第3回 EP取得の為の給与水準の上昇
シンガポール政府が発表した2023年の出生率(女性1人が生涯に産む子どもの数の率)が0.97と、1965年の建国以来、初めて1.00を切りシンガポール社会に大きな衝撃を与えました。日本は1.26で1.00を超えていますが、平均年齢は医療の進歩の貢献も影響しているのか49.5歳と先進国の中では世界一番目の高い水準になりました。
シンガポールの人口は現在約604万人でそのうちの外国人(一般労働者、学生、帯同家族等含む)は186万人で永住権保持者54万人を加えますと、外国人比率は約4割と年々増えており、シンガポール国民は前述の出生率低下により数も率も低下していくことが予測されています。また平均年齢は43.4歳と少子高齢化は急激に進んでいます。
人口減少とくに労働人口(15歳以上64歳以下)の減少により、人手不足は深刻化しており、シンガポールは外国人比率が高いものの、シンガポール人の仕事を奪取しているとの指摘もあり、EP(エンプロイメント・パス)を取得する条件、特に給与水準は年々上がってきております。最近MOMから発表されたものによると、2025年1月より新規でEPを申請する場合、現在の5,000ドルから5,600ドルに引き上げられることが発表されました。
2023年9月1日よりコンパス制度が導入されましたが、2005年以降は給与の情報を入れる際に最低5,600ドルを入れ込まないと、他の条項を満たしても、取得するのは難しくなることが予測できます。また5,600ドルは23歳で世界の大学ランキング上位に入っている大学(日本では東京大学や京都大学)を卒業しており、シンガポール人従業員の比率が高い企業でないと取得はできないことになります。そもそもそのようないわゆるエリート層は日本での活躍の場がいくらでもあると見込まれるので、よほどのことがない限り、それ以外の大学の新卒で海外赴任はさせない、できないでしょう。
日系企業ではどうしても「日本人」が必要なポジションもあり、弊社の顧客で40代後半、普通の私立大学出身の方の新規EPの取得を行いましたところ、給与1万ドル以上が最低給与でした。日本では50万円の月給の部長職が今の円安傾向もありますが、日本円で110万円となり、「これじゃ社長より上になってしまうよ」と言われましたが、住宅を会社から付与することで何とかクリアになり、無事取得することができました。

一方、今までEPを取得されていた方が、更新時に倍以上の給与額が必要と分かり、更新を断念するパターンも増加傾向にあります。その場合、三か月に一度、出張ベースでシンガポールに赴き管理業務を行っています。会社の会議、企業のあいさつ回り、ビジネスパートナーとの会議に出席する場合や、視察ツアー、研修・ワークショップ・セミナーへの参加者として参加する場合には、観光ビザでの入国も可能ですが、その他の業務を行う場合は<原則>就労ビザは必要となります。しかしながら不法就労の密告でもない限り、そのあたりの線引きは難しいため、今後も日本からの出張ベースが増えてくることが予測できます。但しあまりにも頻度が高いと入国管理局から目を付けられ、30日の滞在許可が14日に短縮されるケースも、実際には弊社の顧客でも実例としてありますので、バランスを取ることがかなり重要になってきます。
2025年以降新規で「日本人」を採用する場合は、人件費の計画を見直す必要があります。また、現地採用を希望しEP取得が難しい場合は、PR(永住権保持者)かLTVP(シンガポール人もしくはPRの配偶者)保持者でLOCを取得している人から探しますが、労働市場には多くはないため、難しいことが予測できます。今のところ名案が出てこないため、シンガポール政府の基準に合わせてくしかありません。