶している。確か20%強であったように思う。
 モラトリアムとは、心理学者エリクソンが提唱したもので、就職という社会適応に達するまでの「猶予期間にある人々」のことを指している。
 心身のリフレッシュメントである。この呼び方には少し前向きの明るさが見えてくるのではないか。確かに「ニート」となると難しいが、働く自信を失ってはいるが、就業希望は明確に表明しているのである。
 必ず採用に参加してくるはずだ。前回で述べた価値観ではないが、今の考え方のパターンをつかむことこそ解決の糸口だ。強い「就業希望」に火を点したい。多くのモラトリアム群の中に、光る人材は必ずいることを強調しておきたい。
 勿論、企業要請とのマッチングが前提となるが・・・・・。次回その実証的データを出してみたい。

インサイト No.11
2006年12月15日

採用全般に関連する記事