9.配置制度(昇降級・昇降格及びその他の異動)

はじめに

 企業は経営戦略・目標を達成するために種々の資源を活用します。活用できる資源の最も重要な要素が人材で、それを実施するための制度が配置制度です。企業は定期あるいは不定期の配置活動によって、より効果的・効率的に経営戦略を実施するとともに、組織の硬直化やマンネリ化を抑制して活性化し、セクショナリズムを打破し、組織内の風通し(コミュニケーション)の改善を行い、又人材育成に繋げます。配置はいくつかのサブ制度に分類されます。その主なものは、昇降級制度、昇降格制度、ジョブ・ローテーション制度、社内公募制度及びプロジェクト・チームへの参加です。
 ここでは昇級とは下級から上級への異動を意味し、降級は上級から下級への異動を意味します。昇格は職位の上方向への異動(例えば課長から部長へ)を意味し、降格は職位の下方向への異動(例えば部長から課長へ)を意味します。なお本論では等級制度に関する叙述がある場合は6等級制度(6等級が最上級)を前提とし、年度業績評価に関する叙述がある場合は、評価結果を上から、S,A,B,C,D の5段階で行うこととします。

1.昇級

 昇級は原則的に総合業績評価の結果を基に行います。総合業績評価については既に本シリーズ6回目で説明致しましたが、ここではその評価の結果と昇降級がどのように連動するかについて説明します。

①総合業績評価点数の5段階への換算
 既に前述の6回目で表示しましたが、此処で説明を容易にするため、換算表を再掲載します。評価点数は100点を満点の最高得点と設定し、評価レベルを5段階(S, A、B、C、D)に設定します。但し管理職の合計点数、あるいは平均評価点に対応する評価段階は一般職のそれよりも若干厳しくしてあります。管理職の役割の大きさ及び責任の重さを勘案した結果です。

管理職評価得点数に対応する評価段階

合計点数 平均評価点 評価段階
90-100 4.5以上 S(非常に優れている)
80-89 4.0以上 A(優れている)
70-79 3.5以上 B(期待水準を満たしている)
60-69 3.0以上 C(やや劣り指導を要する)
59以下 3.0未満 D(きわめて劣り改善を要する)

一般職評価得点数に対応する評価段階

合計点数 平均点数 評価段階
90-100 4.5以上 S(非常に優れている)
75-89 3.75以上 A(優れている)
65-74 3.25以上 B(期待水準を満たしている)
55-64 2.75以上 C(やや劣り指導を要する)
54以下 2.75未満 D(きわめて劣り改善を要する)

②評価段階と昇級の関連
 上級への昇級ほど条件を厳しくし、下級への昇級は一部年功的要素も加味しても良いでしょう。例えば、5級から6級(最上級)への昇級は直近5年間に毎年A以上で且つ、3回以上Sがあること、また2級から3級への昇級は直近4年間に毎年B以上で且つ、1回A以上があることなどです。
 以下に昇級表の一例を表示します。

昇級後等級 昇給前級における
最短滞留年数
総合業績評価結果 所属長の推薦 役員会の承認 昇級試験(小論文等)
合格
研修受講
(昇級前後)
6 5 過去5年間A以上
かつ3回以上S
5 5 過去4年間A以上
かつ2回以上S
4 4 過去4年間A以上
かつ2回以上S
3 4 過去4年間B以上
かつ1回以上A又はS
2 4 過去4年間B以上
かつ1回以上A又はS

③その他の昇級条件
 昇級条件は業績評価結果のみならず、上司の推薦、社内試験、昇格前或いは後研修の履修、役員会の承認等を必要とし、バランスの取れた人材の登用が望まれます。昇級条件の中どの項目を重視するかは会社の方針によりますが、業績評価結果を重視する会社が多く見かけられます。

2.降級

 降級は総合業績評価結果や上司の提案等を勘案し、役員会の承認等を必要とする場合もあります。業績面では、期待値未満のC評価及び、最低のD評価を取った者が対象になります。

①降級基準
 Dを取得した社員或はCを2年連続で取得した社員は、1等級の降級とします。上級等級者にはより厳しい降級条件を設定することもできます。
②改善計画の作成とフォローアップ
 会社としてはCやD評価を取得した社員を放置するわけにはいきません。適正な指導と本人の努力等により早急に期待水準の成果を出せる社員に改善する必要があります。この目的を達成する為に、C及びD評価の取得者には未達項目の改善計画を上司とともに作成させる必要があります。
 この計画は、具体的且つ実行可能な項目とし、上司には最低2ヶ月ごとの面接を課して、改善の進捗を確保します。

3.昇格

 等級と職位(部長、課長等)が1対1の対応をしている場合は、昇級は昇格ともなります。一つの級に複数の職位が存在する場合は、昇級が必ずしも昇格を意味しません。その場合は、昇級前後の職位は変わらないことになります。特定の等級の中で、下位の職位の社員は実力を高めつつ同時に上位の職位の空席待ちとなります。

4.降格

 降級した場合は、通常職位が一段階降格します。降級した級に複数の職位が存在する場合は、上司及び関係者が協議の上、上位あるいは下位のより適正な職位につけます。

5.ジョブ・ローテーション

 比較的若い社員や入社歴の浅い社員に幅広い職務経験をさせる為の教育の一環として行います。日本では従来ジェネラリスト志向の採用を行ってきたために、経営幹部を育てる意識が強く、そのため若い時代に複数の部門や職種を経験させ、全社的視点から自社のサービスや商品の理解を深めさせる必要があると考えられてきました。
 現在の専門職志向とはやや逆行する制度ですが、入社後5年間ぐらいは、この制度を適用して、複数の職種を経験させるのは、将来特定の専門職になるにしても、全社的視点を持つ社員の育成には有効です。一職種・部門での期間は、職種の内容により一概には言えませんが、数か月から2年位が適当であると考えます。

6.社内公募制度

 社内公募制度は、会社が必要としているポストや職種等の要件を、あらかじめ社員に公開し、応募者の中から、最適な人材を登用する仕組みです。既に多くの会社で普及している制度で、会社が人事権を留保しつつ、本制度を導入することで、社員が職場や仕事の内容を選択できる環境が生まれ、社員のモチベーションを高揚する効果があります。できるだけ多くの採用ポジションに公募制度を適用することが求められます。

①公募主体

 通常は、会社内での公募ですが、グループ会社全体での運用もあります。この場合は、自社以外の親子会社、兄弟会社への応募となり、採用されれば出向(一定期間の派遣)や転籍(現職を退職して新会社の社員となる)を伴うこともあります。

②公募条件

 公募通知には以下の条件が明記されます。
・ポジション又は職種
・等級及び職位
・仕事の内容
・勤務地場合によっては所属会社名
・直属上司のポジション及び氏名
・年間給与額(ボーナスを含む)
・必要な職務経験年数
・必要な資格や知識及びスキル等

③応募資格

 応募時の職場に一定年数(例えば2年)以上勤務していること、及び思慮の浅い応募を助長しないために、一定期間に応募できる回数を制限する例もあります。

④応募者の現職上司等への報告の有無

 応募することを現職の上司に事前に報告を義務付けるかどうかですが、申告を要しない例が増えています。事前報告制を採用する場合は、応募のハードルが高くなり、又応募に失敗して現職に留まる場合に、現職の上司と気まずい関係になることも考えられますので、その様な状況を避ける配慮が求められます。

⑤現職上司の立場

 現職の上司は部下の異動が決まったら、その異動に異を唱えることはできないというルールが必要です。このルールがないと、上司はその異動を妨げることができ、この制度そのものが成り立ちません。本制度は上司の都合より本人の希望を尊重する制度です。

⑥現職部門の欠員補充のルール

 社員が公募に合格し現職部門を離れることが決まり、更にその補充が必要な場合は、その補充費用(採用費用)は公募者受け入れ部門が負担するのが原則です。その理由は公募には費用がほとんど掛かりませんが、公募者を送り出す部門は新たに公募できなければ、外部から採用しなくてはならず、採用費用が発生しますので、その費用を受け入れ部門が負担するのが合理的です。

⑦異動時期

 異動時期は送り出す部門と受け入れる部門が協議して決めますが、通常1-2ヶ月です。外部から採用する期間等を勘案して、それより短く設定するのが一般的です。

7.プロジェクト・チームへの参加

 企業は全社的あるいは複数の部門が関係するプロジェクトを実施することがあります。プロジェクト・チームの組成は、会社からの視点では、プロジェクトの目的達成に社内から最適な専門知識や経験を保有した人材を選抜できるので、最高の成果を期待できます。又社員の視点からは、チャレンジングな仕事につける、他部門の専門家と共に働けることから、満足度の高い仕事に従事できること、又社内の人的ネットワークが構築でき、その後の仕事にも寄与する等の利点があります。人的観点から見たプロジェクト・チームは下記の要件を満たすのが望ましいです。

  • ①メンバーは組織横断的に選出します。
  • ②リーダーはプロジェクトの重要性や規模に応じて課長クラス、部長クラス又は役員クラスになります。
  • ③人数は、中身の濃いい議論がされること又、迅速な決定ができること等を勘案して、通常5名-7名程度とします。
  • ④メンバーは原則兼務とします。従ってプロジェクト存続中はメンバーに時間的・精神的負担がかかります。
  • ⑤プロジェクト・チームでの働きは適正に評価されなければなりません。通常メンバーの業績評価は本来の職務の上司が主で、プロジェクト・リーダーの意見を加味して行います。