第18回 シンガポールの最新人口統計に見る、外国人活用と高齢者雇用のリアル
2025年6月末時点での最新人口統計がシンガポール政府より発表されました。総人口は前年比1.2%増の約611万人になり、昨年の約604万人に続いて600万人台を維持しつつ、過去最高を更新しました。ただし、政府が2013年1月末に発表した「人口白書」で掲げた、総人口を2030年までに690万人へ引き上げるという目標値にはまだ届いていません。現在の増加率を鑑みますと5年間で達成するのは難しいかもしれません。
人口の40%を外国人が占める ― シンガポール特有の構造
その611万人の内訳を見ると、国民(シンガポール国籍)は約366万人で昨年の約364万人からの微増で総人口の約60%を占めています。一方で、シンガポール国籍以外の「外国人」は約40%に達し、他の国にはない突出した人口構成になっています。
その「外国人」のうち、シンガポール永住権保持者(SPR)は54万人で、昨年とほぼ同水準、総人口の約9%を占めています。SPRは高齢化が進んでおり、第一世代に続く世代(子ども世代)が増えなければ労働市場の中でも流動化していきませんが、近年のEP取得の規制が厳しくなってきている現状もあり、日本人のPR保持者は60歳を超えても日系企業で採用され、活躍し続けるケースも多く見られます。
外国人労働者の増加とEP(エンプロイメントパス)規制の現実
シンガポール永住権以外の「外国人」は非定住者に区分され、約191万人となり前年比2.7%増加しており、そのほとんどが「外国人労働者」です。カテゴリー別の人数は人材開発省(MOM)から発表されるForeign Workforce Numbersに基づき分類されています。
コロナ禍後では、EP(高技能労働者向け就労ビザ)・S-pass(中技能の熟練労働者向け就労ビザ)は経済状況の改善に伴い増加に転じましたが、シンガポール政府によって2023年9月に新たに導入された「COMPASS(EPビザ申請制度)」により、EP取得の条件が厳しくなったこともあり、EP保持者は2024年12月の人数と比較して、900人マイナスとなりました。数字的なインパクトはそれほどないものの、今後も減少が続くことが予測されます。
EP更新審査の厳格化 ― COMPASSが求める“実態”
COMPASS経由でEPの更新を申請しても、MOMからは、3か月直近の銀行口座明細やオフィス賃貸契約書等を追加で提出することを求められるケースが増えています。その理由としては、COMPASS上で<提示>した給与額と、実際に<支給>された金額の乖離や、シンガポールで実態のある事業を行っているかどうかのチェックをしているもの思われます。この2点がクリアできない場合、EP更新が却下されるケースも発生しています。
建設需要とWP労働者の増加
EP・S-Passの数は減少していますが、その一方、工事現場などで勤務しているWP(ワークパーミット)保持者は約46万人と3500人増加しています。国内の随所でHDB(公共住宅)のスクラップ・アンド・ビルドの現場があり、建設需要の多さに比例しています。最近はバングラデシュ人のワーカーが特に目立ちます。
高齢化社会への対応 ― シニア人材の再活用
さらに、シンガポールでは少子高齢化も急速に進んでおり、国民に占める65歳以上の高齢者の割合は2025年に20.7%となりました。再雇用制度はあるものの、労働生産性は確実に落ちることから若手の採用を試みますが、飲食業を中心に深刻な人手不足が続いています。外国人雇用も規制があり容易ではないため、シニアの採用を積極的に取り入れ、食器下げなどの単純作業を任せることで労働力を上手に分配するケースも見受けられます。
少子高齢化は避けられない状況下では、65歳以上の高齢者も「できる仕事」を行ってもらえるような採用戦略が欠かせません。また日系企業でも永住権保持者(SPR)を有効に活用することにより、組織運営をできる体制を整えていく必要があります。