第9回 AWS (Annual Wage Supplement) 支給に関する注意点

年末に従業員に支給されるものとしてAWS (Annual Wage Supplement) があります。いわゆる「13ヶ月目の給与」の位置づけであり、通常諸手当(通勤手当、食事手当、家族手当等)を除く基本給 (Basic Pay) の1か月分に相当するものが支給されます。Supplement (サプリ) となぜBonus(賞与)ではないのかとの疑問が生じますが、あくまでも12ヶ月の年間所得の個人所得税をこのAWSから払ってくださいとの意味も込められています。

但し、香港のように法令で企業に義務付けているわけではなく、慣行で支給されているもので、雇用契約書や従業員就業規則の中には、「当社には、いわゆる”13ヶ月目の給与”と呼ばれるAnnual Wage Supplementを支払う法的責務はないが、社員に12月に給与と共にAWSを支払うこととする。但し、途中入社の正社員に対しては、按分で支給される。」とあくまでも支払う義務はないが、(慣行により)支給すると一文を添えています。

支給対象者は通例、1)3ヶ月以上継続して勤務し、試用期間を終えた正社員、2)12月31日時点で在籍している者、3)従業員が12月中に退職を申し出た場合、ボーナスは支給されない。と支給条件を明確に示す必要があります。これを決めておかなければ、「もらった・もらえない」のトラブルに発生するケースになる場合があります。

トラブル1:

支給算出期間の争議(X社の件)、中途採用の従業員のAWS支給算出起算日を入社の際には「入社日」からと口頭で伝えられましたが、実際には「試用期間終了後」となっており、このケースの場合は契約書にも書かれておらず、口頭で伝えられた「証拠」もないので、結局本人はMOMに訴訟をせず、いわば泣き寝入りの状態で翌1月に退社しました。

トラブル2:

雇用契約上一カ月前ノーティスで12月1日に辞表を提出し、12月31日に退職しAWSを全額支給したケースでは上述条件3)を規定していなかったため、従業員が12月31日時点で在籍していることをうまく「利用し」会社的には「もらい逃げ」された感は否めません。そのため、新たに3)の項目を追加しました。

トラブル3:

12月31日以前に退職した従業員に対しAWSを支給されなかったケースでは、前任者が就業規則を熟知しておらず、同様の別の12月31日以前に退職したスタッフには支給され、当該スタッフには支給されなかったケースで、この場合は労使紛争に発展しています。そもそも給与やボーナスの金額は他の人に言ってはいけないことですが、どこの国でも従業員同士で「シェア」されがちです。それを前提にダブル・スタンダードにならないよう慎重に進めることが重要になってきます。

AWSは1か月以上支給されることはなく、またとある企業はAWSを0.5か月にしているケースがありますが、AWSは13カ月目の給与ですので、それ以外は業績連動ボーナスやプロフィット・シェアボーナスなどの位置づけとなります。

いずれにいたしましても、支給対象者及び支給条件を就業規則等で明文化し、1年間頑張ってきた従業員への「感謝のしるし」を示し従業員のやる気を引き出すことが肝心です。