人事担当者のための講座〜第2新卒を作るな(2)〜
株式会社 ヒューマンキャピタル研究所 主任研究員 北山 進
■ 連載 人事担当者のための講座
第17回 第2新卒を作るな(2) ーセルフヴァリュエーションー
厳選評価の核心は面接官自身の「自己評価」にある。私も長くテスト研究や、カウンセリングに携わってきたが、「教育分析」と呼ばれていた「セルフヴァリュエーション」に半ば義務的に参加させられたことが印象に残っている。対人評価に携わる者の自覚の基本である。
さて、企業での人材評価は、1990年後半から「定量的評価」から「定性的、質的評価」へと転換することが合言葉になっていたはずである(73.5%)。その評価方式転換の第一ステージは、「採用面接」そのものであるはずだ。在籍者という抵抗感もなく、そして入社後のフローマネジメントの成果を左右する、人材の質そのものの採用だからである。
ここで第2新卒の早期離職の原因を改めて問うてみたい。統計的調査資料は多いが、内容は大同小異なので一例だけを抽出してみる。
表の数値を大きく集約すると次の2項目が中心となっている。
(1) 仕事のミスマッチ。60%弱
(2) 人間関係の不調。 28%強
又、統計的調査ではなく、よりダイナミックなプロジェクトが、MITの「エドガー・シャイン」によって報告されている。そのタイトルは「何が彼らを去らせるか」である。その手法、本題と離れている諸点などを省略して、結論のみを示してみよう。
(1) 新入社員のフレッシュな提言の無視。
(2) 対人関係が問題の全部である。
(3) 直属上司とのリアリティショック。
(4) この一年間、自分を試す機会ゼロ。
先の統計調査と照合してみると類似点の同一に近い点は興味深い。
又、これとは別なテーマになるが、このような「結論」が第2新卒を作り出すだけでなく、入社後のキャリア形成に、長期に渡って、強い影響を与えているという研究結果にも特に注目しておきたい。
「最初の成果」がフロービジネスに強く関わってくるということである。
そこで以上の項目をベースとして、採用面接の基準を大枠で設計してみたのが次表である。
(A)将来を見直した上で描く企業ビジョン。期待する人物像を基軸として明示する。
(B)主要職務の要請能力の設計。
(C)組織適応力の可能性と共に、拡大する「ヒューマンワーク」を視野にいれること。
こうした面接基準表の設計が厳選評価の第一関門となる。それは売手、買手市場を問わない。以前このシリーズで触れたが、基準そのものが欠如している企業が70%を越えていた。又、企業理念としての期待人材像が示されていても、それに全く反して従来の企業風土を選考させていたある金融業も見られた。
要は、面接官の全社的視点の喪失にある。中核的関門は面接官の「決定力」に掛かってくることは明らかである。
右の図は面接構造の全体図を示したものだ。
分野別の要請能力とのマッチングは、戦力的人材のクオリティーと一体のものとなる。第2新卒を作らない採用と同時に、戦力的人材としてのキャリア形成にも当然結びつく。
問題は表の(B)下段に示した「セルフヴァリュエーション」である。面接官その人が自己の「スキーマ」に強く捉われないことである。こうした心理的バイアスを自己評価すること、自分を値付けすることは辛いが、先に述べたように人を評価する者としての厳しさは避けられない。
採用期間の長短や、面接回数の多寡など関係ない。リーマンショックによる「失われた十年」の再来も見えている。ともあれ個性的能力の成長と、そのパフォーマンスを最大に引き出すことは、多様化に応ずるマネジメントになることに変わりはない。即戦力、或いは短期戦力化人材の確保が、今後のテーマとなるからでもある。
終わりに、あるエピソードを付しておきたい。
ある大卒の学生が、内定5社を手にして一番最初の面接企業に戻り入社した。彼曰く「貴社の面接が、私を一番よく理解してくれたことが分かりましたので̶」。この言葉の重みを「セルフヴァリュエーション」に結び付けて深く考えてみたい。
インサイト No.18
2008年12月18日