リーダーシップは育成できる

コロナ禍において、私たちは急激な変革を求められています。満員電車に揺られて全員が出社するスタイルから、出来る限り在宅勤務へ、この体制の変化だけを切り取っても、社員によって反応は様々でしょう。ワークライフバランスが充実した人、出社しないと仕事にならない人、在宅に切り替えたことで明らかに仕事の質が落ちた人…様々なケースがあります。

社会が変化するのが先か、私たちが変化するのが先か。いずれにせよ、社会の変化からそう遅れてしまっては、企業は生き残れません。遅れれば遅れるほど、取れる戦略の打ち手は減っていきます。では、変化にうまく対応できる企業にはどのような人材がいるのでしょうか?変革の担い手に重要な能力のひとつ、リーダーシップについてここでは言及していきます。

リーダーシップとは何か

一般的にリーダーとは、「目標向けて、周囲を巻き込み一緒に達成する力がある人」のことを言います。では、そのリーダーの要件とは何でしょうか?ビジョンがある、高い目標を掲げる、人を育てる力がある、洞察力がある、問題解決能力がある、責任感がある、情熱がある…いろいろありますね。これらを整理すると、高い能力と高い意識があり、それらを行動で表現することができる人、それがリーダーです。行動によって、はじめて周囲はあなたの能力と意識を認識することができます。そして行動の積み重ねによって、周囲の信頼を得ることができます。行動する、ということはリーダーの要件といえます。
つまり、リーダーシップとは行動であり、優れた行動を学び、自分のものとしていくことで、人はリーダーとして成長していくことができるのです。

リーダーシップとマネジメントは異なるもの

リーダーシップ研究の世界的権威、ジョン・P・コッターをご存知ですか?コッターの「組織変革の8段階プロセス」はとても有名です。ハーバードビジネススクールの名誉教授であり、「リーダーシップ論」の著者である彼は、大企業のマネジメント層でさえも、リーダーシップを理解しておらず、マネジメントと混同している場合が多い、そのことが様々な不利益を企業にもたらしている、と言っています。優れたマネージャーが優れたリーダーとは限らない、ということです。
コッターが提唱するリーダーシップとマネジメントの違いを、以下の表にまとめました。

リーダーシップ マネジメント
役割 【変化】に対処する 【複雑さ】に対処する
プロセス ①針路の設定 ①計画立案と予算作成
②メンバーの心の統合 ②組織構築と人材配置
③メンバーの動機付けと啓発 ③コントロールと問題解決
役割が全く違いますね。複雑さに対処する能力がまだ備わっていなかったとしても、変化に対処することはできると思いませんか?リーダーシップとは、マネージャーでなくても、誰しもが身に付けることができるのです。

リーダーが理解しておくべき経営戦略の階層

リーダーが、変化に対処するためのプロセス① 針路の設定 に必要なことがあります。視野を広く、高く持つことです。与えられた目の前の仕事をこなすだけでは信頼される優れたリーダーにはなれません。経営層と同じ目線で理念、ビジョンについて考えることが質の高い結果を生みます。企業理念、企業ビジョン、全社戦略について図にまとめました。優れたリーダーは、全社戦略だけに目を向けるのではなく、その上位にある経営ビジョン、経営理念も念頭において行動しています。

「この行動は企業のためになるのか」という視点を、常に持ち続けてください。自分の仕事のことばかり考えていては、全体の効率を下げていることに気付かなかったり、混乱を引き起こしてしまい、周囲からの信頼を失いかねません。一方で、全体のことを考えて行動しても失敗するかもしれません。しかし前者の失敗と、後者の失敗では意味が全く違います。後者の失敗には学びがあり、その学びを次に活かすことはリーダーの成長にも、その部下の成長にも必要なことではないでしょうか。

リーダーシップ理論の変遷

そうは言ってもリーダーシップは生まれつきのものである、と思っていませんか?いいえ、違います。現代のリーダーシップ研究では、リーダーシップという行動、能力は開発可能であり、優れたリーダーシップとは環境によって変わる、ということが明らかになっています。

時代をさかのぼると、古くはプラトンの「国家」やマキャベリの「君主論」に、理想の国家君主(リーダー)とはどうあるべきか、という記述があります。ビジネスにおけるリーダーシップの研究は、1900年代からアメリカを中心に盛んになっていきました。1940年代までは「特性理論」といって、リーダーシップは生まれつきのものである、と考えられていたのです。
「特性理論」では、「リーダーシップは生まれもった資質である」という仮説に基づいて研究されてきましたが、普遍的な特性は発見されませんでした。そうして、次に「リーダーシップは資質ではなく、リーダーとしての行動である」という新たな仮説が出てきたのです。これが1940年代から発展した「行動理論」です。「どういう人がリーダーなのか」ではなく、「リーダーはどういう行動をするのか」ということに着目し、研究されました。しかし、この「行動理論」にも欠点がありました。「優れたリーダーの行動」のみに注目し、外部環境、例えば組織の規模や部下の存在については考慮されていないのです。経験豊富で有能な部下に対する行動と、新人の部下に対する行動は同じでよいのでしょうか?もちろん異なりますよね。外部環境もリーダーシップに影響を与える、という「条件適合理論」が1960年代から主流になっていきます。
「条件適合理論」では、全ての環境に適合する優れたリーダーシップは存在せず、環境によってリーダーシップの在り方は変わる、という考え方です。現在のリーダーシップ行動モデルのほとんどは、この「条件適合理論」が基になっています。部下が最高のパフォーマンスをするために、各部課に対するリーダーの行動は異なります。しかも、彼らが目標へ向かう道筋の途中でも変化するものです。指示型、支援型、教示型…環境によって最適な行動を選ぶ、それが優れたリーダーシップである、と現代の研究では言われています。

理論 考え方
1900年代~ 特性理論 リーダーシップは、生まれつきの資質である
1940年代~ 行動理論 リーダーシップは行動によって発揮される
1960年代~ 条件適合理論 環境によってリーダーシップの在り方は変わる
とはいえ、環境によって最適な行動を選べるようになるには経験も必要ですし、迷いもあることでしょう。当社のHCi-OPCS(管理職適性)という適性検査では、現在の能力・意識を診断し、適材適所の人事が行われるようアドバイスしています。今後開発すべき能力・意識についても言及しているので、育成のヒントにしてください。正しい方向に成長できているのか、次のステップでは何を育成すべきかを測るために、3~5年ごとの定期的な検査をお勧めしています。

参考図書:
「ジョン・コッターの企業変革ノート」 ジョン・P・コッター 2003年
「リーダーシップ論」 ジョン・P・コッター 1988年
「新しいリーダーシップ‐集団指導の行動科学」三隅二不二 1966年