人事担当者のための「面接講座」〜対人関係としての面接〜
株式会社ヒューマンキャピタル研究所 主任研究員 北山 進
■ 連載 人事担当者のための「面接講座」
第5回. 対人関係としての面接
いろいろな対人関係があるが、面接もその一つであることを強調したい。時間の長短はあるが面接も回数を重ねると時間はそれなりに長い。
一番大切なことは次図の手順だ。
「深める」を軸として双方の一致と理解を得ることだ。また深めることで新しい質問も生まれてくる。一方的な質問と応答のやりとりでは、人間関係は生まれてこない。また相手が合わせるだけでも、「質」としての関係は成り立たない。
最近せっかく入社しても、早期離職が目立っている。新入社員の約3割は、3年以内に辞めている。もちろん非自発的なものではない。「仕事の不適性」や「上司や先輩などとの対人関係」が原因の大半だ。参考として次の資料を示しておこう。
仕事が合わない、ということは、入社時の検討不足もあるわけでこれは措くとして、重要なのは「人間関係」だ。実は古い資料だがアメリカのMIT経営スローン・スクールのE.H.シャイン教授の膨大な研究結果が「新入社員のジレンマ-何が彼等を去らせるのか-」というテーマで報告されている。
その詳しい内容は省くが、早期離職とその原因が対人関係にあるということが結論だ。
特に直属上司、先輩や同僚たちとの感情的対処にストレスが集大成された結果にあるということも述べられている。
さて面接も「対人関係」である。初対面という関係で企業の要請する諸能力と、応募者の願望の一致を探るやりとりはきびしい。お互いの好悪感、人の見方の枠組み、特に面接官としてのプライド等も避けがたいであろう。
ここで、私が聞いた話を述べておきたい。ある学卒の応募者が数社回って、最初の企業に入社を決意して戻ってきたということだ。その企業の人事責任者は「何故、わが社に決めたのか」問い質した。学生は即座に「御社が僕のことを一番理解してくれていることが、あちこちの面接ではっきり分かったからです」と答えたのである。対人関係としての採用面接は重要だ。面接者の人間的魅力だけでなく、理解し合う努力が良い対人関係をつくっているのだ。
ここで面接力の偏りに関して、二つの資料を紹介しておきたい。一つは女性応募者の例だ。よく聞く諺に「面接官は美人しか写さないカメラマンだ」とも言われる。少し気に障る言葉だが実はそうでもない。ある銀行の人事責任者から「今年採用した8人の女子社員に疑問があると、現場からクレームがあったので相談したい」という。早速出かけて例の「HCI-AS」の「結論」をみた。次表がそれだ。
採用後、クレームをつけたのは直属の上司である女性課長であることを付記しておく。
この表をみると必ずしも「客観的資料」を参考として面接決定したとも思えない。面接を重視することは分かるが、直属上司からの疑問と表の内容から疑問が残る。当面の対策として、今後女子従業員の面接には、ベテランの女性を参加させる事にした点は注目してよいことだ。もう一つの資料は、「買い手市場:売り手市場」との「結論対比」である。もちろん買い手市場の場合は母集団は大きく、また選抜時間も十分かけることができる。じっくりとした面接力の強化も期待されるはずだ。取りあげた資料は少し古いが、買い手市場として昭和61年度を、超売り手市場であった平成2年度と比較してみた。
前者の年度は15社(中堅以上)639名。後者では同じく中堅以上の6社、323名。結果は次表の通りである。いずれも採用された人たちだ。
1、総合的にみて採用実績に大きな差はみられなかった。
2、結論1ではむしろ「買い手市場」の方が低く、結論1、2を合計すると「37:36 」でほぼ同率となっている。
3、結論5では「売り手市場」の方が、4ポイント多くなった。
4、注目の結論4で「買い手市場」の方が2ポイント高くなったことは考えさせられるものがあろう。
上記のように、「市場対比」による面接結果、客観的資料にも大きな差はみられない。ちなみにこの時の日本経済新聞社の例年実施するアンケートによると、平成2年度は「量はある程度確保できたが、質では35%不満」と報道されていたことに注目したい。
先にふれたように古い資料ではあるが、これとは別に遂年的に実施した結果でも、ほぼ同様の結果を得ている。(別に公表済み)
面接力そのものを改善、向上させるという課題は重要だがむずかしい。面接を「対人関係」として、相互理解を深める姿勢が向上の核となるであろう。調査的面接から臨床的面接へ深めていくということだ。NO4の末尾にふれたことだが、相手を知り自己を知ることが対人関係としての面接である。せめて「一勝一敗」の精神を大切にしたい。既に面接から「人間関係」は始まっていると考えたい。
インサイト No.6
2005年1月6日