第19回 家族と一緒にいたいので、仕事をやめます。

過去には何度か「長い間都会で暮らしたので、実家に帰りたい」と言って、退職を申し出る社員がいました。10年ほど日本に留学し、そのまま結婚したため、長年実家から出たままの私には、とても理解できない気持ちでした。家族の絆とはどんなものなのだろうと気になっていました。今回は、家族と一緒にいたい気持ちや理由について考えてみました。

まず、ホーチミンからバイクで4時間くらいかかる地方出身で、ほぼ毎週末実家に帰っている男性社員に聞いてみました。実家へ帰って家業の手伝いをするのだと言っていました。ご家族は果物の卸売りをしていらっしゃるので、果物を運ぶ手伝いなどをするそうですが、よく聞くと、地元の友人や親戚と色々な話をしながらベロンベロンになるまで飲んだりして、その頻度も多いらしいです。田舎に帰る真の理由は、慣れ親しんだ自分の故郷で家族や友人たちと過ごすことでリフレッシュしたいからのようです。

リフレッシュと言うと、ある社員が長い休日を利用して家族とヨーロッパ旅行をしており、休み明けに姿を見せず、電話も不通になるという事件が過去にありました。慌ててすぐ本人に連絡したら、まだ海外にいて帰れませんと言います。その後、メールしても返信がありませんでした。一週間後、ようやく会社に出て来たので話を聞くと、海外旅行中、ご両親からまだ帰らないで欲しいから仕事の休みを伸ばして欲しいと言われたので、その通りしたそうです。仕事もそれなりにできるスタッフだったので、とても残念でしたが、解雇せざるを得ませんでした。これはご両親の一方的な意向で子供のキャリアまでダメにする一例ですが、(ご家族がお金持ちだったからかもしれませんが)日本と比較して、ベトナム社会は全体的にあまりキャリアを重視していないのではないかと思いました。

また、別の事例では、優秀な成績で大学を卒業して、長期間にわたり仕事で活躍していた社員が、親の事情を背景にキャリアチェンジの意味も含め、仕事を辞めて田舎に帰ることを決意したそうです。コロナ禍でキャリア観が変わり、仕事ばかりではなく家族と過ごしたい、と希望する人が増え、そのため在宅勤務が普及しています。それにしても、キャリアチェンジまで親の意向に従うとは、親の存在がとても大きいことを再認識させられました。

ベトナムの各メディア、世論にも、仕事よりも家族に時間を割くことの重要性や、家族に時間を割かないことで後悔する事例が多々話題に上ります。キャリアを選択するより家族を大事にする考え方を前面的に押し出しています。私自身もどちらかというと仕事の比重の方が大きいですが、それでもしっかりと家族ケアしていると自負しています。仕事か家族か、という2択的な考え方ではなく、自分次第で両立できる考え方を持って欲しいですね。

そこで弊社では新たな福利厚生を始めました。社員の実家へ贈り物をするのです。社員とご両親に喜んでもらい、また会社とご両親との距離を短めることで、少しでも社員のキャリア形成を応援していただけることを期待しています。