組織の成長を支えるリーダーシップの本質

人とホスピタリティー研究所 代表 高野 登氏

昨年12月12日開催のヒューマンキャピタル勉強会は、元リッツカールトンホテル日本支社長を勤められた高野登氏を講師にお招きしました。昨年は、東京オリンピックの招致活動で、滝川クリステルさんが「お・も・て・な・し」の言葉をプレゼンに使い、全世界に注目されました。さかのぼりますと、97年大阪に開業したリッツカールトンホテルで、高野氏がコンセプトの中心に据えた「ホスピタリティー」という言葉も、日本のサービス産業に大きな影響を与えました。当日は、当社勉強会始まって以来、初の100名を超えるお客様のお申し込みを頂き、1時間半の講演を楽しく、また熱心にお聴き頂きました。当日のレポートです。

■ 講 演

【はじめに】

 皆さん、こんにちは。ご紹介頂きました高野でございます。流行語大賞の「おもてなし」という言葉はあまり長続きしないですね。「おもてなし」と広辞苑でひいても載っておりません。「もてなし」はあります。これは生きていく我々日本人のど真ん中に有る概念の様なもの、生き様として元来存在したものだから載せる必要がなかったのだと拡大解釈をしています。今回のテーマとして頂いた「組織の成長を支えるリーダーシップの本質」も考えてみると意味がある言葉です。「組織」「成長」「支える」とは何かを、一つ一つ見ていく。支え合い成長していく組織もあれば、支え合ってダメになる組織も沢山あります。今日は皆さんと一緒にリーダーシップついて色々考えてみる時間になればいいと思います。

【モチベーションとは】

 夏頃の研修依頼内容は「4月入社時は皆のモチベーションが高い。しかし夏場になると下がり元気が無くなっていく。研修でモチベーションをあげて下さい」何となく思い当りますね。新入社員は凄く高い関門を潜り抜け入社した人。でも2割・3割が、3年以内に辞めていく。「入った時には皆モチベーションが高い。」嘘だろうと思いました。会社の存在理由や価値、社会からどう感謝され、働く意味やチームの一員として自分が発揮できる事は何か、が分かって初めて仕事をする動機が自分に芽生えてくる。だとしたら入社時にそれがある訳がない。入社した時は皆元気ですが、これは単にテンションが高いだけ。テンションが高いことも大切です。鉄が熱いのと同じで、熱いうちに打たなければいけない。鉄を打つとはモチベーションの種を相手の中に撒いていく事。すると初めてモチベーションの根が心の中に出てきます。後はそこに水をあげるように自分達の言葉で会社の目的、存在理由を出来れば毎日、可能な限り高い頻度で伝え続ける。モチベーションは上げるではなく、心の奥深いところに根差していくものだと思います。

【採用】

 仕事をする時に重力を感じる人=間違いなくこの人は自分の仕事の意味が分かっている。そういう人の集団は、皆同じ方向に重力が定まっている。こういう組織を作る事は難しい事じゃない。最初からベクトルが揃った人達が入社すれば、揃える必要は全くないです。私がリッツカールトンに在籍していた時、何の為に50~100時間を掛け面接をするか。ベクトルの揃っている人を探す為。入社前に自社の目的、理念、哲学に惚れ込み「この会社の中で自分の人生を全うしたい」という熱い想いの人を揃える。改めてベクトルを揃えるそのエネルギーは他に使う。人間力を高め、知識を増やし、スキルを付けてあげたりする方に時間を費やしてあげればいい。

【ブランド価値】

 普段から自分達のブランドの意味、役割、社会にどんな価値を創り出しているかが分かれば「あなたの会社のブランド?」「あなたの会社の仕事は何?」という問いに一言で答える事が出来ます。「ザ・リッツ・カールトンにとってブランドは何か?」「約束」。エルメスの会長に聴いたら「コントロール」とおっしゃった。これは強烈で痺れました。やるべき立ち位置を決め、ブランド=プロミスと今度はブランド=コントロールが入った時、会社のブランドは成長していく。これはリーダーの持つべきブランドマインドで、リーダーがブランドとは何かを理解しないと、社員は何を自分達の立ち位置にするのかが見えません。

【自分に指を向ける】

 営業で苦労している人の売れない理由、買ってもらえない理由は一つ。「あなたから買う理由が無いから」です。あなたから買う理由があれば、あなたを探すはずです。リーダーシップも全く同じで「スタッフが思うように動いてくれない」「最近の若い奴らが分からない」と相手に向けている指を自分に向けた瞬間、全ての謎が解けます。自分の話を聞いてもらえる理由をつくりきれていない。残酷ですが、自分に指を向けてみると、自分が成長するしかないと気が付きます。成長していくにしたがい部下との距離感や、自分のお客様や業者との距離感が分かる。コミュニケーションの取り方が全く違ったものになります。

【コミュニケーションとリーダーの役目】

 コミュニケーションとは大きく分けて3つ。1つはカンバセーション=会話。1つはダイアログ=対話。そしてディベート=対論。会話は、自分の価値観は一切変わらず価値観の無い話で、おしゃべりの延長線上。価値を生み出すことがない。ダイアログ=双方が変わる為の本気のぶつかり合い。会社の中で新しい価値を創る。自分も変わり、自分の部下もリーダーも変わってほしい時に対話が必要になります。想いを伝え、双方が価値を創り続ける事で全く新しい価値を創っていく。ディベート=相手を変える為一つの争点に沿って双方が戦い、片方だけは変わらない。私がリッツカールトンでやったのはダイアログです。どこまで社員達が成長しリーダーも変われるか。大事なのは人間性と会話は切り離す。これが混ざってしまうと相手をけなしてしまう。相手の人間性を批判するのはルール違反ですから、絶対にやっちゃいけない。ですから、研修の前に「今日はカンバセーション」「今日はダイアログ」「今日はディベート」という風にコニュニケ―ションのルールをイメージさせます。その中でお互いに意見を述べ合うことが対話です。そういうことをやりながらチームをどうしていきたいのかを考え、場をつくるのがリーダーの役目なのです。

【センターピン】

 更に上を目指すという事は、日常の当たり前のレベルを上げていく社員を育てていく事。どこの誰もがやっている事を、どこの誰もがやれないレベルまで持っていく。これしかサービスを超える瞬間を見ることはないです。人材を選択する時、どういう人材が欲しいか、どれだけ時間を掛けるかを明確にする。「人材」から「人財」に成長させ、さらに人物まで昇華させていくという「センターピン」を常に意識しなければいけいけない。リーダーが自分のスタッフに対して望むセンターピンと、働くスタッフが捉えている仕事の仕方のセンターピンが同じかどうか。ブレたり分かっていないことが多い。センターピンは自分達の提供しているサービスやプロダクトが優秀であればある程、見えなくなってしまう可能性があります。
 皆自分の中の価値観で働いているから、お客様の価値観ではなく自分の価値観で物事を見てしまう。自分の中にあるセンターピンと相手のセンターピンが価値観でズレてしまって繋がることがない。スタッフにどういう感性のセンターピンを持ってもらいたいのかを考えるのはリーダーしかいないのです。リーダーが初めの段階で「当たり前のレベル」を決め、どこまで成長すべきかを決めていく。この「レベルに到達する一つの目的を決める事」をビジョンと言いますよね。「まだ力をつけないと到達できない。」そういう事を当たり前に日々ディスカッション出来る場をつくっていく。すると微調整だけで皆が勝手に成長して行ってくれます。これが無いと厄介です。コミュニケーションや習慣から作ることができる。どういうスタッフが育つかはリーダーのセンターピン次第。大きなビジョンという北極星に向かって同じ様に目線を合わせて根が繋がる。変わってはいけないものと、変わり続けなければいけないものを見極めるのもリーダーの責任です。今日皆さんとリーダー、組織、チームというキーワードで色々考える時間になったとすれば、ここに呼んで頂いた価値があったのかなと思います。有難うございました。

インサイト No.37
2014年2月25日