11.組織風土改革

はじめに

 組織風土の問題は多岐に亘ります。組織は、企業の目標を達成するために、また社員のやりがい、自己実現、及び自己啓発等を達成するための実現手段の重要な一つです。風土は、どのようにすれば社員の求心力を高めることができるか、すなわちどのようにして社員に共通の目標を持たせ、その目標に向かって社員を動員できるかを制度化するものです。

1.組織改革

 組織論には種々ありますが、私は、組織は戦略に従うべきであると考えます。何故なら、組織の戦略、計画や方針が先にあって、それらを実現する一手段として組織があるからです。従って、戦略や方針が変われば、それに合わせて組織も変更すべきですので、組織には柔軟性をも必要とします。逆に、戦略は組織に従うという考え方もあります。官公庁や一部の大企業においては既存の組織に合わせて戦略や計画を考える傾向があり、それが創造的で柔軟な組織横断的施策の実現を阻害する要因になっています。以下で有効で効率的な組織の作り方について要点を述べます。

  • ①組織のフラット化
     組織のフラット化とは組織のトップから最下位のレベルまでの階層をできるだけ短縮することです。一般的に取締役未満の階層には、部門長、部長、課長、係長、主任、一般職、そしてそれらの間に代理や副がつく職位がある場合もあります。このような重階層の組織では意思決定に時間がかかり、権限移譲が進まず効率的ではありません。そこでフラット化をすることで階層を削減します。これにより意思疎通の円滑化、及び意思決定の迅速化を図ります。
  • ②権限移譲
     組織がフラット化する場合は、それに合わせた権限移譲を考えなくてはなりません。グループリーダー(管理職未満、通常課長職未満)レベルまで一定の権限移譲を行うことが効率的な組織の運用となります。権限の委譲は社員の自立性の向上にも寄与します。
  • ③物理的勤務場所の多様化
     リモートワークの普及、海外居住者社員の参加等により、同じ組織の構成員がおおむね同じ場所で働いていた時代と異なり、物理的勤務場所が益々多様化する今日、このことは組織編成上重要な考慮点となります。
  • ④社員の多様化
     フレックスタイム利用者、短時間労働者、外国人、障害者等、文化やワー クスタイルの異なる社員が増加する中で、そのような社員を考慮に入れた 組織作りが必要とされています。種々の社員間でコミュニケーションが取 り易い組織の設計が重要です。
  • ⑤常設組織と臨時組織
     組織には営業部、経理部のように、会社が存続していく上で必須の常設組織とその都度必要に応じて作られる臨時組織があります。その時々の経営戦略の遂行のためには、臨時組織が重要です。そのような場合、室とか特別本部などの名称を付ける場合が多いですが、何々プロジェクト・チームに統一すると分かり易いです。これらのチームには以下の充たすべき条件があります。
    • 達成目標が明確であること
    • 完成/終了期限があること
    • リーダー・メンバーが原則兼務社員であること
    • メンバーの選抜は組織横断的であること
    • プロジェクト・チームの勤務は業績評価に反映されること

     プロジェクト・チームの利点は、会社が社内で最適な人材を指名でき、それによって高い成果を期待できること、又社員にとって、ルーチン業務と異なった業務への参加により、自身の能力開発や社内の人的ネットワークを構築できることです。

  • ⑥牽制制度の確立
     社員の自立を促し、改廃等柔軟性の高い組織では、従来以上にコンプライアンスや牽制制度が重要です。会社に不利益をもたらす可能性のある業務分担をチェックし、必要に応じて速やかに変更することが求められます。典型的な例は支出の承認者が、支払いや振り込みを一人で行う等です。また社内業務監査的職務を行うポストを設置することが望ましいですが、人的制約がある中小規模企業においては、利益相反機会の少ない社員を兼務で配置することも考えられます。

2.風土改革

 会社は何らかの求心力で社員を一つの方向に束ねる必要があります。創業者が健在の企業では、創業者自身のカリスマ性がその求心力となるケースが多いですが、そのような場合はその創業者が退任するとたちまち求心力が失われて社内が混乱することがあります。混乱を回避するには、社員を永続的に一つに束ねる種々の施策が必要です。

2-1.ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)

 社員を一つに束ねる施策として、いつでも社内のどこでも目にすることができる共通の目標として文章化したものの代表がMVVです。

  • ①ミッション(Mission)とは
     ミッションは会社の存在意義-使命・目的を述べたもので、一般的に以下の項目を含みます。
    • 誰の為に存在するか?(世界/人類/特定地域の人々/顧客/サプライヤー/株主/国等)
    • 何をどのようにして?(〇〇の製造販売を通じて、〇〇のサービスを提供して等)
    • 何のために?どのような貢献をするために?(関係する地域の繁栄と発展のため/経済的価値の増大のため/文化的発展に寄与するため等)
    • 現状を踏まえた上で、未来志向の内容にする
  • ②ビジョン(Vision)とは
     ビジョンは、ミッションを実現するために何をどのようにするかを述べたもので、一般的に以下の項目を含みます。
    • 会社の基本原理・概念
    • 永続的な基本方針(業界のリーディング・カンパニーを目指す)
    • グローバル・スタンダードを目指す
    • 顧客、サプライヤー、社員、株主、国、政府、地域、環境等に配慮する
  • ③バリュー(Value)
     バリューは、ミッション及びビジョンを実現するための社員の行動規範で、会社の基本的な考え方を表明するものです。バリューの例は以下です。
    • 社員の行動指針(誠実さ、迅速さ、オープンさ等)
    • コンプライアンスの遵守
    • 利潤のみを追求しない
    • 最先端技術を磨く
    • 何事にも透明性を保持する
  • ④ミッション・ビジョン・バリューが力を発揮するためには
     社員と経営陣がその価値観に共感し、更に共有できることが最も重要です。そのためには次のようなことに留意します。
    • これらを共有することにより、社員や経営陣の全てに連帯感が生まれるようにする。
    • 短く、明快で分かりやすく皆で唱和できるものにする。
    • 社内PC起動時サイトに掲載し、更に印刷して、掲示板、壁等に張り出す。
    • 経営陣が率先して実行し、それに反する行為を決して行わない。
    • 社員や経営陣が判断や決断に迷う時の行動の拠り所(価値・行動基準)となる。
    • MVVに共鳴する人を採用することによって、それらを強化する。

2-2.風土改革の施策

風土改革のための施策をいくつか例示します。風土改革はいかにして社員の思いを一つに束ね共通の目標に向けて彼らの行動を起こさせるかです。すべての施策は、社員の満足度を向上させることに向けられます。以下にそれらの施策の幾つかを例示しますが、それぞれの会社に合った項目を採用されるのが望ましいです。

  • ①バランス・スコアーカード(BSC)
     BSCは、従来の財務指標中心の業績管理手法の欠点を補うものとして、財務数値で表せる業績だけではなく、財務以外の観点から経営を評価し、バランスのとれた総合的業績評価システムを目指したものです。BSCは財務の視点、顧客の視点、社内業務プロセスの視点、学習と成長の視点という4つの視点から指標を設定し、バランスのとれた目標達成の為の事前指標を作成します。詳細は、2021年8月の記事:バランス・スコアカード(BSC)導入のすすめ | ヒューマンキャピタル研究所 (hci-inc.co.jp)をご参照ください。
  • ②社内ルールの完備及びアップデート
     就業規則等社内ルールは会社及び社員にとっての行動指針ともなり、日々使用され、社員が閲覧し易いように会社が配慮することが望ましいです。それにも関わらず法令等の改正があっても、それらに合わせた改訂を何年も行わず放置している例を見ます。規則等は常に必要に応じて改訂・更新をし、最新の法規等に基づいて社員の権利を確保する必要があります。
  • ③コンプライアンスの周知徹底
     今日会社及び企業人としての責任がより厳しく問われています。それぞれの会社が信じる社会人・企業人としてふさわしい思考・行動基準を明示することが必要です。特にセクハラ及びパワハラについては厳格な罰則規定を設け被害者が出ない環境を整えることが求められます。社員のセクハラ・パワハラ以外の苦情も含めて、相談窓口を人事部内等に常設することが望まれます。
  • ④表彰制度の設定
     月間又は四半期MVP(最高殊勲選手)などの表彰制度を作り、一定の選考基準に基づいて、被表彰者を選び社員の前で、授与式を催すことは社員のモラルの向上に寄与します。このほか5年、10年等の勤続表彰や、表彰とは言えませんが、月次誕生日会の開催なども効果があります。
  • ⑤全社員総会(タウンホール・ミーティング)
     社長はじめ会社幹部が、全社並びに部門の年度計画の発表や、期中・期末会社業績の報告、その他重要事項の報告を全社員に行うための集会です。開催頻度は一般的に年2回、多い会社では年に4回も行います。会社幹部から業績を中心に会社の近況を聞くことによって、社員と会社の一体感が高まります。時間的な制約、遠隔地からの参加等、物理的な障害もあるかもしれませんが、Web会議等の使用により実行すると大きな効果をもたらします。
  • ⑥社員満足度調査
     会社は種々の社員満足度向上施策を行いますが、その結果を知るために定期的に社員満足度調査を行う必要があります。調査結果は社員に公開し、場合によっては全社であるいは各部門で、高評価項目は維持し、低評価項目の改善を社員と共に考え改善案を作成し、実施することが望ましいです。こうすることにより、社員に改善等の実施についての当事者意識、又連帯感を醸成させることができます。

おわりに

 明らかに、働きやすく、働きがいを感じ、自己実現が達成しやすい組織と、その反対に社員のやる気のなさが充満している組織があります。種々の統計を見ても、社員満足度の高い組織は、そうでない組織に比べ、生産性が高く又利益率も高い傾向があります。組織風土改革は、改革に着手すればすぐに結果が現れるものではありませんが、一定の方針のもとに、着実に進めることによって、社員満足度の高い会社に再生することができます。