第8回 柔軟な勤務形態の導入について


シンガポールの失業率は2024年3月の統計では全体で2.1%(シンガポール人は3.1%)でその後も低水準で変動しており、雇用状況は数字の上では良いと言えます。また離職率も10%台前半と「辞めない」状況が続き、以前のように20%台からは改良されています。「辞めない」状況が続くということは他に行く必要がない、つまり労働環境や待遇面で充足しているからであり、あえて転職する理由がないことが主な要因となります。
その一方弊社に新しい仕事を求める方は増加しています。有期雇用の契約が切れた方もいれば、会社の海外移転により予期せぬ失職された方もおります。そのような方は、新しい仕事を探す上でこれまで行ってきた経験軸に基づく<職種>と<業種>を選定し、希望待遇やその他条件の希望を提示してきます。その場合の希望給与は前職で支給されていた金額と同等、それ以上の場合が多いのは、今までの経験と実績を踏まえた自信から提示する場合があります。
人事担当者(経営者)からの視点では、この人を雇った場合、何ができてコストセンターからプロフィットセンターになり得るかどうか、厳密に計算する場合、採用してから何か月後に支払う給与額の3倍から5倍の利益貢献になり得るのかを判断する必要があります。
給与面以外の待遇面の希望で最近増えてきた条件は「在宅勤務」があるかどうかです。コロナ禍により在宅勤務の習慣が定着した結果、コロナ禍が空けて出社制限がなくなった今でも在宅勤務を引き続き就職の条件にしているケースも増加しております。

そのような働き方の多様性を求めるようになったのか、今年の12月1日よりMOM(人材開発省)から在宅勤務など柔軟な勤務形態(FWA:Flexible Work Agreement)のガイドラインが発表されました。FWAの3つのカテゴリーは下記の3つに分類されています。
- フレックス・プレイス(在宅勤務、ノマド・ワーキング)
弊社のケースでは渉外担当にはノマド・ワーキングを許可することがあります。会社に戻ってこなくても出先のカフェで仕事をした方が、効率が良いと判断したためです。 - フレックス・タイム(時差出勤、コアタイム出勤)
弊社のケースでは、1名を通常より30分から1時間ずらし時差出勤させることによりコアタイム10時から17時の間に重要庶務をチームで遂行できています。コアタイム以外は自由に出勤させ集中力を高めます。 - フレックス・ロード(パートタイム労働、フルタイム社員(正社員)の仕事を複数のパートタイム社員に振り分け仕事量、責任を分散させる働き方)
これは弊社のような情報産業では、ある社員に集中している業務を、パートタイムを雇い分散させることを指しますが、分散できる仕事とそうでない仕事のすみわけが難しく調整が必要になってきます。
今回のガイドラインにより、雇用主は従業員からFWAの申請を受理した場合、職務上問題がないかどうか等検討した上で、受理後2か月以内に書面で検討結果の可否を伝える必要があり、却下の場合は、その理由を明記し代替案を示すことが奨励されます。
経営の観点からは、3つのフレックスを考慮した結果、従業員のワークライフバランスの向上を保持しつつ、業績が上がるかどうかがポイントとなり、FWAが申請された際にどのように対処するかのシミュレーションを予め決めておくことが来年の人事政策の課題の一つでもあります。