8.報酬制度
はじめに
誰もが働きに応じた賃金の支払いを得たいと思っています。しかしながら多くの企業で未だ貢献度や責任に応じた賃金の支払いが実施されていません。今回は報酬とはどういうものか、又どのようにすれば公正な報酬の支払いが出来るかについて述べます。公正な報酬を支給するには公正な業績評価が行われ、その結果に基づいた昇給制度やボーナス制度が存在することが前提です。その点についても説明します。
報酬は大きく分類すると次の3つから成ります。
1.基本給
2.賞与(ボーナス)
3.退職金
各項目について説明していきます。上記以外に諸手当及び、その他インセンティブがありますが、ここでは、紙面の都合により省略します。
1.基本給
基本給は名実共に賃金の中心となるべきものです。役割等級制度においては、各等級にあてがわられた基本給レンジの中で決定された金額が、社員の基本給で当人の社内での位置づけを示すバロメーターになります。今日でも使用されている年齢給や勤続給は属人給で社員の成果貢献度、役割の大きさ、責任の大きさ等を必ずしも反映するものではありません。従って、役割・職務の大きさに応じて支払われる基本給制度に変更する必要があります。
役割等級制度では定期昇給の考え方はありませんが、毎年の業績評価の結果を反映した基本給の見直しはあります。業績評価結果により、昇給する人、据え置きの人、あるいは降給する人が出ます。
1-1.基本給レンジ(範囲)
基本給は等級ごとに、最高値と最低値を設け、特定の等級の社員の基本給は、原則として、その間(幅あるいはレンジと言う)のどこかに位置します。通常1級が最低レンジ、最高等級が最高レンジとなり、レンジ表により明示されます。
等級レンジが存在する理由は、特に中小企業では同一労働(職務・職位)そのものの存在が全てのポジションに複数あることは少なく、たとえあった場合も同一労働に従事する社員の質(能力、知識、スキル等)が同一とは限らないからです。
1-2.基本給レンジ表の作成方法
レンジ表は以下の手順により作成します。
- ①会社の現在あるいは想定される将来における最低基本給(A)を設定します。
- ②会社の現在あるいは想定される将来における最高基本給(B)を設定します。
- ③上記B-A=C、のCの額を設定する等級数(例6等級)で除し、各等級の平均レンジを見ます。
- ④実際には各等級のレンジを均等に設定することはなく、一般的には上位等級に行くほど、レンジ幅は大きくなります。その理由は、一般的に上級等級に行くほどそれらの等級における滞留年数が長くなるからです。
- ⑤各等級間ではレンジが重複するように設定します。これにより、等級下位の社員が会社に有用な特別な知識、スキル等を保有する場合、等級上位の社員より高い基本給を受給することができます。但し一般職最上位の3級(課長代理・係長・主任)と管理職最下位の4級(課長)の等級レンジは重複しません。何故なら、一般職から管理職に昇格する場合は通常残業手当が支給されなくなるので、その全部或いは一部の補填を考慮するためです。但し、役職手当が管理職になるとそれ以前よりも多額に支給される場合は、基本給と役職手当の合計額を考慮して管理職の基本給アップ幅を決定する必要があります。
1-3.業績評価結果と昇給率との関係
業績評価結果と昇級率を連動させることが、働きや貢献度に応じた賃金・給与の支払いを実現する上で、基も重要なことの一つになります。特定年度の昇級率は、当該会社の業績、業界や社会情勢などを勘案して決定されます。その結果その年の昇給原資が社員全体で、2%としますと一例として、管理職及び一般職の昇級率は次に示すようになります。管理職の基本給は一般職よりも高い実態を反映して、管理職の昇級率は一般職のそれより若干低めに設定してあり、又評価の低い管理職には減給を適用します。
管理職及び一般職業績評価結果と昇給率の連動例
評価段階 | 管理職昇給率 | 一般職昇給率 |
---|---|---|
S | 3% | 4% |
A | 2% | 3% |
B | 1% | 2% |
C | 0% | 0% |
D | -1% | 0% |
2.賞与
賞与は日本においては今日まで長く、生活給の一部として存在しました。そのため、企業業績が好調な時でも、平年並みか若干上乗せがある程度で、好業績に見合う大幅な増額支給はありませんでした。反対に不況時でも会社は努力して、平年時に出来るだけ近い額を支給しました。このように会社側社員側双方が景気・業績に左右されない安定した支給を求めていました。しかしながら、近年では賞与は社員各人の業績及び会社業績を反映して支給するという考えが次第に強くなっています。この動きは、会社からは、不況時の体質強化のために、賃金の一部を出来るだけ変動費化したい、又社員からは賞与は業績への貢献度に応じて支給されるべきだ、という考えが強まってきたからです。この点で両者の利害が一致したといえます。
2-1.賞与支給額の算定に使用される業績評価
賞与支給額の算定には、既に説明しました目標管理制度に基づいた評価結果、すなわち目標達成度を使用します。総合評価と違い、事前に設定した目標に対して、どれだけ会社に貢献したかを主に算定基礎にします。
2-2.算定方式
現在多くの会社において賞与は、未だ基本給をベースにしてほぼ固定的に算出している場合が多いと思います。この方式では賞与を会社業績、社員の業績に連動させるという考え方と合致しません。そこで今後は基本給の何倍と言う現行ベースを維持しながら更に、社員の業績評価結果、及び会社の業績に連動させる方式を考えるべきです。その一例を示します。
賞与金額 = 本人の基本給 × 本人の業績係数 × 会社の業績係数
- ①本人の業績係数
目標管理評価結果もしくは、ない場合は年度業績評価結果を使用(通常0.8-1.3の間ですが、その幅を広げることは可能です。) - ②会社の業績係数
過去3年間の平均業績指数を1として、本年の指数を算出します。不況であれば1未満、好況であれば1超となります。この方式を採用することで、賞与をある程度変動費化することが出来ます。この方式にもいくつかのバリエーションがあります。- 支給基本倍数(例えば年4か月とする)の半分を既存の方法で固定的に支給し、残りの半分を上記方式で変動的に支給する。
- 会社の業績係数を単一ではなく、例えば全社係数を50%、そして所属部門の業績係数を残りの50%採用する等です。
3.退職金
退職金を廃止する企業も出てきていますが、今日国の年金保険制度の将来が不安視されている中で、退職金は一つの重要な老後資金として位置づけられます。
又、退職金制度は、採用の際の一つの誘因項目ともなります。退職金制度を創設あるいは、改定する場合は、ポイント制退職金制度を採用される事を勧めます。
3-1.ポイント制退職金制度の概要
ポイント制退職金は等級別あるいは役職別に退職金額をポイントに換算して累計する制度です。1ポイントの価額は通常1万円とする場合が多いですが、社会経済情勢、会社の状況等に応じて改定することができます。例えば、部長職(6級)を1年務めると40ポイント(40万円)、課長職を1年務めると30ポイント(30万円)等のように決めます。そして各役職での在位年数に各役職のイント数を掛けて特定の役職での退職金ポイント数を算出し、務めた役職全てのポイントを合計して総退職金ポイントとし、その総ポイントにポイント価額を掛けて退職金額を算出します。役職のつかない一般職在職時も在職ポイントは付きます。
3-2.役割ポイント例
役割ポイントは在位役割ごとのポイント数と、その役割の在位年数の積として算出され、各々の役割でのポイント数の和として算出します。役割ポイントに在職年数や勤続年数による上限を設けるかどうかは、各々の会社が総退職金額を勘案して決めます。
役割名(等級) | ポイント数 |
---|---|
一般職(1) | 10 |
上級一般職(2) | 15 |
課長代理・係長・主任(3) | 20 |
課長(4) | 30 |
次長・部長(5) | 35 |
本部長(6) | 40 |
役割(職位)ではなく、等級にポイントを付与することもできます。その例を上表役割名の後ろの( )内に表示しました。
3-3.勤続ポイント例
勤続ポイントは、1年の勤続ごとに一律に例えば10ポイントずつ一定年数、例えば勤続30年まで加算され、その上限は300ポイントとします。役割ポイントのみで当該会社の属する業界や同規模企業と遜色のない金額を支給できれば、勤続ポイントは必要ないかも知れません。但し退職金の要素に年功(或は勤続年数)部分を残したいのであれば、その分役割ポイントを調整(減額)する必要があります。
3-4.ポイント制退職金の利点
本制度では、退職時の基本給の額は退職金算出に全く関連を持ちません。基本給とは別に定められた、役職別退職金ポイントと在職年数のみから算出されます。したがって、退職金額を抑えるために基本給を上げられなかったり、退職金算出には含まれない、別建ての基本給まがいの支給を補填的に行うなどの変則的な賃金制度を設定する必要がありません。これからの日本企業が社員の老齢化及び、定年延長に直面する事を考えると、年功による退職金の負担増を軽減させる制度であると思います。
ここで述べたポイント制退職金制度について、第17回 成果主義に基づくポイント制退職金制度にて詳しく解説しています。よろしければ、あわせてお読みください。