5.外資系企業においてマネージャーとして成功する法

はじめに

 私は日本企業から30歳前半に外資系銀行に転職し、その後5社の金融およびIT関連の外資系企業で勤務しました。本稿では、その間30年にわたる勤務を通じて得た自分の体験と、周囲の同僚・上司等の観察から得た印象を述べます。本コラムでは既に「外資系企業の人事マネジメント」と題した記事を書いております。そこでは、主に外資系企業の人事マネジメントの枠組み、すなわち人事制度について述べましたが、今回はそのような組織の中でいかに適応していくかについて書きます。
 現在の日本の企業風土は、私が初めて外資に転職した40年以上前と比べ、随分変わったと思います。日本企業が多くの面で外資系企業に近づいてきたと言えるでしょう。その結果、今では、企業風土的には日系、外資系の区別が以前ほど明確ではなくなりました。それでも外資系企業の特徴と言える部分はあると思います。もちろん日本企業でも要求される要件と共通する項目もありますが、そのような項目は外資系企業においては、より強く要求されると考えて下さい。
 本稿では、はじめに外資の特徴をあげ、それらの特徴にどのように対応するかについて述べます。私が考える外資の特徴は以下です。

  • 1.成果・貢献主義
  • 2.職務記述書(Job Description, JD)
  • 3.専門能力
  • 4.英語力
  • 5.自主性
  • 6.人を使う力
  • 7.マネジメント力
  • 8.リーダーシップ力
  • 9.コミュニケーション力
  • 10.顧客重視

 これらの特徴に積極的に対応することで、社員として、マネージャーとしての成功の確率を高めることが出来ると思います。以下順次見ていきます。

1.成果・貢献主義へ対応する

 外資は、日本企業以上に業績指向が強いです。したがって、何を言っても最終的には成果を上げねばなりません。

  • ①短期成果主義でもあることを強く認識する
    特に外部からマネージャー以上のポストに採用された場合は、半年少なくとも1年以内に入社時に約束した成果のかなりの部分を目に見える形で上げる必要があります。マネージャー以上であれば、その道のプロとみなされますので、そのプロとしてのスキルや知見をすぐに仕事に応用して成果を上げることを期待されます。もちろん中長期にわたる成果も重視されますが、それはまず短期成果を上げてから初めて問われます。
  • ②成果・業績は可能な限り定量化する
    目標達成に注力し成果を上げるために行動します。業績評価は可能な限り定量化するのが外資の基本ですので、成果はできるだけ数量化します。
  • ③適応力と柔軟性を高める
    外資では、経営計画や方針が比較的頻繁に変化しますので、変化が常態なビジネス環境で、周囲の変化に素早く対応する能力が求められます。曖昧な状況の中で、最適な行動針路を見つける能力と、慣れない仕事に挑戦することを楽しむ余裕を持ちたいです。
  • ④率先実行し、リスクをとる
    チャンスがあれば、自分のアイデア等を積極的に提言し、計算されたリスクを可能な限り取ると同時に、リスクを取らない、または行動しないリスクも考慮します。

2.職務記述書(JD)に記載された内容をよく理解し、実践する

 ほぼ全ての外資系企業にはJDが完備され、業績評価はこのJDに記述された内容に照らして行われますので、その内容の正確な理解が必要です。そして、その内容に沿った実践ですが、十分実践していないと感じる項目は、遠慮なく上司に助言を求めることを勧めます。外資系企業では、昇格も昇給も業績評価の結果に基づいて実施されますので業績評価項目と密接な関係を有するJDの理解と実践は重要です。

3.専門能力を深化させる

 中途入社はもちろんのこと、新卒社員でも、最初からどの職務分野で働くかを決めて入社するのが一般的ですので、始めからスペシャリスト志向であることが前提です。

  • ①専門知識・スキルを高める
    技術、マーケティング、営業、経理、人事、IT等の自分の専門分野で、早く比較優位の地位を確立します。後述のマネジメント力も大切ですが、まず特定分野のスペシャリストとし社内が認める地位の確立が先決です。
  • ②実行プロセス
    現在保有している知識・スキルと自分が望むレベルとのギャップを客観的に評価し、明確な 期間内に達成するため工程表を作成します。項目別に最短3ヵ月程度から2年先位までの計画を立てるのが良いです。また可能であれば、自分の学習目標項目を業績評価の目標管理項目に連動させます。

4.英語力をアップする

 英米以外の国籍の外資系企業も、ほぼ全て英語を社内の共通語にしていると思います。そこで、英語の習得はとても重要な要素です。特にマネージャー以上の役職で、一部の地域や、製品(群)を任されている場合は、日本における上司の一部、および本社等にいる上司等とは英語での直接のコミュニケーションが必要です。英語が出来過ぎて困ることはありません。実用英語の習得を目指して、TOEIC、TOEFL、英検などの検定試験を目標にするのも励みになります。口頭でのコミュニケーションが増えて来ているとはいえ、メールを含めた文書での提案・報告等は必ず必要ですので、英語文章力の向上も意図して目指しましょう。

5.自主性の尊重に対応する

 米・西欧は一般的に自主独立の精神が日本より強いです。したがって外資系企業の多くは、そのようなメンタリティをもって運営されていると考えて間違いないでしょう。そのような企業風土に合わせて行くためには次の点に気を付ける必要があります。

  • ①会社が自分のキャリアを考えてくれると思ってはいけません。自分のキャリアは自分で築くという自己責任の心構えを持ち、自分のキャリアを継続的な計画と専門能力開発を通じて積極的に管理します。年に1回は自分の知識・スキルの棚卸を行い、実現したいキャリア計画を短期(1年)、中期(2~4年)、できれば長期(5年超)に分けて更新します。
  • ②会社が提供する研修プログラムをできるだけ利用しましょう。外資には無料の社内教育制度が充実している会社が多いです。数百という数のプログラムを準備している会社もあり、利用者の便宜のために、目的別・科目別に分類されて、選択を容易に行えるように配慮しているケースも多いです。基本的な役割分担としては、会社が社員のニーズをくみ取ったコースを設定し、社員が自主的に判断して自分が求めるコースを選択します。
  • ③全ての面で自主性が尊重されますので、残業も主体的に自分の判断に基づいて行います。上司や同僚に付き合うような残業は、かえってマイナスの評価を受けることがありますので注意が必要です。
  • ④同調圧力が日本企業よりも少なく、それだけ自主的な行動がとりやすい反面、全ての面でしっかりした自分の考えを持つ必要があります。

6.人を使う力を向上させる

 人を上手に使うには、指示を的確かつ正しいタイミングで出し、業務の進捗状況を部下と適宜共有する等がありますが、基本は公正な業績評価の実施と人材の育成をすることにあります。

  • ①部下を評価する
    部下から信頼を得る最高の行動は、公正な評価を行うことですので、部下の評価はマネージャーの最重要な仕事の一つと自覚します。その一環として、部下の日常の行動を客観的に観察し、部下の質問にも論理的、納得性のある対応を心掛けます。
  • ②部下を育成する
    部下の一人ひとりと目標設定を共同で行い、OJT(職場内教育)と OffJT(職場外教育)を調和させたプランを作成します。 部下の成熟度に応じた権限移譲を心掛け、社員は会社の資産(人材/人財)であり、部門や課の資産ではないことを認識します。

7.マネジメント力を身に着ける

 マネジメント力とは、組織が成果を上げるために、組織、機能、機関、資源等を活用して組織の目標達成のためにヒト、モノ、カネ等の経営資源を適正に管理、調整等をする能力です。

  • ①意思決定力を高める
    一般的に仕事のテンポは日本企業より早いです。その理由の一つは、合議制での意思決定より、社員個人での意思決定に任される機会が多い事です。明確な意思決定をするためには、社内外のデータを観察し分析する能力を高めること、および不確定な状況の中で、意思決定をするリスクに前向きに立ち向かう能力を高めることです。
  • ②一般的なスキルも高める
    前述の専門能力を深化させると同時に、計画立案スキル、交渉スキル、時間管理スキル等も高めます。
  • ③緊急意識を持つ
    仕事や問題を、重要性別と期限別に分類し、行動項目に優先順位を付けます。

8.リーダーシップ力を磨く

 リーダーシップ力とは、組織が進むべき明確なビジョン・戦略を定め、積極的に問題解決を図りながら組織の進むべき道を示し、集団を前進させる能力です。

  • ①先見性を持つ
    不透明性の中で、中長期的な視点で常に先を見据えたアイデアやプランを提案します。
  • ②信頼される
    誠実性を持って行動し、有言実行して、主張すべきことは主張します。
  • ③チーム運営に気を配り、士気を維持し高める
    部下の成果には報い、業積向上のためのフィードバックをします。意志決定に部下を参加させ、チーム内でミーティングを定期的に持ちます。
  • ④他者に影響力を行使して、目的を達成するために協力を得る
    異なる見解が存在する中で共通点を見出し、他者のコミットメント(確約)を得られるようにリードします。

9.コミュニケーション力を改善する

  • ①会議の場や、自分の意見を求められた場合は、はっきりと自分の意見を述べ、時に自己アピールも必要です。発言を求められて、“何もありません”は折角の自己アピールの機会を放棄することですので禁句です。
  • ②傾聴力を身につける
    コミュニケーションは双方向と認識し、1話したら、2聴く事を心がけます。会話の間は相  手の目を見ます。
  • ③書面および口頭でのプレゼン能力を向上させる
    短いプレゼンから始め、日常業務の中でミニプレゼンの機会を作り、プレゼンの結果について、同僚等からフィードバックを得て、次回のプレゼンに役立てます。
  • ④数字に強くなる
    数字は世界言語と認識し、問題や課題をできるだけ定量化します。分析はデータ(数字の集合)から始めます。
  • ⑤組織内で横断的な関係を構築する
    他部門の同僚等と日常的に率直な意見交換を行い、社内プロジェクトチームに可能な限り参加します。

10.顧客重視を実践する

 外資においては、顧客重視の意識が日本企業よりも日常の勤務の中により深く浸透している気がします。管理部門の顧客は社内の他部門ですが、内外を問わずに顧客重視の意識をもって仕事を行います。社員の根底に、社員は全て、誰かの役に立つことで、給料をもらっている、「私」が主役ではなくて「お客様」が主役と考えて行動するというマーケティング理論が浸透しているからだと思います。顧客重視の実践のためには、顧客情報・知識を収集し、顧客ニーズを予測し、顧客の課題に対応します。顧客案件は、社内・部門内問題に優先して取り組む習慣をつけることも大切です。

おわりに

 外資系企業の特徴とそれに対応するヒントをいくつか述べましたが、外資系企業の特徴を突き詰めてあげれば、(1)業績主義、(2)専門主義、(3)自主主義の3つだと思います。この3つは、日本企業との対比で、外資に際立って存在する特徴だと考えます。これら以外の項目も重要ですが、英語力やマネジメント力は、外資に入社してから習得しても遅過ぎません。外資に転職を考えている方は、ご自分にこの3つが備わっているかをまず確かめてから、準備をなさるのが賢明だと思います。

 今まで2年以上にわたり月1回連載させて頂きました“人事の眼”も、今回で最終回となりました。読者の皆様には長い間お読み頂き、誠に有難うございました。人事部門の方々には、人事の概要、奥行きの深さ、面白さ等をご紹介できたと思います。これらの一部でも、日々の人事業務に役立てて頂ければ幸甚です。
有難うございました。