第10回 現地採用社員の保険事情

「4月」に向けて転職活動を行う求職者も増えてきました。新しい仕事を探す上の希望条件は、給料(できれば前職より高い金額)、家から職場までの通勤時間、職務内容等の主要な要素の他にも、フリンジベネフィット(福利厚生)を重要視する傾向が高まっている現状があります。

フリンジベネフィットの例として、通勤手当(自宅から職場までの公共交通機関を利用した際の往復交通費×勤務日数)を支給、飲食業の場合は食事手当(一食8ドル等)を支給しているケースもあります。ある高級品を扱う流通業では、自前で白い襟付きワイシャツを用意することを前提に、ユニフォームの手当を支給しているケースもあります。

また手当以外にも、ジムの利用権、年に一回の社員慰安旅行、目標達成時に開催される“達成ピザパーティ”など、社員の満足度を高め、魅力ある職場を提供し、社員の定着率を高めるような企画を行う企業もあります。

日本のケースでは、社会保険が充実しており、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5種類があり、全方向で補償されていますが、シンガポールでは日本のような皆保険制度はありません。しかし、シンガポール国民や永住権保持者はCPF(中央積立金)があり、その中にMEDISAVEという制度があります。この制度は入院等大きな病気の際は使えますが、通院に関してはほぼ全額自分で支払う必要があります。その中で企業としては、「通院」に関するフリンジベネフィットを設けているケースがいくつかあり、求職者も企業が通院に関する条件を細かくチェックするという傾向があります。導入例として下記の3点があります。

1)

年額通院医療費を設定しているケース:とある企業では年間600ドル、月間80ドルまでと定めており、通常のクリニック以外にも、歯科、TCM(鍼や漢方治療)も認めています。月間の上限を設けていないと、例えば『鼻の通りが悪い』との理由で整形外科において年末に未使用の年間枠600ドルのうち450ドルの治療費が請求された、という事例もあります。このようなケースを防ぐためにも、通常の通院にかかる平均的な費用を参考に、月間の上限を設定することが望ましいといえます。

2)

保険会社に加入するケース:各保険会社に生命保険と共に通院もカバーできる保険に加入することで、保険会社が提携しているクリニックで傷病休暇を申請した上で、無償で通院費がカバーできますが、提携クリニックが近くにない等制限はあります。

3)

海外旅行傷害保険に加入するケース:駐在員とその家族が入る保険で、地場のクリニックよりは日系が運営している日本語の通じる病院に医療費の負担が掛からないようにするベネフィットです。最近は駐在員以外にも、重要な現地採用社員にも加入する場合も数は少ないですが、ケースとしてはあります。以前は1年間10万円ほどでしたが今は値上がりして倍以上になっています。

保険や通院費のカバーに関しては企業によって方針はさまざまですが、社員に安心感を与える制度の一環として、最適な導入が求められます。