第1回 ベトナム人スタッフはなぜ、相談しないのか?
弊社のスタッフに文書作成を依頼した際に、詳細な内容を教えた後、「できますか?」と尋ねたところ、「はい、できます。」と答えました。期日が来て、状況を確認したら、作成された文書は予定と異なる内容になっていました。その理由を尋ねたところ、「私はこのように理解したから、変更しました。」とのことでした。「なぜ、相談せずに、許可なく自己判断したのですか?」と聞くと、「この仕事は任せられたから、自分で判断できると思ったからです。」という答えがありました。
同じようような経験をされた方も多いのではないでしょうか。他にも多くのシチュエーションがあります。
- 仕事をお願いしたら、全く報告がない
- メールで外部とやりとりする際に、故意に上司へCCしない
- 報告がないので、今、何をやっているか周りは全く知らない
- 報告を求めたら、違うやり方でやっていることが発覚する
- なぜ違うやり方をしているか聞いたら、他のやり方のほうがよいと言う
- 全く相談がない、などなど
相談することは個人の成長や問題解決に非常に有効です。問題や悩みが自分自身で解決できない時は、他の人からアドバイスを得ることができます。他の人には異なる視点や経験があり、自分にはないアプローチを教えてもらえることもあります。相談することで自分の考えや意見を明確化でき、意見に自信を持つこともできれば、他の人とのコミュニケーションを深めることもできます。少し勇気が必要ですが、上司に責任転嫁することもできるため、相談しないより相談する方が明らかに賢明です。しかし現実には、スタッフにこのことを教えても、なかなか相談してくれないので困っています。
考察の結果、相談を避ける理由は以下のようになります。
①問題が認識されていない
自分が知らないことを知らないことも幸せな場合があります。スタッフに問題があるか聞いたところ、ほとんどの人が「問題はない」と答えていますが、これは無知が幸せというか、問題を認知していないことを示しているかもしれません(それは相談しづらいという理由にもなりうる)。問題を認知しない理由にはいろいろありますが、目標が明確でない、あるいは目標設定が不十分なこともあります。チームのパフォーマンスを数値で確認し、平均値以上のコミットメントを求めることがよいとされています。
②問題が認識されていても、自分は解決する役割ではない、又は解決する必要がないと考えられている
例えば、日本人はゴミを見つけた時、自分が捨てた物でなくても片付けますが、ベトナム人は他人のことだと考えて放置します。これは学校、家庭、社会の仕組みも関係していて、国民性とも言えます。ベトナムの学校では勉強だけが重視され、日本で行われるような掃除、給食の手伝い、運動会、部活などはありません。親がバイクで学校まで送ってくれ、給食は栄養士のおばあさんが担当し、勉強が終わったら塾に向かいます。家庭では家事はお母さんの仕事で、子供たちは勉強だけに集中すればよいと考えている家庭も多いため、何もできないまま社会人になるということもあります。職場では他人に興味を持たない、後輩に関心を示さないという環境があります。この無関心さが原因で、他人の課題を積極的に解決することができないと私は思います。
かと言って、他人への関心を強制することはできませんので、まずは、自分の仕事に対して認識や興味を持たせていくことがポイントです。仕事を自分事として認識してもらえるよう、例えば複数のソリューションを自分で考えるなど、報告の方法を明確にすることが効果的です。こうすることで、時間はかかりますが、自然と相談するような流れが生まれます。
③問題が認識されていて、解決するために相談したいが、なかなか相談するのが困難な状況である。
例えれば、先に挙げた2点はスキルを磨くハードな面であり、一方、相談しづらいという感覚はソフトな面と言えるかもしれません。人間は極めてアナログな生き物で、相談すべきと分かっていても相談しづらい雰囲気であれば、大半の人は相談を辞めてしまいます。私はビジネスオーナーであることもあり、優しい自分をいくら演じてもスタッフからは敬遠されがちです。恐らく、相談出来る優しい上司というより、厳しいオーナーというイメージの方が勝っているかもしれません。そこで、私がとる対策は2つあります。
-
①上司と相談する前に、2人以上のマネージャーと相談すること。
ラインの上司ではないので、心理的なプレッシャーから解放されるのと、他部署から新鮮な視点で意見をもらえるので、刺激を受けるわけです。
-
②評価は厳しく、それ以外は優しく。
これは私の1つの誤ちであったかもしれません。私は気分によって厳しく、あるいは優しく指導することがありました。スタッフが優しい指導を望んでいたのに怒られたり、劣悪な仕事に対して怒られずに代わりに慰められたことがあれば、スタッフは混乱することでしょう。「通常は優しいので、何でも相談してください、しかし、結果を評価するときは真剣勝負」ということを予めスタッフに伝えることもよいと思います。
相談する能力には多くの要素が関わっており、言葉で言うだけではスタッフは変わりません。KPIを含めて、①仕事の指示方法、②仕事の評価の仕組み、そして③コミュニケーションの方法がセットで関係しています。仕事の指示と評価は繋がっている歯車で、コミュニケーションは潤滑油に相当します。最初はKPIに慣れていないため揺れますが、次第にKPIを覚え、理解することでスタッフの能力が向上し、相談のできる優秀なスタッフになることがあります。