8.人の使い方上達法

はじめに

 世に人の使い方に関する書籍・記事はあふれていますが、その中で類型的なものも多く存在します。そこで今回は、僭越ながら、私の人に使われ、使った経験をもとにどうしたら上手に人を使えるかについて、述べたいと思います。
上手な人使いになるためには、まず第一に、“ヒト・モノ・カネ”の中で一番大切なのが、”人“だという自覚を持つことです。モノもカネもその仕様や額面価値以上でも以下でもありませんが、”人“だけは期待以上にも以下にも働きます。人を期待以上に働かせるには、それなりの ”人を使う術“を身に着けることが必要です。そして、その”術“は自覚と学習により習得できるものです。世の中には、人使いが天才的に上手な人がいますが、我々のような普通の人間が、上手な人使いになるためにはどうしたらよいかを考えてみたいと思います。

1.上手な人の使い方

 人使いが上手だったといわれる人に山本五十六がいます。第2次世界大戦当時の連合艦隊司令長官(最終階級は元帥海軍大将)で真珠湾攻撃を指揮した軍人です。彼の格言に人使いの極意と言われる有名な以下の言葉があります。

 “やってみせ、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ”

 この言葉の意味ですが、まず“やってみせ、言って聞かせてさせてみて”の部分は、私の解釈では、人に仕事をさせるときは、させる人に合ったレベルに噛み砕いた指示を出し、それをやって見せ、相手ができるまでやらせる。次に“褒めてやらねば人は動かじ”の部分は、よく出来たら、よくできたと褒めてやる、できなかったら、必要な追加の助言をし、できるまでフォローをしてあげる、それができてこそ初めて、人は動くのだと言っているのだと思います。
 ここで最も大事なことは、指示を出す相手に会ったレベルの指示を出すことです。相手のレベルが初級か、中級か、上級かによって指示の内容は変えなくてはなりません。相手のレベルの判断のためには、日ごろから相手とのコミュニケーションを保ちながら、観察していなくてはなりません。このような日常の行動があってこそ的確な指示を出すことができるのです。

1-1.日常の部下の指示・指導で心がける点

 有効な指示や指導をするためには、次のことに気を付けましょう。

  • ①個人の特徴を把握したうえで、個人個人に即した指示・指導をする。
  • ②命令や指示は、はっきりと明確にし、5W1H(When, Where, Who, What, Why & How)、“5つの何を”と“1つのどのように“を使って情報伝達のための必要要素を過不足なく含める。
  • ③複数の指示をする場合は、優先順位をつける。
  • ④よくやったことは褒め、成功しなかったことにも感謝の気持ちを率直に表す。
  • ⑤部下への指示は、朝一で行う。部下に時間的余裕を与えるために、一日の始に自分の予定を作る前に部下へ依頼する指示を準備する。

私が新入社員の時、当時の上司が終業間近の午後4時ごろに仕事を命じることが多々あり、どうして午前中にいってくれなかったのだろう、いってくれたら、残業なしにその仕事を終えられたのにと思ったものでした。

1-2.モチベーションを高め、やる気を起こさせる

 効果的な人使いのためには、日ごろから部下のモチベーションを高める必要があり、そのためには次のことを心掛けたいです。

  • ①部下の自尊心を尊重する。
  • ②チーム内に物が言いやすい雰囲気を作り、互いの役割を尊重し、声を掛け合う協力の精神を育む。
  • ③正しくうまくやった事柄を具体的に話し、それが組織にとって如何に役立ったかを話す。観察を怠らない。
  • ④権限移譲をして部下に仕事を任せる。
  • ⑤意思決定に参加させる。
  • ⑥チーム内のミーティングで部下が発言できる機会を積極的に設ける。
  • ⑦上司として部下の育成に熱意を持つ。

1-3.公正な業績評価をする

 評価にはまず時間をかけることが大切です。被評価者の半年あるいは1年の業績・成果を10-20分で総括すべきではありません。評価にかける時間は、モチベーションを高めたり、従業員満足度の向上に寄与したりします。公正な評価のために実践すべきことは以下の通りです。

  • ①仕事の評価基準を事前に明確にし、周知徹底する。
  • ②公正な評価をするためには、以前に取り上げた評価者が陥りやすい次のような罠を避ける。
    ・ ハロー効果 ・ 寛大化・厳格化傾向 ・ 中心化傾向 ・ 対比誤差 ・ 論理的誤謬
  • ③評価結果の被評価者への伝達は必ず1対1の対面で行い、本人の意見にも十分耳を傾ける。

1-4.叱り上手になる

 日々の業務遂行の中で、どうしても部下を叱らなくてはならない場合が生じます。そのような場合でも、部下のモチベーションを下げず、自尊心を傷つけずに行うためには、次の点に気を付けましょう。

  • ①タイミングと場所
    叱る対象の出来事が発生したら、できるだけ速やかに行う。何日もたった後では、本人も何のために叱られているのか戸惑う。また場所はできれば1対1の個室で行い、本人の自尊心を尊重して、恥ずかしい思いをさせないために、他人の前は絶対に避ける。
  • ②内容は具体的に
    叱る内容は具体的に可能ならば数値を使用して、失敗やミスがどのような損害や困難をもたらしたか、を明確にする。例えば、納期遅れのためオーダーがキャンセルされ、X円の売り上げ減となった、等。更に責任追及的ではなく、問題解決的に改善すべき具体的行動を提案する。
  • ③相手の人格や性格を否定しない
    バカ、ダメ、役立たず、そんなことまで知らないのか等、相手の人格や、性格を否定する言動は慎む。相手の行為を叱るのであって、相手の人間性を叱るのではないことを強く自覚する。
  • ④自分が叱る(他人が叱るのではない)
    叱るのは自分がそう判断したからであって、決して他人(自分より地位の上の者や同僚等)がそう言っているという叱り方はしない。叱るという歓迎されない行為を他人のせいにするのは姑息で、又間接的な叱り方では効果がない。
  • ⑤上手に締めくくる
    会話の最後に、今日話したことを実行すれば必ず上手く行くので、期待しているという気持ちを表して激励する。

2.人を使う人が備えるべき能力・スキル・資質

 人を使う立場の人間になる場合は、使われる人からあの人のいう事なら喜んで聞こうと思ってもらえることが大切です。そのような説得力のある上司になるためには、自己の能力・スキル・資質等を高めることが肝要です。
 以下にチェックリスト形式で項目を示しています。ご自身を振り返ってみて、自己開発のヒントにしてみてください。

2-1.人を使う人が備えるべき能力・スキル

チェック欄 番号 内容
自分の仕事の力量を高める。技術・知識で一目置かれる存在となる。
意思決定力・優先順位をつける力を持つ。
実行力を高める。言うだけでは何も変わらないことを自覚し、行動に移す。
問題解決力を強化する。ただの提案ではなく、実行可能な提案をする。
リーダーシップを発揮する。率先して物事に対処することから始める。
情報・データの収集力を高め、情報等の分析力を高める。勘や感情に頼らない。
数字に強くなる。仕事の計画、プロセス及び成果をできるだけ数値化する。
(“数字は世界の共通語”といわれ、もっとも良く事実を客観的に示し、説得力を持つ)
褒め上手になるように努力する。誉め言葉のストックを増やす。

2-2.人を使う人が持つべき感性・資質・人間性

チェック欄 番号 内容
人の管理者としての自覚を持つ。
上司・同僚・部下の信頼を得る。約束を守る・有言実行・相手の言い分を傾聴する。
思いやりを持つが、感情に流されず理性を失わない。
率直で明るく、ぶれず陰日向がない。
達成する熱意と向上心を持つ。
オープンで近寄り易さを持つ。
学習を尊重し奨励する。

2-3.人を使う人が磨くべき対人関係術

チェック欄 番号 内容
説得力を高める。
会議等では積極的に発言する。
言い難いことを事実に即してはっきりと伝える。
組織内で横断的な人間関係を築く。

2-4.人を使う人が最低限保有すべき社会的常識

チェック欄 番号 内容
最低限の労働関連法規を知る。労働関連法・就業規則・コンプライアンス規程等。
世界、日本及び地域の主要ニュースに関心を持ち、自分なりの理解をする。
パワー・ハラスメントをしない。何がパワハラかを知る。
セクシュアル・ハラスメントをしない。何がセクハラかを知る。
部下の多様性(性別、国籍、年齢等)を認め、寛容な差別のない勤務環境を維持する。

おわりに

 “己より優れたるものを部下としてともに働くわざを知れる人ここに眠る”これはアメリカの実業家A.カーネギーが自分の墓碑銘として生前に彫らせた言葉です。誰にも自己の保身の気持ちはありますので、自分より優秀な部下を採用したり、使用したりするのは若干の抵抗があります。しかしながら近頃のジェネラリストよりスペシャリスト採用が多くなりつつある時代には、自分より優秀なスペシャリストの採用を進めないと、会社の成長は勿論、存続さえ危ぶまれることになります。経験より新しい知識やスキル、柔軟な思考を持った自分より優秀な人を採用し、使用できる能力と勇気を持つことが、ますます重要な管理者の資質となる時代になりました。