15. 職務記述書(Job Description・JD・ジェーディー)

はじめに

 すでにご説明しました役割等級定義表とは別にその定義表の一部を使用して職務記述書(Job Description JD以下JDという)の作成が必要です。JD は全ての職務(ポジション)に要求されるもので、職務ごとに  
 その役割・使命、主要職務、日常担当業務等が記述されます。等級定義と比較して、より具体的で日々の実務を遂行する上で、指針となるものです。
 全てのJDには、その記述内容を基に役割等級が与えられます。
 JDは特定のポジションが空席となった場合は、社内から補充する場合は、有資格者の中から当該JDの条件を最も満たす社員を選任し、外部から採用する場合は、採用スペック記述書として利用します。

1. JDの形式と必要記載項目

 JDには種々のフォーマットが存在しますが、一例を以下に紹介致します。

 ① 職務(ポジション)の名称
 ② 所属部門
 ③ 勤務地・場所
 ④ 氏名
 ⑤ 指揮命令(上位職位&下位職位)
 ⑥ 役割・使命(所属部門&当該職務)
 ⑦ 主要職務
 ⑧ 担当業務及び管理承認業務
 ⑨ 財務責任
 ⑩ 必要とする知識・スキル
 ⑪ 必要とする或は望ましい保有資格
 ⑫ 必要とする或は望ましい経験内容&年数

 作成例を2パターン用意しましたのでよろしければご活用ください。

職務記述書(JD)作成例【営業部長】

職務記述書(JD)作成例【営業課長】

2. 職務の種類とJD

 原則として、JDはすべての職務(ポジション)について作成しますが、全く同じ職務が複数存在する場合(例えば、一般的なコール・センター業務やデータ入力業務等)は、1種類のJD で賄えます。
 しかし同一業務でもスキル、判断力、指導力などの面で差異を要求するポジションであれば、異なるJDが必要となります。例えば、スキルで言えば、初級レベル、他人の助けを借りないで業務を遂行できるレベル、そして、他人を指導できるレベルなどです。

3. JD の作成上の注意点

① 男女均等の取り扱いをする

どの等級、職種、職位にも性別を理由とする差別は行わない
(営業マン→営業職、看護婦→看護師、男性のみ対象→性別を記載しない)。

② 年齢制限の禁止

どの等級、職種,職位にも年齢制限を設けない
(例 35歳まで→年齢を記載しない)。

③ 国籍制限の禁止

どの等級、職種、職位にも国籍制限を設けない
(例 日本人のみ対象→業務を遂行可能な日本語能力保有者)。

④ JDと業積評価表項目の乖離がないかを確認する

JDと業積評価表項目は、完全に一致する必要はありませんが、両者の項目に大きな乖離がないことを確認する必要があります。

⑤ JD導入時に見直しが必要な諸人事制度

JD を導入することは、役割(職務)等級制度に基づいた仕事(ジョブ)に人を付ける制度を導入することでもあります。
従って人に仕事(ジョブ)を付ける、年功序列型制度あるいはその類似型制度を採用している組織では、等級制度、評価制度、給与制度、就業規則等の見直しが必要な場合が多いです。
人事制度全体の整合性を保持するためには、ぜひこの点に留意して下さい。

4. JDは誰が作り 誰が保管するか

 JDを最初に作成する場合は、各部署で該当者とその上司で共同して作成します。そのためには、定型フォームを人事部であらかじめ用意しておくと必要記入事項のモレやダブリがなく、又全社的に統一性が確保されて整ったものになります。該当部署で作成されたJDは人事部でレビューし、必要な修正を行い、該当部署の同意を得た上で完成させます。全てのJDは人事部で保管し、該当者及びその上司はコピーを保有します。当該職務内容を変更した場合は、当該部署及び人事部との共同で速やかに修正します。

5. JD の社員への公開

 JD は全ての社員へ公開すべきものです。より高位の等級や職位を目指す社員にとって、目標とする等級等の役割、職務、責任、必要とする知識・スキル及び、望まれる保有資格等をJDを通じてあらかじめ知ることは、向上心やモチベーションの高揚さらに自己実現につながります。

6. ジョブ型雇用への移行に必要なJD

 最近日本を代表するような大企業で、人事制度を一括新卒雇用型(いわゆるメンバーシップ型雇用)からジョブ型雇用に転換すると云うニュースが増えてきています。
 この転換は、ある意味では経験や年功を重視する年功制度から、業績や専門性を重視する制度への転換とも云えます。ITの急速な技術進歩に伴い、各業務分野で必要とされる技術、知識やスキルの変化のスピードが速く、過去の技術や経験の蓄積よりも将来の変化に対応できる能力が優先される時代になりました。その結果、幅広い業務をこなせる経験を保有するが、どの分野の専門家でもない人よりも、特定の領域の専門家で、その領域の進歩にもついていけるポテンシャルを保有する人へのニーズが高まります。このような状況では、今までのように人を仕事(ジョブ)につけるのではなく、仕事(ジョブ)に人をつけるようになります。これを実現するためには、仕事の内容が明確になっている必要があります。それを実現するためのツールがJDであり、ジョブ型雇用の時代に不可欠なものです。また等級や職位に対応する報酬の実現のためにも必要です。

7. 国際化時代に適合するJD

 海外企業ではJDの使用が一般的です。特に欧米人は雇用契約を結ぶ前に、仕事内容を明確にすることを要求します。仕事内容と報酬などの対価の妥当性は仕事内容が明確でないと判断できません。従って、新規採用者にも、既存社員で他の職位や業務に配転される者にとっても、JDが最も大切な寄る辺となる書類です。現在も急速に進行しつつある外国人の雇用、或は日本企業の海外進出に対応する為にも、JDの整備は欠かせないと思います。

8. リモートワークの浸透に対応するJD

 コロナの蔓延により、採用され始めたリモートワークですが、この労働形態はコロナ終焉後もより小さなスケールで引き続き採用されるものと考えられます。  テレワークでは、上司は直接見えない部下を指示・監督する事になるので、その成果を評価するのにJDが一つの評価基準となります。

9. JDのメリット・デメリット

メリット

会社がすべての社員に具体的又明確に求める役割、職務内容等を明示することにより、社員の働く方向、目標が定まり、会社・社員双方の生産性向上が見込める。
社員の業績評価を行う際に、社員の業績達成度・貢献度等を該当するJDの内容に照らし評価できるので、より公正で効率的な評価を行うことができる。
内部昇格及び外部からの採用時に、該当するJDを利用することで、より的確な採用・配置転換を実施できる。
全てのJDには該当する等級番号を記入するので、職位と等級との関連が見やすくなり、等級制度周知の一助となる。

デメリット

JDを強調しすぎると、個人主義に陥る傾向が強まり、部課やチーム内の人関係がギスギスしてくる。
JD に含まれない職務を率先して遂行しなくなり、部課やチーム内の協調関係が損なわれることがある。
専門性を重視するので、ジェネラリストの育成には向かない。
業務の属人化が進みやすく、病欠時誰もカバーできない状態が発生する可能性がある。
会社として、そのためのフォロー体制を整える必要がある。

10. JD 実施後の良い点・改善を要する点

良い点

各職務を適格な人が担っているという実感がある。
すべてのポジションに客観的な資格基準がある為、特に重要なポジションである場合、その適性について周囲の目が厳しくなり、本人の緊張感が増し、結果として、働きの向上がみられる。
採用時にJDを使用することで、採用関係者の間のコンセンサスがとりやすくなり、結果的により質の高い人の採用が増える。

改善を要する点

JD は当初上司と部下とで作成するので、時になれ合いの関係が見えて、客観性を欠いたJD となることがある。
→改善策としては、人事部の関与を深めて、全社的な質の維持・向上を図る。
ポジションの業務内容が変わっても、古いJDを使用しているケースがある。
→改善策としては、全社的に人事部が指導して、毎年JD の見直しを確実に実施する。