人事担当者のための講座〜メンタルヘルスを考える(1)〜

株式会社 ヒューマンキャピタル研究所 主任研究員 北山 進

■ 連載 人事担当者のための講座

第13回 メンタルヘルスを考える(1) ーストレス耐性の把握ー

 最近のストレス問題をめぐるマスメディアの話題は尽きない。かつてはその一因として、過度な受験競争や、激しい管理者教育などが取り上げられた。最近では、いじめ問題や、成果主義制度に移ってきている。
 又、上場企業での「心の病」の増加は、61.5%とも報道されている(生産性本部)。更に3年離職率の原因の一つとして「ストレス耐性」のひ弱さなども指摘されている。但し立証的データは見えないが、これらの対策として「企業カウンセラー」「臨床心理士」の配置促進が、行政サイトから呼ばれている。
 しかし大切なことは個々の「ストレス耐性」の内容をつかむということであろう。対策もそこからリアルに提案されてくるはずだ。
 最近、ストレス心理学者として著名な、カリフォルニア大「ラザルス教授」の講演を聞く機会があった。その中核となることは「ストレスとは主観的なものであり、本人が感じるものである。外部原因としてのストレッサーとは区別するべきだ」ということであった。
この点を含めて全体的なシステムについては、私の考えも入れて後にふれてみたい。
 さて当研究所のテスト構成の中に、「ストレス耐性」に懸念のあるケースを抽出して、解説を加えたのは、先に述べた「ラザルス教授」の考え方によるものである。
 いずれにしても「ストレス耐性」の個人的内容は多様だ。全体としてはメディアが宣伝するほど多数いるわけではない。しかし、その影響度は強く且つ個人差も大きい。
 先の神戸淡路大震災で、ストレス障害(PTSDートラウマ)を受けて、3ヶ月以上経過した人々は、全体のおよそ10%と報告されている。同じストレッサーを受けても、短期間に立ち直る人と、そうでない人の個人差である。
 新入社員にとって新しい社会は、プレッシャーそのものだ。もっとも売り手市場で最近は厚遇されているのだろうが、しかし必ずしも内定率の高くない企業も多いことは事実である。求職のきびしさがみえているのだ。
 さて採用面接では、ポテンシャルの把握も大切だが、先ず「ストレス耐性」を押さえることだ。ひ弱な人材の水際作戦である。

 ここで先にふれた「メンタルヘルス」の構造について述べておきたい。この点を知ることが面接時の質問の視点、内容などを知る手がかりともなるからだ。その具体的内容については、次の機会に述べる予定である。さて、先に述べたメンタルヘルスの全体構造を図で示してみる。
(A)+(B)は本人の主観的な条件を示す。ストレス耐性度の内容である。(A)の把握はむずかしい面もあるが、(B)の内容を統合することで推定できよう。真ん中の四角は「対処行動」で、ストレス反応としてのバターンを示す。(C)は外的ストレッサーである。さまざま要因が入ってくるはずだが、それをどう認知するかが、「対処行動」の核心となる。

この中で当面の問題となるのは、2番目の「上司との関係」だ。特に直属上司とのそれがストレッサーとしては強い。アメリカでの調査でも第2新卒の離職原因の第一が直属上司との関係にあることは、このシリーズでも紹介した事がある。
 日本でも読売ウィークリーがアンケート調査を最近実施している。会社を辞めたい理由の第一は、上司を中心として(34.4%)、他の人間関係(13.1%)を合わせると、47.5%とトップだ。その他の内容についてはふれないが、アメリカでもこの点に関しては同じなのだ。
 採用面接後の主眼のひとつは、個々のストレス耐性だが、ストレーサーとしての「直属上司」との関係を押えておくことが、重要なテーマとなるであろう。
 ある期間をクリアできれば、投資効果もみえてくるはずだ。3ヶ月から半年とみたいが、この初期の「OJT」はかなり計画的に、しかも面接担当者のタッチが必要となろう。
もちろん、タテの関係の他に前にふれた、第2新卒の13.1%のヨコの関係も忘れてはならない。
 それと入社後に問題が起きたときは、即、診療機関などに持ち込まずに、ある程度の時間をかけてみたい。1982年に「心身症」という診断名が流行したことがある。
最近は「急性ストレス障害」などとつけられことも多いが、やはり指導育成の事前努力が大切だ。レッテルをつけてしまうと、それで処遇も決まってしまうことが多いからだ。
 採用時の行動バターン、特にその信条などを吟味して「人事カウセリング」や他にもいくつかの手を打ってほしい。当研究所にもそのような相談が寄せられるが、退職の後ではどうにもならない。いずれにしても採用後の育成を無視する面接はあり得ない。
 雇用創出の最大のポイントは、面接と入社後の育成の2点である。人材投資から得られる長期的利益の見込みをしっかり考えたい。「ストレス耐性」の強化は特にそうだ。個人差が大きいからである。計画的OJTNO強化が必要となろう。これについては、次回ふれてみたい。

インサイト No.14
2007年11月20日

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