人事担当者のための「面接講座」〜面接を掘り下げる〜

株式会社ヒューマンキャピタル研究所 主任研究員 北山 進

■ 連載 人事担当者のための「面接講座」

第4回 面接を掘り下げる! ―己を知れば一勝一敗―

 面接を成功させる基本的原則は、まず相手を深く知ることであろう。
これは当然のことだが次に「自分の対人対応の癖」を自覚することが不可欠である。
面接エラーをいかに最小にして、必要人材の採用を最大にするかが、採用面接の評価基準だ。相手を知ることに全力をつくすことは当然のことだが、自己の面接のあり方の(採用基準を含めて)の自覚不足によっておこってくるエラーも多い。自分の人を見る癖の自覚である。
中国の孫子の諺を引くまでもなく、「相手だけでなく己を知ることなくして」戦いに勝つというわけにはいかない。しかし面接力は年々強化されているようにも見えない。逆に「年々学生の質が落ちている」という人事担当者のいつもの声は低くなっていない。
いずれにしても「己を知る」という面接力の側面を無視して洞察力の強化はありえない。
小手先の技術だけでは短時間で相手を掘り下げることはむずかしいからである。
極端な言い方だが面接力が強化され、人を見る「洞察力」を備えれば、「客観的資料」は不必要である。私はいつもセミナーでそう言うと当研究所の社員は困った顔をする。しかし客観的資料は面接力強化のための支援プログラムであるというのが、私の認識である。

前回に某社の採用例を示したがその結果が「金太郎飴」式のものとなった。しかしそれが必要だと認識されていればこの面接力は強い。しかしそうではなかったのは残念だが。
さて面接結論と当社の資料結論とのズレについて、時折り相談が持ち込まれる。内容は自社面接に自信をもっており、資料結論に懐疑的なものが殆どだ。こうした相談を寄せていただくことはそれだけ採用に積極的であるわけで歓迎すべきことである。
ただ資料の結論がプラスで、面接結論と逆のズレについての相談は殆どみられなかった。それに答えるというわけではないが、いくつかの相談ケースを類型化して図1にまとめてみた。
A,B,Cの三つのタイプに分類された。それぞれの表を4分割して面接決定の重点を示してある。
4分割の中の「●印」のついた領域がそれである。実際の応答のやりとりのなかでは、他の能力との関連もあったが、わかりやすく焦点を絞ってみた。
もっとも多かったのはAタイプで「面接時の印象」が強く影響していた。以下B、Cの順となった。

図1. 面接決定の重点はどこに

次にこれを補足する資料として表1を参照してほしい。
客観データよりも面接所見を重視したケースが過半数を示している(64%)。図1での「面接順応力」による採用決定と照合できるものだ。以上と比較して面接所見とデータが逆のパターンが20%と少なくなっている。尚、社内での採否決定の意思が不一致だったものはこの資料から除外した。いずれにしても過半数を示したエラーパターンより、20%のエラーパターンのほうが面接エラーの根は深いであろう。
この結果の内容をさらに企業の「面接記録表」と「客観資料」によって比較検討してみる。

表1. 面接ミスの発生パターン

A 面接所見>客観資料の場合

①ソフトな面接印象である。表現力にもすぐれ、応答がスムーズであった。叉、全体としてこだわりがなく明るい人柄が見られた。
②また機転がよく、こちらの質問にもスピーディーに対応してくれる。協調性の高い人材という感じを受けた。

B 面接所見<客観資料の場合

①融通性に乏しく、こちらの質問にも素直な対応がなく、逆に自己主張的なものを感じた。
②プライドも高い印象で「がんこ」な性格の持ち主であることが予想された。
③叉、人間的にも面白味がなく、対人関係の面でうまくいかない印象を受けた。
 さて「客観的データ」の結果はどうであろうか。
まず前者Aの場合では次のポイントが示されている。
① その場その場の対処がうまい。
② 都合のよい意見をすばやくつかむ。
③ 持続力・粘り強さに欠ける。
④ 主体性の低下が強くみられる。
B の場合のポイントは次のようである。
① 物事に対して筋を通す強さを持つ。
② それだけに「論理的」である。
③ 慎重な発言と妥協の少ない人。
④ 時によっては上司もタジタジとなる。自信をもっている。

以上のデータから面接が表層的印象に流れやすく、深層的な能力の質にまで至っていないことがわかる。某社で「行動力+スポーツマン」を採用面接の指標としたが、結果的に暴走族を採用してしまったという例がある。表層と深層を見抜けなかった一例である。また中途採用で多彩なキャリアに魅せられて採用したが、実は前社での「盤回し」の結果だったという例もあった。いずれにしても参考資料はそれとして、「質としての能力」を把握する機能は「面接力」しかないのだ。面接の真の役割は「百聞は一見に如かず」から「一見は百聞を越える」でなければなるまい。ごく最近の調査によると「就活後UP企業」と「就活後DOWN企業」とのズレが目立っているという報告がある。
バツグンの知名度で、就活前に豊富な母集団を得て中から採用指向としてみたが短期間で“撤収”する学生が相次いでいる。
この知名度と期待能力とのズレは、面接の際の「表層」的把握と「深層」的把握のズレに対応しているであろう。優れた「洞察力」によっては、少なくとも就活後のマイナス現象は避けられたであろう。むしろアップの流れをつくることができたはずである。
いずれにしても、面接ミスは最小限に止どめることが基本原則だが、「彼を知り己を知れば百戦して敗れる事なし」が面接力UPのキー・ポイントになるであろう。せめて孫子のいうように「己を知れば一勝一敗」のところに、実のところ面接力の核心があると考えたい。

インサイト No.4
2004年8月10日