第4回 日本人採用の現状と厳しさ

シンガポールの住宅事情は、年々家賃高騰によって、厳しくなっています。最近では現地採用の方々が、家賃高騰のためシンガポールを離れるケースも出てきています。とある日本人女性のインタビューをしたところ、「シンガポールでは家賃のために働いているみたいです」と言われたことがあります。少しは落ち着きましたが、賃貸物件の家賃の更新時に60%アップなどもよく耳にしました。部屋貸しでも1000ドルを超えているケースが多く、給与がある程度上がっていないと確かに可処分所得は減り、シンガポールで働く意味も薄れていくことが考えられます。

日系企業では引き続き「日本人」を採用したい要望が多く、求人のリクエストを頂きます。要件としては「言語」の部分が一番多く、日本本社との企画書、稟議書等の文書のやりとり、それから英語のできる日本人を求めるのが一般的で、日本から出向されてくる駐在員の通訳や政府機関や現地取引銀行等から送られてくる文書の翻訳を職務分掌の中にいれているケースです。

日本語のできるシンガポール人でもいいような気もしますが、微妙なニュアンスの違いと、言語的なことよりも「商慣習」、「日系企業の社風」を理解しているか、日本的には「阿吽の呼吸」で仕事ができるかも重要項目になってきます。もちろん中には日本にかつて在住しており、配偶者が日本人で言語以外にも日本語、日本人を理解している方はいらっしゃいます。

日系の医療機関、クリニックの受付も「日本人」を必要としています。とある書き込みサイトの中で日系クリニックに電話をしたら、聞きにくい英語で適当に電話をたらい回しされ「もう二度と使わない」と書かれた書き込みを見つけました。このようなことがないように、日系クリニックでは受付には「日本人」を少なくとも1名は配置することがサービスの一環にもつながっています。

日系のファイン・ダイニングでも「日本人の給仕する人」を求めています。在住日本人へのサービスもそうですが、高級日本食を嗜むシンガポール人顧客に対しても日本的な雰囲気を出すイメージアップにつながります。また、日系小売業の催事出店にも同じ理由で「日本人を必ず1名配置するように」との条件がある場合があります。

では日本人の現地採用者をすぐに採用できるかというと、冒頭でも触れたように、住宅費の高騰と、EP取得の厳格化により絶対数は減少傾向にあります。EPの取得条件から外れている場合の代替者としてPR(永住権保持者)の方々がいますが、在住期間の長さとともに年齢も高齢化しており、多くの日系が求める35歳以下の要件を満たしていません。先般職歴も語学能力の高い60歳以上のPRを紹介したところ、「実年齢」が高いとのことで面接にも進みませんでした。若手のPRは筆者のような第一世代の次の第二世代がまだ学生ということや、社会人経験が少ない場合が多く、30代から40代のPRは労働市場にはそれほどいないのが現状です。どうしても「日本人」を職場で必要な場合は、若手に国際経験を積ませることも視野に入れ、日本から若手の駐在員を送る傾向も強くなっています。