人事担当者のための講座〜第2新卒を作るな(1)〜

株式会社 ヒューマンキャピタル研究所 主任研究員 北山 進

■ 連載 人事担当者のための講座

第16回 第2新卒を作るな(1) ー売り手市場のリアルー

 第2新卒を作りたい企業はない。入社後の自然淘汰はあるだろうが、しかし厳しい評価によって得られた新人を失う損失は大きい。
 この対策は採用活動のプロセス、特に「採用面接力」を軸とした評価の妥当性がキーポイントになってくるであろう。このテーマに入る前に先ず離職傾向の全体の推移を次表に示し、更に第2新卒層の動きについてふれてみたい。

 10代の離職上昇は明らかだが、他の年代層では必ずしも明確ではない。しかし数値はその時々の景気動向や調査の対象層などによって変わってくる。例えば今回の求人倍率であるが、全体としては2倍を超えている、しかしこの平均値を職種別、企業規模別などでみると、売り手市場の中の「買い手市場」がみえてくる。金融業界では0.39倍、流通業で7.31倍~4.22倍という差である。
 又、全体の求人倍率も、最近の「サブプライムローン問題」などによって、多少のラグはあるにしても有効求人倍率は季節調整値で、0.92倍にまで落ち込んでいる。統計数値の解釈は難しく変化も多いものだ。

 次に新規大卒者に絞って離職率の流れを、在職期間別に示してみる。

 最も低い年代は1992年3月だ。辞めたら損だという、バブル崩壊の年だ。在職期間別を直近の年代(2006年)でみると次の表が得られる。

 1年目で半数弱となっている。離職の早期化である。リクルートエージェントによると、4月入社の6月中旬時点で「180人」の転職希望者がきているという。入社してまもなく退職届けを懐にしているという可能性も否定できない。
 一方「学生の就活の動き」をみると、全体として「量」指向の流れがみえる。30社~40社とやみくもに受けて回る若者が少なくない。エネルギーの分散であり、決して合理的なものではない。あるデータの平均値では、50社にエントリーして20社にエントリーシートを提出しているという。ある学生は「希望職種」の幅を広げたらスムーズに内定が得られたという。ある女子学生は内定を多く手に入れながら、「こんなチャンスは二度とないから、もっと歩いてみる」といっている。

 しかし現実は必ずしも希望する会社に入れるという保証はないという厳しさである。オファーのある「内定ホルダー」と、有名大でも内定のない学生の2極化も生じている。一方企業の方でも、内定者群の囲い込み作戦に大童だ。何千人という「リクルーター」を動員して、あの手この手という走り方である。然も「内定辞退率」は6割超という企業もある。果して歩留まり率は上がっているのであろうか。又、優れた人材の囲い込み作戦に成功しているのであろうか。中小企業は嘆きの年となり、大企業は「量」の確保に走った頃が思い出される。
 ここで今年度入社の「3900人」のアンケート調査から上位4項目を抽出してみよう。

 (1)は措くとして全体として漠然とした不安感が気になる応答である。某新人研修センターの講師は、「これ迄の就労感と全く異なる人材」が入ってくると思った方がよいと述べている。その内容は別としても、3年3割も崩れる可能性もあろう。
 ともかく、今年の売り手市場のリアルも、全体として「量的指向」の流れのようにみえる。採用デフレ・スパイラルを招く危険性なしとはいえないのではないか。
 「大学全入」という2007年問題もある。しかし若者の中には外資系志向という職種への「こだわり」も目立っている。「TOEIC」も内定者平均で100点以上UPというプラスの諸情報もないわけではない。
 いずれにしても、あの1990年後半から「厳選評価」への転換が宣言されたはずだ。今年もそれを緩めてはいないと言う。量指向の流れの中で「クオリティー」をどこまで確保できるのか。日経新聞の逐年アンケートのように「量は確保、質は35%不満」といういつもの結果にならないであろうか。最初に述べた「面接評価」の妥当性、厳選評価のポイントについては次回ふれてみたい。

インサイト No.17
2008年10月15日