第2回 感情表現
日本人管理者として、ベトナム人スタッフとうまくコミュニケーションを取ることは日々の悩みの種だと思います。言葉の壁がある上、習慣、考えの違いなどでどうしても深いコミュニケーションができないことが原因です。男性の多い職場ですと、いわゆる「飲みニケーション」でカバーできるのですが、若い女性の多いサービス業の職場では、なかなかコミュニケーションが取りづらいものです。しかも、「報連相」が弱いと言われているベトナム人スタッフですので、放っておくとまったく何も言ってきません。社内でベトナム人対日本人で見えない隔たりができてしまうわけです。
よくある例えで、角にごみが落ちている面接控室に応募者を通すと、中国人の応募者はポケットからごみを出して、そこに捨てる。タイ人はゴミがあることにすら気づいていない。ベトナム人は気づいたが何もしない。日本人は気づいて、片付ける、というのがあります。例え話ですが、よく当たっていると思います。そう、ベトナム人は気づいてはいるが、行動に移さないのです。弊社の日本人社員がたまに出張で事務所に来ても、ベトナム人スタッフは最低限挨拶はするものの、それ以上声をかけることもせず、ましてやランチなどに誘わないことは、いわゆる「気づくがアクションしない」ことが起因だと考えられます。
なぜアクションを取らないか、と考える時、何点か原因が挙げられます。
- 遠慮している(場合によっては人見知りに近いかもしれない)
- 外国語を話さないといけなく、間違ったら悪いと億劫に考えている
- 挨拶の他、どうやって声をかければよいか分からない
- 本質的に相手をケアする気持ちが相手を喜ばせることであることを理解していない
- (日本人が上司の場合)上司が怖い
・・・などなど
つまり、解決策としてはこちら(日本人、管理者)から声をかけるべきでしょう。
しかし、仕事をしている時に、特定のスタッフにだけ話すわけにもいきませんし、いきなり声をかけられたスタッフはびっくりしてしまいます。仮に声をかけても、なかなか会話が続きません。気軽に話せて、相手の自由(気)を奪わず、他のスタッフに迷惑かけないコミュニケーションツールを考えると、SMSやSNSのチャットが思い浮かびます。ちょっとしたことでも話せて、気楽であり、プライベート感満載というのが特徴です。
弊社では全社で業務用チャットツール「Teams」の導入をきっかけに、上司と部下、日本人とベトナム人の間で気軽にチャットができるようになりました。これまで、朝礼や部の会議でしか会話ができなかったスタッフに対しても、話せるようになりました。「元気?、昨日、良かったね。今日も頑張ろう」と一言かけてあげると、喜んで返信してくれます。何か浮かない顔をしている時には、軽くチャットから始め、しばらくして、会議室で話そうかと誘ったら、非常にスムーズに会話を進められるようになります。それから、今どきの若い社員が好きな絵文字や文字入りの絵を添えてあげるとかなり喜んでくれます。
プライベートチャットには利点がありますが、効果には限界があります。中間管理職がスタッフと適切にコミュニケーションを取れているか、スタッフのフォローアップを適切に行えているかが不透明です。また、スタッフ同士が感情をうまく表現できているかどうかも心配です。これは言語や文化の特徴によるもので、日本人には気づきにくいかもしれませんが、私の見る限り、ベトナム人同士は、外国人の日本人や欧米人と比較して感情表現が乏しく、深い関係を築くには長い時間がかかるようです。
私の考えでは、感謝する気持ちをうまく表現しないのが、根本的な原因だと分析しています。感謝される側はもちろん嬉しいですし、感謝する側は恩を受けているので、次は返す気持ちになります。感謝を表現しにくいベトナム語やベトナム文化は、ポジティブなスパイラルでお互いを高めていくには大きな壁になります。そこで、私たちはある仕掛けを行うことにしました。オフィスに感謝掲示板を置くことです。感謝掲示板には自由に感謝のメッセージを残すことができます。部下への感謝、上司への感謝、同僚への感謝など、たくさんのメッセージが書かれると、とても嬉しい気持ちになります。特に感謝される人間にはわからないように掲示板に貼っておくと、いつ気づくかと楽しみになります。みんながうまくメッセージを表現できないかもしれませんが、お互いの表現を学んでいくことで、徐々に上手になると思います。感謝する人数と感謝される人数でNo.1の社員には、HRnaviパーソン社長賞を贈ります。
みんなが喜んでくれるのが最終目標です。