21.ビジネス・コミュニケーション力を高めよう
はじめに
会社が抱える問題点を3つ挙げるとしますと、その2つは会社により様々ですが、コミュニケーションはほぼ全ての会社で共通です。それほどコミュニケーションは会社にとって大きな問題で、それゆえに意図的、意識的に対応しなければ、自然発生的に改善されません。改善のためには、コミュニケーションを阻害している要因を突き止めて、それらを取り除く必要があります。コミュニケーション不足が生む弊害は数多くありますが、必要な情報を共有ができないために社内コンセンサスが取れない、伝達が遅れることによりビジネスチャンスを喪失する、正確な情報の伝達ができないことにより誤った決定・判断を行う、などです。本稿では、どのようにしたら、ビジネスにおけるコミュニケーション不足を補い、コミュニケーション全般を改善できるかについて述べたいと思います。もちろんビジネス以外のシーンでも使えるものです。
1.コミュニケーションの基本
ここからコニュニケーションの基本となる5つを説明します。
1-1.何をコミュニケートするかを明確にする
まず何をコミュニケートとするかを明確にすることから始めます。
- ①コミュニケーションの形態
- 事前・事後報告は、特定の案件についてのものでしょうから、何を、何時、どこで、どうしたか、その結果、今後の予定・計画などが含まれます。
- 連絡は、報告に近いものから、イエスかノーの簡単な返事まであります。
- 相談は、助言を求めるもの、確認を求めるものなどです。
- 指示命令は、通常上位者が下位者に特定の行動を起こすことを命じる行為です。
- 意見の発表は単数あるいは複数の人を対象に、自分の意見を発します。まず結論を述べ、次に理由・背景を述べます。
- ②自分の意見と他人の意見を峻別します。
- ③“皆が言っている”は無責任な発言になり易いので避け、他人の意見を引用する場合はできるだけ誰のものかを明確にします。
1-2.コミュニケートする相手により伝達内容を変える
伝える相手によって伝え方の違いを意識しましょう。
- ①顧客
顧客の背景は多様ですので、誰にでも受け入れられるように、丁寧に、熱せず、顧客を怒らせないように対応します。相手の真意を理解するように努め、その意見や気持ちを尊重し、自分の意見を押しつけたりしてはいけません。 - ②上司
上司には、簡潔に要点を適宜報告します。指示を受けるときは、必ずその内容を復唱して、その場で確認します。上司の指示間違い、あるいは、指示を受ける方の早とちりはよくあることですので、最初に指示を受けるときにそのような誤解をなくしましょう。 - ③部下
部下への指示はそれぞれの部下の知識、経験、スキル等により変えなくてはなりません。具体的な指示を必要とする新人から、求める結果のみを伝達するだけで良い熟練した人まで、各人の仕事のできる程度や経験年数に応じて、指示内容を変えることが求められます。 - ④同僚
同僚は普通自分と同じレベルの人達ですが、経験年数が長くなればなるほど、一定領域の専門家になり、ほかの領域については、疎くなることもありますので、それぞれの同僚については、依頼内容等に照らして、部下に対するのと同様の対応が求められます。
1-3.発信者(話し手)がコミュニケーションで気を付けること
発信者は常に下記の事項を心に留めながら、コミュニケーションをしましょう。
- ①結論を先に、理由・背景の説明は後に
- ②具体的に(何が・いつ・どうした等)
- ③事前に伝達内容をメモし、事後に結果をメモする
- ④傾聴する(こちらが発信者でも、聴く60%・話す40%を意識する)
- ⑤相手の反応を見ながら話す(早すぎず、遅すぎずに注意する)
- ⑥早合点や結論の先取りは避ける
- ⑦重要事項は、繰り返して伝える
1-4.受信者(聞き手)がコミュニケーションで気を付けること
受信者は下記の事項を意識しながら、コミュニケーションをしましょう。
- ①受信者も、一方的に受信者にならず、確認等のために発信し、会話が双方向になるように努める
- ②タイミング良くあいづちを打ち、返事をする
- ③話しの腰を折らないで、質問は話の区切りを見計って行う
- ④重要事項は伝達された内容を復唱する
- ⑤事後に伝達された内容をメモにする
1-5.伝達内容に合ったコミュニケーションの手段を使う
緊急性・詳細性・伝達許容時間・記録の必要性等に応じたTPOにより選択します。
- ①口頭・電話:伝達内容が短い場合、又イエスかノーかの返事を貰いたい時。
- ②Webメール:伝達時間が短く、伝達内容が短いものから、長いものまで両方に使用でき、現在では最も便利な伝達手段です。一定以上に長い場合は、ワード、エクセル、パワーポイントなどの別のソフトを使用して、それを添付するのが良いです。又、送付した記録が必要な場合にも適しています。
- ③報告書・メモ:Webメールが普及した現在、社内ではメールに添付されるケースが多くなっていますが、報告書は特に長い詳細な記述に使用されることが多いです。
- ④郵便:Webメールより形式や伝達内容の第三者による確認が必要な場合に使用します。代表例は「内容証明郵便」で、法的な意味合いを持たせたい、何らかのトラブルを解決するための警告及び交渉の目的で使用します。
- ⑤会議:参加者すべてが、双方向で伝達でき、また参加者間で合意に至った事項は決定されるので、時間的にも効率的な伝達手段です。現在ではWeb会議も多用され、距離の制約はなくなり、さらに効率的、効果的なものになっています。
2.コミュニケーションの応用
会社で多く経験する実際のコミュニケ-ションの場は、スピーチ、折衝,会議、プレゼン及び叱る時だと思います。全ての場で、前述のコミュニケーションの基本が役立つと思いますが、それぞれの場には特有のコミュニケーションのコツがあります。
2-1.簡潔なスピーチのコツ・ヒント
特に管理職になると,朝礼時、主催する会議の冒頭、社内イベントの開催時等で、短い挨拶を含めた意志の伝達を行う機会が増えます。スピーチは、ここでは、2~3分の一対多数向けの話す機会を言い、10分を超えるものは後述のプレゼンと定義します。スピーチのコツは以下です。
- ①すでに述べた通り、スピーチは、短く何らかのメッセージを伝えるための原則一方通行の伝達方式ですので、2~3分以内におさめます。
- ②短いのが特徴上、いくつもの項目に言及できませんので、話す内容は1~2の項目に絞ります。
- ③意見・意志の表明か、命令か、依頼かにより話す内容を明確にし、聞き手に曖昧さを残さないようにします。
- ④話す内容は、慣れないうちは、紙片に要点、話す順序等を書き留めますが、ある程度の自然さと即興性を演出するには、人前ではそのようなメモを見せないようにしましょう。
- ⑤命令・依頼の場合は、・・してください調ではなく、…しましょうとして、話し手と聴衆とが一体となって行動するパターンを使用すると、より効果的です。ただし、聞き手が命令・依頼であると明確に認識する形式をとります。
2-2.折衝力を高めるコツ・ヒント
折衝は、物事の利害関係が一致しない相手との談判によって、問題を解決するために折り合いをつけるものです。折衝力の低い人は、自分の意見をゴリ押ししたり、相手の言い分を聞かずに反感を買い、往々にして交渉をまとめることが出来ません。そこで、折衝力を高めるコツは以下です。
- ①自分中心に考えず、相手の立場になって考える(共感と思いやり)
- ②自身の要求を分かりやすく伝える
- ③熱せず、広い視野でお互いの意見や論点を公平に洗い出す
- ④話し合いが難航する場合を想定して、可能な代替案をいくつか準備する
2-3.効率的な会議運営のコツ・ヒント
- ①会議前にすること
- 議題の設定
- 参加者の決定
- 要時間の見積もり
- 日時・場所の設定
- オーナー・進行役の決定
会議時間は、効率化の浸透で段々短くなる傾向です。以前は時間単位でしたが、今では15分単位が普通です。
- ②会議中にすること
- 進行役が時間配分・議事進行
- 大項目は中小項目に細分して議論する
- 時間内に終わらせる
- ③会議後にすること
- 議事録の作成・配布
- 異論のある参加者からは、即返信の要求
- ④継続会議に必要なこと
- 必ず前回の決定事項の確認
- 前回までの決議事項の進捗状況の確認
2-4.プレゼン上達のコツ・ヒント(パワーポイント使用時の例)
プレゼンは、多くの場合、あるまとまったアイデア・考えを伝達するストーリーテリング(物語を聞かせる)ものですので、まず話の構成をしっかり作ることが必要です。更に誰に話すかを明確にして、そのターゲット聴衆に合わせた内容にする必要があります。
- ①原則1スライド1テーマとする
- ②字を大きくする(フォントサイズで24以上)スライドで見せる以上、聴衆が読める大きさにセットするのは必須
- ③色使いを抑える(3-5色)
- ④結論は最初に理由は後に述べる
- ⑤聴衆の反応を見ながら進める。独りよがりの進行に注意する
- ⑥事前リハーサルを必ず行い、所定の時間内に終わらせる
- ⑦予想される質問の答えは用意しておく
2-5.上手な叱り方のヒント・コツ
誰にでも叱られた経験はあるはずですが、その割に叱り上手は少ないようです。叱り上手になるために第一に意識することは、叱るのは怒ったり責めたりすることではないということです。人間は怒ったり責めたりするときは感情的になり、理性や思いやりが欠けます。ですから、叱る場合は、まず努めて冷静さと理性を失わないように心がけましょう。その上で、いくつかの事を実行できれば、叱り上手に近づけます。
- ①叱るポイントを明確にし、複数の件をまとめて叱らない。
- ②叱る事象が発生した時点で叱り、過去の事象を持ち出さない。
- ③行為や事柄を責め、人格や価値観を責めない。叱る相手をリスペクトし、その尊厳を傷つけない。
- ④人前で叱らない。恥をかかせない。
- ⑤叱りっぱなしにせずに、改善策を一緒に考える等、適切なフォローを忘れない。
- ⑥叱るときは、メールなどではなく、対面で行う。メールでは、内容は伝わっても感情が伝わり難い。
おわりに
コミュニケーションの語源は、ラテン語の「communis コミュニス」で、「共通の」、「共有の」、「分かち合う」といった意味があります。それゆえ、コミュニケーションは双方向的行為で、伝達者が話し、受信者が聞くだけでは、双方向になりません。受信者も発信者と同じく積極的・活発に聞き、質問等をする必要があります。コミュニケーションに積極的に関わろうとすると、自然にその内容が活発になります。コミュニケーション力は、会社で使用する多くの技術と同様、学習により習得できるものです。ここでお話しした内容で、理解・納得されたものがありましたら、是非習得して日々の勤務の中で利用していただければ幸いです。