第1回 飲食店で勤務する社員の継続勤務
シンガポールで暗い気持ちになることの一つとして行きつけの飲食店の撤退事例が上げられます。日本人に馴染みのあるお店としては「大戸屋」が上げられます。2009年にオーチャードセントラルに最初のお店をオープンさせ、その当時は日本人の調理スタッフも数名勤務しておりました。日本と同じ「味」を楽しむことができており、昼ご飯時は並ばないと入れないほど人気のお店でした。
その後、日本人スタッフがいなくなり、食材もいかにも現地のものに代わり、またメニューもNot Available(売り切れ)がメニューに多く貼られるようになり、余ったものから注文しろの如く「真の大戸屋」からかけ離れていきました。そうなると客は失望し、最終的に衰退の一途となってしまいました。
またコロナ禍で一度退職した従業員が戻ってこられなくなったことも一つの理由です。開店当初に来られる日本人は「応援要員」として出張ベースで短期滞在をし、セットアップが終了した段階で帰国をするケースが多くみられます。
家賃の高騰が売り上げに追いつかなくなってきたことも、撤退の要因になっています。家賃高騰を避け、郊外やモールの中の目立たない場所で開業をしても、今度は客数が悪くなり、回転率も減り、その結果撤退につながることになっています。
実例としては、モールではなく大通りから離れた露店で焼き鳥店を経営していた知人がいましたが、リピート客はいたものの、目立たない立地というのもあったので、新規の顧客をなかなか掴めず、継続することができませんでした。
また最近は家賃も落ち着いてきたということもあり、一番の懸案事項は「人手不足」になります。ある飲食店のオーナーから、募集広告を出しても応募者が来ない、また採用してもすぐ辞めてしまうと相談を受けました。
では、即戦力となりできるだけ長く勤務してもらえるスタッフを採用する方法としては、入社して3か月、6か月過ぎたあとに正社員昇格ボーナスを支給する制度を設けたりするなど、継続勤務に対してのモチベーションを高めることも重要になってきます。またJEWEL(空港)のモールで働くスタッフには「空港勤務手当」として僻地勤務手当を支給する方法があります。
逆効果として挙げられるのは、友達や知人を紹介し、勤続6か月を超えた場合、200ドルの紹介ボーナスを支給する制度を取り入れた企業がありましたが、その知人が他の社員との人間関係のいざこざで辞職することになり、ボーナスがもらえなかった社員との仲も悪くなってしまった例もあります。
また「友達」もお互いに慣れあいで仕事をするので私語が多く、他の社員への悪口を言ったりして全体にはよくないケースも目立ちます。
既に時給を上げるだけでは継続勤務できるスタッフを確保することが難しくなっている現状があります。飲食業で働く賃金以外のもう一つのベネフィットとして、「まかない食」が挙げられます。「まかない食」が用意されることで食費の負担が減り、スタッフの仕事へのモチベーションがアップするというメリットがあります。
短期で撤退しない為には、継続して勤務してもらえるスタッフの確保は重要課題となっています。