第48回 断言したがるベトナム人

私は日頃、仕事上、スタッフに対し気づきを促すために、意図的に質問を投げかけています。

これは「他にリスクがありませんか?」「このソリューションはベストですか?」「もっと良いやり方はないですか?」「ミスがないか自分で確認してみてください」、などなどという具合です。たいがいは自信を持って「はい、他にリスクはないと思います」、あるいは、「はい、これがベストだと思います」という返事が戻ってきます。敢えてヒントを与えようと質問を投げたのに、こちらの意図を一切汲み取らず、躊躇なく、即答してしまった状況です。こちらで答えを言ってしまえばそれまでで、スタッフの自主的な問題発見スキルを向上させることができないため、何も問題がないと思っていることにどう対応すればよいか困惑する場面が多々あります。

同じように日本人スタッフに質問を投げかけたら、個人差はあるものの、少なくとも、「このボスは何が言いたいのだろう?」と考えた上で返事をします。相手の意図をしっかりとわかった上で、賢い子は新たな気付きを得て、結論を修正するのです。自分でははっきりと問題を突き止められないが、問題があることはわかるので、「素直に教えてください」と尋ねてくる子もいます。もちろん、中には全く相手の意図を汲めない子もいますが、ベトナム人スタッフほど多くないというのが私の感覚です。

そこで、こちらの意図を理解して欲しく、機会があるたびにレクチャーしてきました。

「上司から大丈夫ですか?と質問されるということは、何か問題があるということを仄めかしているのだから、しっかりと考え直した方がいいよ」と。

しかし、実際のところあまり効果はありません。そもそも立ちどまって考える習慣がないので、相手の意図を汲み取るための時間は作られません。なんとかしてパターン化された思考プロセスを止めて、その隙間に考えさせるための質問を投げかける必要があります。ただし、質問自体を工夫しなければ、同じく「大丈夫です」としか返ってきません。

質問 工夫した質問
他にリスクがありますか? 他にどんなリスクがあると思いますか?
もっとよいソリューションがありますか? これよりよいソリューションがあるはずです。もっと考えてみてください。
これだと間に合いますかね? 納期を遅らせるリスクはどんなものがあるかリストアップしましょう。

ポイントは、「問題ない」と言って、それ以降何もアクションを起こさない状況を作らないことです。ゴールを与えてアクションを促すことによって、はじめは気づかなかったことに本人自身で気がつくようになります。この作業をずっと繰り返すとスタッフにとって気づきの機会が増え、視野が広くなるにつれて、自分自身の見方が主観的なものから、客観的なものになります。そうなると、「大丈夫ですか?」と何気なく言われても、はっと気づいてくれるはずです。