労務リスクから会社を守る
株式会社ブレインコンサルティングオフィス 代表取締役 北村庄吾氏
さる9月9日(水)、本年3回目となるヒューマンキャピタル勉強会を開催いたしました。講師に、社労士事務所へのコンサルティング業務を展開する(株)ブレインコンサルティングオフィスの北村庄吾社長をお招きしました。
来年4月施行の改正労基法のポイントや、就業規則の整備による労務関係のトラブル防止等、かなり実践的にお話しいただきました。当日の講演内容を報告いたします。
■ 講 演
こんにちは。本日は、労務リスクと就業規則関係についてお話をさせて頂きます。
私も会社経営者ですが、特にここ2、3年会社経営がやり難くなってきたなと感じております。調査によりますと、平成20年度の労働相談件数が100万件を突破しまして過去最高。なぜなら平成13年度に個別労働関係紛争解決促進法という法律が出来まして、そこから国が労働相談コーナーを都道府県の労働局に設置して、裁判外の和解制度を作りました影響と考えられます。これを斡旋制度といいます。
日本の民事裁判の9割は和解によって決着していると言われています。特に労働問題というのは白黒をつけるというよりは、途中で和解になるんです。そうであれば労使双方が出て斡旋委員にお互いの言い分を聞いてもらい調停案を作る。それに合意すれば裁判にならずに済みます、というのが斡旋制度です。
最近は1人で加入できるユニオンであったり、労働弁護団を含めて会社に色々と主張してくる社員が増えております。平成15年度の労働基準法の改正により、会社が社員を解雇する場合に、社員から要求があれば解雇理由を在職中に開示しなければいけない、という法律改正が行われました。これが結構インパクトがあったのではないかと思います。解雇の後に、つまり会社に所属していない立場で社員の地位確認とか訴えを起こすしかなかったのが、現在は解雇の理由で不満がある場合は在職中に裁判を起こせるという仕組みになったわけです。これも労働者寄りの改正の一つで、更に影響があったのは平成18年4月に公益通報者保護法が施行になったことです。約5,000位ある法律に会社が違反している場合に、社員が行政側に告発をするという、いわゆるチクリです。このチクった社員を解雇しちゃいけませんよ、という法律が出来たわけです。ここからミートホープ、船場吉兆、鰻とか事故米とか、何を信じればいいんだという話が次々に発覚したわけです。全て食品衛生法違反です。サービス残業、名ばかり管理職という摘発にも発展していくわけです。マクドナルドやコナカでありましたが、同じく平成18年に影響力のある労働審判法、労働事件については、3回で早期結審するスピード裁判を目的とする、労働問題に関する独特の審判制度ができました。紳士服のコナカのケースは2月に提訴されて8月までに3回でスピード結審して、コナカ側が敗訴しました。名ばかり管理職という認定がされた事、半年で結審ということに非常に衝撃を受けました。こういう法律改正が労務リスクを後押ししているのではないかと思われます。
また、平成18年に男女雇用機会均等法の改正がありました。社内にセクハラの担当部署、相談窓口を設置する、或いは安全衛生法が改正になり、月の残業時間が80時間を超えた場合、社員の要望があれば医師の面接指導を努力義務とし、100時間を超えますとこれが義務規定になるわけです。経営という観点から申せば、ありとあらゆる法律で会社は縛られ、費用もかさむ状況なのかなと思っております。
この2、3年就業規則の見直しのお仕事を非常に多く頂いております。1年間で10社程度だったのが、40~50社からの依頼状況になりました。就業規則はアルバイト含めて10名以上の会社であれば、作成と届出義務があります。仕方ないからとりあえず作って出しておこう、という考えの企業が多かったと思います。従来の就業規則は性善説に基づいてあいまいな規定が非常に多く、社員を信じて話し合えば解決するよ、という感じでまわっていたのが、そうはいかない世の中になりました。というのも、人事部の人よりも会社の就業規則に詳しい社員が増えてきました。自分の権利ばかりを主張して、全く義務を果たさない「うちの嫁!」(笑)、みたいな社員も非常に増えてきまして、これも厄介な問題です。
こんな中、「会社を守る就業規則とはどういうものか」を徹底的に考えてきました。規定の工夫が出来る箇所が30箇所~50箇所くらいあり、会社寄りにも社員寄りにも出来るわけです。私どもは、そこを徹底的に会社寄りに作り込みました。
会社は「経営理念」に沿って経営をしていく訳です。経営者の方によく申し上げるのが、「真っ直ぐこの経営理念のゴールに向かって行く為の両輪は、『就業規則』と『人事制度』ではないですか?」と、最近は特に強く思っております。人事制度が無ければ、社員は生き甲斐、やり甲斐が持てない。そして、就業規則は会社がリスクを負わない為の唯一のツールと、私は位置付けております。就業規則の不備から色々な問題が生じ、裁判になる事が頻繁に起きております。みなさまも一度、自社の就業規則をじっくり見直されたらいかがですか?
ご静聴ありがとうございました。
インサイト No.22
2009年12月16日