20.ワークライフバランスを実現して、より幸福な生涯をおくるには

はじめに

 最近国や企業が社員のワークライフバランスの改善に努力していることが話題になっています。社員の仕事と生活の両面を充実させるための働き方改革の一環としての、残業や休日出勤の削減、育児・介護休暇取得の推進、フレックス・タイムやテレワークの導入、福利厚生の充実等で会社の狙いは、社員のモチベーションや生産性の向上です。
 本稿では、そのような、会社施策ではなく、個人がどのようにしたらワークライフバランスをとれるか、あくまでも個人主体のワークライフバランスの実現と、その結果として、どのようにしたら幸福な生涯を送れるかについて取り上げたいと思います。以下はあくまでも私の個人的見解です。何かしら読者のヒントになれば幸いです。

1.より幸福な生涯をおくるために必要なもの

 幸福な生涯をおくるのにまず必要なものは“意志の力”だと思います。新約聖書にあるよく知られた言葉で「叩けよさらば開かれん」がありますが、幸福を手に入れるために自分から積極的に努力をしなければ、その可能性も開かれません。何かを達成するためには第一にやり遂げる強い意志が必要です。そして幸福な自己実現のために次に必要なものの中、多くの人に共通するのは、時間、計画、お金、健康等だと思います。以下で、それらについて述べます。

2.生涯労働時間と十分ある現役中及び退職後の可処分時間を検証する

  • ①生涯労働時間の計算

    10時間×250日/年×43年=107,500時間

    前提:

    1日の労働時間(通勤時間含む) 10時間
    年間労働日 250日
    在職年数 43年(退職年齢65歳-就業開始年齢22歳)

  • ②現役中の可処分時間の計算

    平日:24時間-8時間-10時間-2.5時間=3.5時間)×250日×43年=37,625時間
    休日:(24時間-8時間-2.5時間=13.5時間)×(365日-250日=115日)×43年=66,758時間

    平日と休日の合計:37,625時間+66,758時間=104,383時間

    前提:

    睡眠時間 8時間
    基本生活時間 2.5時間

  • ③退職後の可処分時間の計算

    1日24時間-睡眠時間8時間-基本生活時間2.5時間=13.5時間

    寿命を80年と仮定すると15年(80歳-65歳退職)

    13.5時間×365日×15年=73,913時間

    寿命を85年と仮定すると20年(85-65歳退職)

    13.5時間×365日×20年=98,550時間

    参考:

    厚生労働省発表の2021年の日本人の平均寿命
    男:81.47歳 女:87.57歳 平均:84.62歳

  • ④上記主要数字を抜き出すと、

    生涯労働時間 :107千時間
    現役中の可処分時間 :104千時間
    退職後の可処分時間 :98千時間(寿命を85歳と仮定)
  • ⑤上記数字から読み取れること

    • 現役中の可処分時間は生涯労働時間にほぼ匹敵する。
    • 退職後の可処分時間も生涯労働時間の90%以上に相当する。
    • 現役中も退職後も、それぞれ生涯労働時間に匹敵する可処分時間を保有するので、生涯で自由にできる時間は十分ある。
    • 今後は世界も日本も週休3日の時代に向けて進む趨勢なので、上記可処分時間は、更に増加すると考えられる。

3.もっとキャリアを伸ばしたい人には、副業あるいは複業の時代の到来の恩恵を享受できる

 現役時代から、このように可処分時間があるのですから、現役中に2つ以上の仕事を持つことも益々可能になります。副業とは、現在の仕事を主にして、2次的に別の仕事をすることで、複業は、現在の仕事も新しい仕事も、時間的にも労力的にも同等に行うことです。どちらにせよ、ある人にとっては、現職を続けながら、別の仕事を持つことが、自分の保有する才能の活用や、付加的な収入になる等、個人の幸福度を増大させることに繋がりましょう。場合によっては、新しい仕事に必要な知識やスキルを習得するためのリスキリングも必要かもしれませんが、その時間も十分確保できますから、多くの場合実行するのに決して遅すぎることはありません。副業あるいは複業はそれを許可する会社でしか出来ませんが、段々とそれを許可する会社は増えていますし、それを許可しない会社には優秀な人材が集まりにくくなって行くでしょう。

4.キャリア以外の道を進む人も早くから生涯の計画を立てて実践しよう

 70歳代以上、あるいは60歳代以上の方々までは、まとまった時間をとれるのは退職後だから、それまでは、仕事中心で働こうという方々が多かったと思います。その世代の方々にとっては、仕事をしながら、自分の時間を確保するのは難しいことでした。しかし今現役の人たちは違います、現役中から時間は十分あります。そこで、自分のやりたいこと・好きなことには、若いうちから、取り組みましょう。その自由時間を生涯を通じて、如何に有意義に使うかが豊かな生活の創造・維持に直結します。時間は計画的に過ごすように若い時から習慣づけましょう。

5.何をしたいかが決まっていない場合の計画の立て方

  • ①何をしたいかが決まっていない場合、具体的な計画を立てる前に何をやりたいか、やらなくてはならないかを、思いつくままに紙に書いて列挙します(自分の内面を可視化します)。
  • ②その中から、本当にやりたいことを絞り込みます。3つか4つで、ある項目を達成したら、新しく追加したら良いでしょう。
  • ③健康のためにもスポーツ(出来れば定期的にできるもの)、学び、楽しみをそれぞれ1つずつ入れるとバランスが取れます。一生涯続けたい趣味・稽古事は早く見つけられると良いです。
  • ④やりたいことを列挙するとアクションが浮かんで来ますので、それをスケジュール化します。1年、2年、3年、できれば5年後位までの計画を作成します。

6.計画実行の留意点

 計画が出来たら、早速実行に移しますが、その際の留意点は以下です。

  • ①重要な計画には必ず予算と所要時間及び期限を設ける
  • ②計画の数は今実行できる範囲内に留める
  • ③柔軟な心構えで実行し、必要に応じて速度を緩めたり、早めたりする
  • ④計画は、半年ないし1年に1回程度は自分、家族、環境の変化に応じて修正する
  • ⑤「いつの日か」とか「そのうちに」という言葉は禁句にし、計画の実行に執着する

7.豊かな生涯をおくるために必要な経済的裏付け ~お金の計画を立てる

 幸福な生涯をおくるためには、喜劇王チャールス・チャップリンの映画”ライムライト”中の名言「人生に必要なものは、勇気と想像力と少しのお金だ」にある通り、ある程度のお金が必要です。沢山のお金は必要ありませんが、恒産なければ恒心無しで、自分が思う快適な生活をおくるための資金の確保は必須です。現役中及び、退職後の大まかな資金(収支)計画を立てましょう。人によりどのような項目が重要か違いますが、一般的に共通と思われる項目は、マイホーム購入、子供の教育費、親の扶養費、大型の耐久消費財、旅行等です。経済的裏付けがあってはじめて、自分の計画に邁進できます。

8.日常の行いの中に幸福を見つけよう

 余りお金を掛けずに幸福感を増加させるものは、身の周りに沢山あります。そのようなささやかなことを実行しましょう。例えば以下のようなことです。

  • ①記念日を祝う

    以前は、お正月、ひな祭り、端午の節句や七夕など、どの家庭でも祝ったものですが、最近はそのような機会が少なくなったような気がします。日常の小さな出来事を祝い、ささやかな非日常体験を持つことは、人を日々の憂いや緊張から解放させ、幸福感をもたらします。そのためには“お祭り”をしましょう。そのお祭りは、自分や家族の記念日や、めでたい出来事を祝うことです。そのような例は、夫婦の記念日、家族の記念日、自分の記念日、自分や家族にめでたいことが起こった時(子供の入学・卒業・就職、自分の昇格、家や自動車の購入等)です。

    家族にかかわる記念日を祝うのは、改めて家族の絆を強めるのにも有効です。

  • ②持っているものを定期的に整理する

    整理の利点は、まず片づけることで、身の周りが綺麗になり、視覚的にすっきりして、気分が晴れ晴れすることです。その結果、本当に必要なモノが明確になり、それらを今以上に使いこなそうという気になります。又、今持っているモノのありがたさを実感し、無駄なモノを買わなくなります。そして、家のスペースが広がり、生活空間が広がります。不用品をフリーマーケットで売れれば、その売り上げで、家族一緒に外食が楽しめるオマケが付きます。
    不要なモノの基準は以下です。

    • ⅰ)3年以上使わない物・道具(ゴルフ・テニス等)
    • ⅱ)不要な本・雑誌・手紙・映画演劇音楽会等のパンフレット・切り抜き
    • ⅲ)2シーズン以上着ない衣類
    • ⅳ)普段使わない机の引き出し・本箱・道具箱、箪笥等の中身

9.健康 ~本当は一番大事なもの

 ここ迄幸福になるために“やること”を述べてきましたが、幸福な生涯をおくるのに不可欠なものは健康です。健康を保ち、体力・知力を維持できてこそ、幸福の追求が可能です。何を差し置いても健康を維持するための時間を惜しんではいけません。体の異常に気が付いたら、即医師の診断を仰ぎましょう。仕事優先のために診断を遅らせて、取り返しのつかない状況に陥った友人・知人を何人か見てきました。40歳になったら毎年人間ドックに入りましょう。普通に健康な人も、普段から体を動かす習慣をつけておくと、高齢者になると違いが出ます。私は、ただの寿命より活動できる健康寿命を延ばすことの方が、大事だと思います。

おわりに

 私の信条の一つが「人生全てバランスだ」です。多くの物事にバランスが関わっており、我々は無意識に個人個人の選好に従って、そのバランスを最適にするような行動をとっています。ワークライフバランスは、仕事と個人の時間にかかわる、バランスの一つにすぎません。私は、幸福な生涯をおくるには、それなりの準備が必要だと思います。その準備とは、計画です。日常の喧騒から離れることができる休日や休暇先で、2-3時間、現在と将来について考える時間を取ってください。配偶者や家族と一緒でも良いでしょう。そうして現在と将来に何をしたいかをまず考えましょう。行動を起こすことに躊躇してはいけません。