17.成果主義に基づくポイント制退職金制度

はじめに

 退職金を廃止する企業も出てきていますが、国の社会保険制度の将来が不安視されている今日、退職金は一つの重要な老後資金として位置づけられています。しかしながら、給与や賞与は、既に業績・成果・能力に基づく支給になりつつありますが、退職金制度は、そのような取り組みが遅れているように見えます。そこで、退職金制度を創設、あるいは改訂する場合は、業績・成果・能力を重視したポイント制退職金制度を勧めます。

1.従来の退職金制度と、その問題点

 従来の制度は、一般的に退職時の基本給に勤続年数に対応する係数を掛け合わせて求めます。通常は最終月次基本給と勤続年数係数の積として計算されますので、基本的に年功の要素が非常に大きくなります。なぜなら、通常、基本給は年功制度では勤続年数が多くなると高くなり、退職金係数は勤続年数に応じて多くなるので、その積の退職金金額も必然的に増加します。

従来制度における退職金額 = 最終月次基本給 × 勤続年数係数

勤続年数それ自体は、会社への貢献度と直接関連のない要素です。それによって決定される退職金制度について、成果主義が重要視される今日では、その存続が疑問視されるのは当然の事です。そこで、成果主義を加味した退職金制度として、ポイント制退職金制度が登場しました。

2.ポイント制退職金制度の概要

 ポイント制退職金制度は等級別、あるいは職位別に退職金額をポイントに換算して累計する制度です。たとえば、部長職を1年務めると40ポイント、課長職を1年務めると30ポイント、係長職を1年務めると20ポイント等のように決めます。そして各役職での在位年数に各役職のポイント数を掛けて特定の役職での退職金ポイント数を算出し、勤めた役職全てのポイントを合計して総退職金ポイントとし、その総ポイントにポイント単価を掛けて、退職金額を算出します。役職のつかない一般職在職時も在職ポイントは付きます。1ポイントの価額は会社が適当と考える金額を設定しますが、通常は1ポイント=1万円です。

本制度は在職中の貢献度の高さ(より高い等級により長く在位すると高くなる)により退職金を支給する制度です。

ポイント制退職金制度には、大きく分けて、役割のみをベースにした単一制度と、勤続年数を加味した複合制度の2種類があります。

3.役割ポイント制単一制度

 この制度は、ポイント制退職金制度のもっとも純粋な形態で、上記2で説明した内容の通りで、成果主義中心の制度です。
 退職金算出式は以下の通りです。

役割ポイント制における退職金額 = 役割等級ポイント総数 × ポイント単価

3-1.役割等級ポイント

 役割等級ポイントは在位役割等級ごとのポイント数と、その等級の在位年数の積として算出され、各々の役割でのポイント数の和として算出します。

役割等級ポイント = 在位役割等級ポイント数 × 在位年数

役割等級ポイント 例

役割名(等級) ポイント数
一般職(1) 10
上級一般職(2) 15
課長代理・係長・主任(3) 20
課長(4) 30
次長・部長(5) 35
本部長(6) 40

役割(職位)ではなく、等級にポイントを付与することもできます。その例を上表役割名の後ろの( )内に表示しました。

本制度での退職金ポイント算出例をより詳しく見ますと、以下の通りです。
(ここでは、22歳入社・65歳定年として43年勤務、各役職の在位年数もあくまでも例として設定しています。)

   1等級職5年 × 10ポイント
+2等級職5年 × 15ポイント
+3等級職5年 × 20ポイント
+4等級職7年 × 30ポイント
+5等級職9年 × 35ポイント
+6等級職12年 × 40ポイント
=役割等級ポイント総数 1,230ポイント

3-2.役割等級ポイント単価

 導入当初は1ポイント=1万円とし、社会経済情勢や、会社の状況により改定します。ポイント制退職金の長所の一つは、支給金額の調節を、制度の改定を行わずに、単価の増減により容易に実施できるところです。改定後のポイント単価は、改定後に獲得したポイントのみに適用します。上記の例にポイント単価をかけて退職金額を算出してみると、以下のようになります。

退職金額 1,230万円 = 役割等級ポイント総数 1,230ポイント × ポイント単価 1万円

4.複合ポイント制度

 ポイント制退職金制度を採用する場合でも、役割等級ポイント制への全面的な移行を望まず、一部年功要素をとどめた退職金制度を設定したいと考える会社もあります。その様な場合は、役割等級ポイントと勤続ポイントの両方を備えた複合ポイント制度を勧めます。第一の役割等級ポイントは上記3-1で既に説明しましたが、第二の勤続ポイントは以下の通りです。

4-1.勤続ポイント

 勤続ポイントは、勤続1年ごとに原則一律ポイント(例えば10ポイント)を勤続年数分付与する制度です。退職金の要素に年功(あるいは勤続年数)部分を残したいと考える会社の要望に応じる制度です。勤続ポイントの付与の仕方にはいくつかの方法があります。

  • ①標準的には、勤続ポイントは1年の勤務に対して定額ポイント(例えば10ポイント)を授与します。
  • ②年功的要素を高めたい場合は、例えば、勤続1~10年は10ポイント、11~20年は15ポイント、21~30年は20ポイントなどと設定することも出来ます。
  • ③勤続ポイントは、年功要素に一定の歯止めをかける目的でその支給は有期とし、一定年数で支給を打ち切ることもできます。その場合は、30年程度が一般的であると思います。

どの種類の勤続ポイントを付与するにしても、会社の退職金支給額を一定としますと、勤続ポイントを付与する場合は、その相当分の役割等級ポイント数を調整(減額)する必要があります。

4-2.勤続ポイント単価

 現在良く使われているのは「役割等級ポイント」及び「勤続ポイント」ともにそれぞれ1万円です。両者の金額を異なる数値に設定することもできますが、特段の事情が無い限り、同額とするのが一般的です。それぞれのポイント単価は将来の社会、経済情勢、会社の状況等に応じて改定する事が出来ます。勤続ポイント改定後のポイント単価は、役割等級ポイントの場合と同じく、改定後に獲得したポイントのみに適用します。

4-3.複合制度における算出式

 この制度では、役割等級ポイント総数と勤続ポイント総数にそれぞれのポイント単価を乗じて、それを合計します。

複合制度における退職金額 = 役割等級ポイント総数 × 役割ポイント単価 + 勤続ポイント総数 × 勤続ポイント単価

5.退職金水準の決定

 ここでは、退職金水準の決定について、以下の場合における考え方を述べていきます。

5-1.新たに退職金制度を設定する場合

 新たに退職金制度を設定する場合は、同業種、同規模、あるいは、目標とする企業の水準を参考にしながら、設定します。本制度を導入する以上、同業、同規模他社と比較して、見劣りのする水準に設定するのは避けたいです。社員のモラルを勘案しながら、同業他社の平均値以上を目標に設定することが望ましいです。

5-2.既存の年功的退職金制度を、ポイント制退職金制度に変換する場合

 平均的社員の賃金モデル(たとえば22歳大卒入社、65歳定年退職など)を使用して旧制度と新制度を比較しながら、シミュレーションを行い、会社が目標とするレベルに設定します。目標レベルは、新旧制度で金額に差異を設けない、新制度の支給額を旧制度より高める等があります。どちらにしましても、定年退職時の退職金総額で比較し、両制度の期間中の凹凸はある程度無視します。ただし、近年は定年まで勤めない社員も増えていますので、定年時のみの比較ではなく、10年、20年、30年等の区切りの年数での比較も行って調整するのがより公正であると思います。

6.自己都合退職係数の設定

 通常の退職金制度と同じく、定年前の自己都合退職の場合は、算出した退職金額に一定の割引係数を乗じた金額とすることが一般的です。割引係数は勤続年数が多くなるに従って低くなるのが一般的で、低勤続年数で0.5程度から高勤続年数で0.9程度までが一般的です。一定年数(20~30年)を超す退職者には、定年退職扱いとするケースもあります。
 この場合の退職金算出式は以下です。

自己都合退職金額 = (役割退職金額+勤続退職金額) × 自己都合退職係数

7.適格条件

 ポイント制退職金の支給基準には、今日の一般的な制度と同様に最低勤続年数(例えば3年)を設定します。又定年退職年齢(例えば65歳)到達以前(例えば60歳)で退職金の全部あるいは一部の加算を止めるケースもあります。

8.ポイント制退職金の利点

 本制度では、退職時の基本給の額は、退職金算出に全く関連しません。基本給とは別に定められた、役割等級別退職金ポイント(場合によっては勤続年数ポイント)と在職年数のみから算出されます。したがって、退職金額を抑えるために基本給を十分上げずに、退職金算出には含まれない、別建ての基本給まがいの支給を行うなどの、変則的な賃金設定を回避することができます。今後、日本の企業が社員の老齢化に直面する事を考えると、年功による退職金の負担増を軽減させる制度であると思います。
 会社も毎年社員一人ずつの退職金の引当額が明瞭となり、社員も適宜自分の退職金を容易に計算することができます。
 ポイントの金額への変換レートは、前述の通り、社会情勢や会社の状況を勘案して変更することができますので、制度の骨格を変えずに、支給金額の増減を行うことができます。

9.新制度への移行措置

 新制度開始時点(旧制度からポイント制退職金制度への移行時点)では社員ごとにそれまでの退職金引き当て額を旧制度で計算し、その金額を設定したポイント単価を使用して退職金ポイントに換算します。退職時には新制度の獲得ポイントと旧制度のポイント換算額を合算して、総退職金額を算出します。

10.新制度移行後に起こりうる問題点

 新旧退職金制度により、それぞれ算定された金額を比較した結果、特定の個人においては、新制度金額の方が旧制度金額より多い社員と少ない社員が存在する可能性があります。新制度により計算された金額が、旧制度のそれよりも少ない社員は、特定の期間(例えば施行から3年に限り)本人の希望により、旧制度の適用を行う設定も可能です。

おわりに

 多くの企業が抱える退職金についての悩みは、その算出方式が最終基本給の金額と勤続年数におおむね正比例した退職金係数に連動していることです。そこで、賃金と退職金との分離を図り、年功要素を抑えて業績貢献度を重視するポイント制退職金制度が、成果に応じた報酬を重視する今日、より適している制度と考えられています。
 咋今、退職金を廃止して、賃金や賞与に繰り入れる会社もありますが、誰にでも訪れる老後に備えるための退職金制度は、税制面の優遇措置を受けられる点も加味して考えると、今後とも有意義な制度であり続けるものと考えます。
 最後に、ここで説明しました制度が個々の会社にはそのままあてはまらない場合は、各社で本制度を参考例として、自社にあった制度を設計していただきたいと思います。

今回のテーマである退職金制度は、第8回 報酬制度の一部となります。よろしければ、報酬制度の記事もあわせてお読みください