どうなる日本経済!? 〜2009年経済・雇用の行方

東洋経済新報社 週刊東洋経済編集部長 田北浩章氏 講演

 平成21年2月4日(水)本年第一回目のヒューマンキャピタル勉強会を開催いたしました。
 講師は、経済アナリストでTBSテレビ「がっちりマンデー」のコメンテイターでもおなじみの田北浩章氏でした。世界的な経済危機の中、その主なる原因は? はたして日本経済の復活はいつになるのか?人事のみなさんの関心事である雇用情勢も含め、お話し頂きました。
 当日の講演内容を報告いたします。

■ 講 演

はじめに

 どうも、初めまして。東洋経済の田北です。ヒューマンキャピタル研究所の甲野さんとの出会いは今は無き「ベンチャークラブ」という雑誌でした。実は今、日本にベンチャー系の雑誌って無いですね。日経さんが「日経ベンチャー」って出していますが、ベンチャーにスポットを当てている訳ではないですしね。ベンチャー系の経営者を取り上げる雑誌って無くなりました。それが国の勢いの違いでしょうかね。アメリカもインドも中国もベンチャー系の雑誌って沢山あるんです。日本だけです。1400兆円以上の個人金融資産がありながらそれを「投資する必要ない。」って言ってジーっとしている。企業を育てるっていう風土もあまりないですね。週刊「東洋経済」もそうですが今、「壊滅」や「総崩れ」、「陥落」といったタイトル「今までと同じやり方はリスキーだ」とすると雑誌が売れます。
 

【はじめに】

 100年に一度と言われていますが、非常に大きなうねりが来ています。その中で「今、採用を積極的に展開しようという気分にはなれない。」とよく耳にします。人事担当の方は非常に苦しい。来年、再来年に何名を採用したらいいのか。人を削減しようと言う時の採用は非常に悩ましいだろうと思います。しかし、「今は本当言ったらチャンスが訪れている。」採用には非常に良い状態。「昨年までの売り手市場ではない、人材を確保するチャンス」が来ていると。更にこれだけ固定観念が崩れている時、これは起業のチャンスでもあるわけです。「あの時に事業を起こして良かった。」というのが3年後とか4年後とかに分かってきます。今、非常に大きくなったネット系の企業たちの創業時期は1996~97年です。何がありました?山一證券などが飛んだり、金融危機で真っ暗だったじゃないですか。1997年。後から振り返ると創業者達は言います。「あの時は良い環境だった。」というのがあるんです。採用も同じなんです。採り方一つで非常に良い人材が採れる、人材を集められる絶好の時期です。大手企業が人減らしをするニュースがバンバン出ている。そんな会社に入社したくないですよね。今がチャンスです。

【四季報から今後の経済】

 これから先の景気をどうやって見ていくか。私の考えをお話します。まず、会社四季報の重さってどれくらいあると思いますか?1kgあるんです。あれを2冊づつ持って上げ下げすると良い二の腕体操になります。読むだけじゃなく使える会社四季報です(笑)。まずは四季報フロントページに解説があります。ご存知でしたか?解説のページ。これがもの凄く大切です。創刊して73年の歴史があります。73年前に何があったか、2・26事件です。2・26事件の年の6月に創刊したんです。戦前です。戦前・戦中・戦後の73年ですから凄いですね。四季報っていうのはこのページなんです。各企業、個別企業に行きたくなりますが、そこを我慢してまずはこのページを見ます。それで日銀短観より明確な日本の経済の方向性が見えるんです。どういうことか、日本の企業は3月決算が多いですよね。それを足し合わせます。私達が予想します。記者120名でデータ担当が250人。総勢370人で作っている雑誌です。3,900社を一人40~50社担当します。若い記者ですと10~20社位しか出来ないですね。ちなみに若い記者だと四季報が出る前にどうなるか?忙し過ぎて余りに辛くて記憶がなくなります。僕も新人の頃を思い出すとゾッとしますけど。担当企業の予想を出します。記事を出します。数字の予想を。何でその数字になったのかの文章を書きます。短い文書を書きまして、出します。必ず戻ります。「駄目!」と。「これではこの企業のここがおかしいだろ。」と。もしくは「この企業の来期はもっと弱いだろう。何でこんな強いんだ!説明しろ。」と。必ず戻ってくる原稿をブーメラン原稿と言いますが、若い記者ほど必ず戻ります。教育もありますから絶対1回では通りません。下手すると一つに5回6回やり直します。死にそうになります。10社担当で10回出せば良いって事にはならないですね。それで5回戻ってきたら50回やるんですよ。頭が爆発します。どこのバランスシートかが分からなくなってきます。締め切りが来ると記者は「朝起きて取材に行って、記事書いて帰って寝ているらしい。」と。「その間の記憶が無い、ど
うやって乗り切ったか覚えてない。」そういう記者が結構居ます。それくらいの思いで作っている我々の雑誌なので、日経さんとのシェアで75:25。日経大資本をしても25%しか取れていないわけです。ダイヤモンドも参入してきましたが、わずか3号で廃刊という事になるわけです。そう簡単にはいきませんよ。2・26事件からやってますから。それが四季報です。

【2つのバブル】

 しかし、何故にこう悪くなったのか。「悪いのは全部アメリカなんだ。バブルが弾けたんだ。」とそういう側面もありますが、2つのバブルが弾けたという認識が必要ではないかと僕らは思います。1つは住宅です。アメリカの住宅バブルが弾けました。もう一つです。何で日本の方が株価が落ちるのか。実はもう一つ日本にバブルがあるからです。それは円安です。アメリカの住宅バブルが弾け、日本の円安バブルが弾けたわけです。これが日本に津波のように押し寄せてきている。特にこの円安っていうのは結構大きいですね。アメリカの消費の減退によって日本の輸出の数量の減と円安による採算の減。これをきちんと認識していないと今後を読み誤ると思います。

【①アメリカ】

 アメリカの住宅バブルはどれくらいか?GDPで割ると出ますが3.8兆ドルあります。380兆円です。これがいわゆる過剰債務です。内、1.3兆ドルはサブプライムなどで個人が持っていて銀行が処理する分、銀行が自らのバランスシートで処理する分。これの半分は処理できたと僕は思います。残りの2.5兆ドル、250兆円、これが問題でこれは返せるんです。ただ、返すには苦労しないといけない。アメリカは家計に預金がない国ですから。株とかはありますが、入ってきても全部使ってしまうから預金がないんです。返す為には消費を抑えるんです。消費を抑えて返していく分が2.5兆ドルなんです。アメリカが立ち直るには「この2.5兆ドルを減税します。」と言わないといけない。しかし、ありえないです。ドルが大暴落しますからアメリカの家計で返して行くしかない。では何年かかるか?毎年個人が貯蓄率を1.5%アップする。貯蓄率アップした分で返していくと、だいたい5年で2.6兆ドル。5、6年で返し終わる。人によっては「1%行けばいいんじゃないか。」となると、10年かかっちゃう訳です。大変な年数です。オバマ大統領の就任演説は非常に内容が厳しいものでしたが、選挙演説より就任演説の時の方が身振りが小さくなってました。身振りの大きさは人を引き付けますが、過度の期待はさせられないとオバマ大統領は思ったと思います。それくらいアメリカの傷は深いと。自身が史上最低の大統領になってしまう。任期と返済期間が重なっているわけですから。景気が立ち直りませんから中間選挙で勝てるかも分かりませんよね。GMとかの自動車メーカーの行く末、この状態でGMの車が売れますか?見えますよね。この数字で命運は尽きているんではないかなと思います。

【②円安】

次に円安バブルです。何故「円安バブルが崩壊」かと言うと、日本がこの「いざなぎ景気越え」と言われてた期間に誰かが言っている様な構造改革が出来ていたら、こんなに急激に赤字になりますか?いきなり「最高益」から「赤字」になりますか?如何に輸出依存で出来ている体質のままか。前期「最高益」だったわけで、どういう事かというと過剰な利益を得ていた。「過剰だった」という事です。貿易の黒字で稼いだ金を元にしてアメリカでファイナンスを付けてあげて、アメリカがそのお金で消費してトヨタの車を買ってくれて、その時にドルが高い方が良い訳ですし、輸出する方は円が安い方が良い訳です。円安をどうするか、金をジャブジャブにして金利を低下させる。そういう戦略を取りましたよね政府日銀は。大げさに言うと「輸出企業に対する補助金を付けていた。」と言うことです。日本人の悪いところですが、円高=悪。そうですか?そういう認識を変えた方が良いのかもしれません。「自国の通貨が強くなる=悪」と言うとヨーロッパでは笑われます。ヨーロッパでは自国の通貨が強くなると直ぐに隣の国に行ってしまいます。陸で繋がってますから。行って買い物するわけです。ユーロがありますけどやっぱり自国の通貨が高い方が喜びます。

【経営者と企業理念と採用】

 生半可な事では生き抜いて行けない状況です。最後に生き残る会社とは何か?どんな会社か?社長名が分かる会社幾つありますか?大企業のマスコミを例にしても出てきませんよね。今まではそれでも良かった。今までは右肩上がりの時代ですから先輩の作ったものを守ってその財産でやって行こうとすればやって行けた訳です。しかしこれからは、どういう風に構造を転換させていくか。非常に難しいです。まさに経営者の時代です。そういう時代がやって来たわけです。では、何が必要か?僕は今こそもう一度「企業理念」をブラッシュアップをして頂きたいと思います。企業理念って「なんだそんなもの」って思いません?でも僕が記者として企業を見ていく中で企業理念を一番見ています。新しい会社に行くと「この会社の企業理念ってなんだろう。」と確認します。「顧客第一」企業理念とは言いません。「人類の平和」変ですよね。「企業理念」というのはもっと社員や金融機関が「この企業理念だからこういう展開をするのか!」と納得できる事が大事なんです。企業理念は船でいうマストです。マストが無い会社って揺れだしたら皆が掴む所が無いわけです。皆逃げて行っちゃいます。乗組員が放り出されたりします。企業理念を元に事業をやるわけです。事業をやるっていうのは社会に貢献するって事です。その貢献の度合いによって売り上げが変わってくる。利益が変わってくると思います。貢献していない企業は絶対に淘汰されます。僕は25年多くの会社を見てきて、必ずそういう企業は消えていってます。きれいに居なくなっています。蛇足ですが「髭を生やした社長」は消えてますね(笑)。人の採用にも生かせます。採用では優秀な学生をどうやって採るか?「企業理念」で引き付けて採ります。是非!これが一番強いですから。「なぜこの会社は存続するのか」を明確に打ち出すのが社長の仕事です。「社長は伝道師足るべし」松下幸之助さんもおっしゃってます。何を伝道するのか?企業理念以外にありますか?学生に、社員に訴えるべきです。明確に言えない大企業が多いです。チャンスです。社長自身が会社説明会に出向いてください。生涯賃金2億とか3億かかるわけです。それを人任せにしてはいけません。自らが出て自らが話す。すると学生に必ず響きます。本物だからです。企業理念が強い会社は、人が強い
です。人が強いと企業は潰れません。企業理念を明確に出来るという事は、企業の型が出来るという事ですから。100年に一度と言われますが、今が本当のチャンスです。
 ご静聴ありがとうございました。

インサイト No.20
2009年5月20日