5. 評価制度(1)評価制度概論
はじめに
社員が会社を辞める原因の7割以上は上司との人間関係が悪いか、上司に不満を持ったからであるという統計があります。ひとことで言うと上司との信頼関係を築けなかったということです。上司との信頼関係を築く上で重要な項目の一つに、公正な業績評価を受けることが挙げられます。しかしながら残念なことに、多くの企業で未だ公正な業績評価が行われていないのが現状です。
1. 評価は何故必要か
① 評価を通じて社員の公正な処遇(昇格・昇給・ボーナスの支給等)を行うため。
② 評価により、社員が自己の改善すべき点を自覚し以後の自己啓発に活用するなど、人材の育成に結びつけるため。
③ 評価を行うことで、個々の社員の知識、スキル、能力をより的確に把握できるため。
④ ③の結果、社員のより適正な配置が可能となり、適材適所を進めることで組織の効率を上げることが出来るため。
⑤評価を通じて、評価者のマネジメント能力の向上を期待できるから。
上記①~⑤の結果、
離職率の低下、採用費用の削減、愛社心の醸成、持てる人材の戦力アップ、内部昇格者の輩出、社員モラールの向上等、社員の生産性の向上及び、コスト削減の達成などにも有益な影響が見込めることから、評価(評価制度)は、企業にとって必要なものと言えるでしょう。
2. 評価を正しく行なうために必要な前提条件は何か
評価を行うには、それを適正に実施できるための前提条件が3つあります。
これらの条件が一つでも欠けると、適正な評価とは言えなくなります。
①公平性の確保
評価者には性格的に、評価の厳しい人、甘い人あるいは、無難な評価を心がける人がおり、全ての人はこのような自分の属性に少なからず意識的・無意識的に引きずられます。この欠点を改善するには、自己の性格、傾向を知り、陥りやすいマイナス部分の改善に意識的に取り組むこと及び、評価者研修等に参加して評価技術を習得することが大切です。
②透明性の確保
評価基準は事前に社員に周知するものです。社員はどのような評価項目があり、各項目の重みづけはどのようであるかを事前に知ることによって、社員に働く目標が定まります。
③納得性の実現
評価は被評価者の納得を得て初めて成り立ちます。評価者は常に被評価者の合意を得られるとは限りませんが、納得は得られるように最大限の努力をしなくてはなりません。納得を得るためには、評価結果につき成果が出た良い点、努力は認めるが結果が伴わなかった点、今後改善を必要とする点等を具体的に示す必要があります。
3. 評価は誰がするか
公正な評価実現するためには、評価者を制度化する必要があります。
評価者は3人とするのが、公正で且つ実用的と考えられます。
まず、最初の評価者は本人です。自己を評価する事は中々難しい事ですが、本人の自己評価を基点にして、本人が自他の評価の差異を認識する事は、本人の将来の改善のための重要な指針となります。
次に、1次評価者は被評価者の直属上司です。
直属上司は本人の日常の勤務状況を一番よく知る立場にあるわけですから、直属の上司による評価は必ず必要になります。
そして2次評価者は、直属上司の上司です。
2次評価者の存在は、1次評価者の評価のブレや偏りを是正する役割を担います。2次評価者の評価結果を最終評価とします。
あるいは、会社によっては部門間の評価の偏りを是正するために、部長や役員レベルで評価委員会のような機関を設置し、その機関の決定を最終評価とする場合もあります。
4. 評価の実践法
実際に人事評価を行うには、基準とすべき原則や、決まりがあります。
会社によって、若干の差異はありますが、概ね次のようなものです。
4-1.評価の着眼点
評価は総合評価を志向すべきであり、多面的評価が望ましい。以下の着眼点が重要です。
① 業績、専門性(能力・スキル)、協働性、リーダーシップ、意欲、態度、自主性、責任感などの観点から実際の行動結果を評価する。期中に本人が発揮した取り組み姿勢も評価の対象になる。
② 日々の被評価者の行動を観察し、個人別に観察結果を記録する。記録帳には氏名、日付、行動結果(2-3行)、今後の対応(1-2行)欄を設ける。観察は人事評価が近づくと行うものでなく1年を通じて実施する。評価観察は客観的に行い、感情的に行わない。又観察は監視ではないことを強く自覚する。
③ 1次評価では相対評価ではなく、絶対評価を行う。他者との比較ではなく、評価基準と本人の行動結果とを照らし合わせて判断する。
④ 本人の職務改善及び育成に結び付ける意図をもって行う。
4-2.評価者が陥りやすいエラー
人間が持つ様々な特性や性格が公正な評価する時の妨げになることがあります。それらの代表的項目を以下に示しますので、十分気を付けて頂きたいと思います。
①ハロー効果: 評価する時に、その人が持つ顕著な特徴(良い面の時も、悪い面の時もある)に引きずられて他の評価も同様だとする現象のこと。
②寛大化/厳格化/中心化傾向: 人は大抵、どちらかと言うと寛大(甘い)か、厳格(辛い)か、中心(厳しい判断を嫌い中くらいの評価をする)的かである。自分の傾向を見極めて、それに引きずられないようにすることが必要である。
③期末効果: 最近時に起こった事柄の記憶はしばらく前に起こった事柄より、記憶に残りやすいので、最近時の出来事を実際よりも大きく見る傾向がある。最近時に良くできたことは、すごく良くできたように見え、失敗したことは、大失敗に見えることがあるので、注意が必要である。
④論理的誤謬: 評価項目Aの高い人は、評価項目Bも高いはずと思いこむ事。これは評価項目Aと評価項目Bの違いを理解していないことに由来することが多い。評価前に評価項目それぞれの検討が必要である。
⑤対比誤差: 自分と対比して、人を評価すること。自分が数字に明るいと、普通の人でも、数字に疎いように見え、評価を下げてしまうことがある。
反対に自分がPC操作に不慣れだと、自分から見てそれに秀でている人は、回りから見れば平均的であるにも関わらず、良くできるという評価をする。
⑥帳消し考課: プラスの評価項目とマイナスの評価項目を足して、平均的評価をする。これは1行為、1評価の原則にも反することで、良い点と悪い点はそれぞれ別々に評価する。
4-3.評価のフィードバック方法
評価を終え、最終評価が決定された後で、フィードバック面接を行います。
評価の最終段階で、その総決算的性格を有する大事なプロセスです。
その目的は中間及び年間評価結果の説明をすること及び職務改善・育成のための助言、カウンセリングを行うことです。
【フィードバック面接】
①期中・期末の2回は最低実施し1回につき30分―1時間を予定する。
②1対1で個室で行い、その間は携帯等を切り外部と遮断し、面接に集中できる環境を確保する。ただしリラックスした雰囲気を作ることを心掛ける。
③被評価者の意見を傾聴し、評価者の発言は面接時間の50%以下にする。被評価者に発言の機会を十分に与え、かつ必要に応じて発言を促す。
④被評価者の具体的な行動(事項・事例・数値・日時・場所等)を基に説明し先入観や感覚に基づく発言はしない。
⑤面接中は決して怒らない。又“だめだ″等否定的な発言は極力避ける。
⑥評価の低い点や改善項目は、初めに話し、その後に良い点を話す。良い話から始めて悪い話に移っても、最後は又良い話で締めくくる。
⑦部下の将来進むべき方向や展望につき意識的に十分に話し(目安として面接時間の20%ぐらい)その実現のための協力を約束する。
5. 評価を通じて人材育成を行う
評価結果は必ず人材育成につなげます。育成に係る留意点は以下の通りです。
①育成プランは部下と共に作成し、できるだけ部下の希望を取り入れるが、 部下の言いなりにはならない。
②プランは理想的には、短期(1年)と中期(3年位)プランを作成する。
③1年に最低1回の中間レビューを実施し、進んでいる方向性や、速度等が当初設定したものと変わっていないかをチエックする(変わっている場合は適宜修正する)。
④配置転換、OJT(業務を通じてのトレーニング),OffJT(業務外のトレーニング、研修等)、自己啓発等、最適な項目を選択し、必要に応じて人事部等と相談の上被評価者に対して可能な限り、経済的(費用会社負担)及び、時間的な配慮を行う。
6. 次回以降について
本章では業績評価の重要性及び実施方法について述べました。
評価制度は、総合業績評価制度と目標管理制度の二つの制度により運用されるのが最適であると考えます。最終的にはそれぞれの制度が有機的につながって、一つの評価制度として役割を果たすのが望ましい姿です。
次章及び次々章において、これらの総合業績評価制度及び目標管理制度について述べたいと思います。