第22回 転職=ステップアップ、と勘違いしているベトナム人
日本もそうなりつつありますが、ベトナムでは転職がステップアップの一つと考えられ、日常に行われます。弊社の採用支援コンサルタントもそれなりに出入りしており、最も多い転職先は事業会社の採用担当になるか、総務スタッフになります。1~2年しか勤務経験のないスタッフでも1.5倍~2倍のお給料で転職できています。弊社の教育がよかったのか、転職先では払い過ぎなのか、知るすべがないのですが、転職する本人は誇らしくステップアップできたと喜んでいます。
お給料だけをみると、アップしているのは間違いないですが、そもそも仕事の内容が変わり、キャリア形成に関して、成功しているか?大いに疑問です。
私の恩師である山崎京子さんの著書「キャリアデザイン講座」にはこの話に関係する面白い寓話があるので、引用したいと思います。
3人の石切職人
昔、1人の旅人が、ある町を通りかかりました。町で、新しい教会を建設しているところでした。建設現場では、3人の石切職人が働いていました。その仕事に興味を持った旅人は、1人目の石切職人に尋ねました。
「あなたは、何をしているのですか?」
その問いに対して石切職人は、何を当たり前のことを聞くのだとつまらなそうな顔をして答えました。
「お金をかせぐためさ!」
旅人は、2人目の石切職人に同じことを尋ねました。
「この大きくて固い石を切るために、悪戦苦闘しているのさ!」
旅人は、3人目の石切職人に同じことを尋ねました。
この問いに対して石切職人は、目を輝かせこう答えました。
「私が切り出したこの石で、多くの人々の、心の安らぎの場となる『教会』ができるのです。私は、その素晴らしい教会を夢見て、石を切り出しているのです」
一般的にキャリア観の教育もないし、議論もされないので給料が上がれば、それはキャリアアップと考えがちです。本来は達成したい意義のある目標を持ち、より大きなスケールで挑戦することこそキャリアアップアップですが、キャリアなしのところにアップというはとてもナンセンスの話だと私は思います。だから、スタッフに対して、キャリアとは何かを明確にして、キャリア達成は本人にとってどれほど重要かについても常に話して確認する必要があることを気づきました。ここは社長がやるか、あるいはプロフェッショナルなHR担当を入れて、しっかりとやってほしいところです。
とはいうものの、社会保障のできていないベトナムなので、キャリアを考える前に家族の経済を支えないといけないスタッフも多いのが事実です。自分のキャリアを犠牲にしてでも、家族を優先するケースがとても多いように感じています。とくに田舎出身のスタッフはこの傾向が強いです。だから、キャリア観の薄い待ち受け的なバックオフィスの仕事が好まれるのも理解できます。収入はたくさん上がらないが安定しているから、というのです。金銭関係でいうと、実は今までも何度か社員からお金を貸してほしいとお願いされていました。貯金(計画)がないので、急に大きなお金が必要な時にはそうやって、周りからお金を借りるのがよくあるそうです。ベトナムならではですが、Choi Hui(チョフイ)という銀行がなかった時代からの伝統的なグループ預金方式があります。一定の金額を毎月預金して、必要な時にはメンバー間で競って一番高い手数料を払えるメンバーがグループの預金を引き出せるやり方です。組合でこういう、助け合い銀行の役割をやってもらうのもありかと思います。金銭面を安定化して、キャリア形成できることを願うばかりです。
次回は、「育ってくれてありがとう」について、考えたいと思います。